セ界最強打線の“源泉”は、1・2・3番トリオ
広島が37年ぶりにリーグ連覇を達成した。2年連続で2位以下に10ゲーム差をつけた強さは数字にも見て取れる。特に攻撃陣は打率(.273)、本塁打(152)、盗塁(112)、得点(736)、安打(1329)、打点(705)でリーグトップを記録。その攻撃陣の安定感と破壊力の源になっているのは、タナキクマルの1・2・3番トリオだ。
まずは「1番・田中広輔」。広島の遊撃手としては初めて「2年連続全試合フルイニング出場」を果たした鯉の切り込み隊長は、自身初のタイトルとなる盗塁王(35盗塁)と最高出塁率(.398)を獲得。このダブルタイトルはオリックス時代のイチローと山田哲人(ヤクルト)以来の快挙という価値の高さだ。打率(.290)もキャリアハイで今季セ・リーグでは丸と田中の2人しか達成していない100得点以上をクリア(105)。89四球は筒香嘉智(DeNA)、山田(ヤクルト)に続くリーグ3位とレベルが高い。
「2番・菊池涼介」は打率こそ.271と、最多安打のタイトルを獲得した昨シーズンに比べると見劣りはするものの犠打(30)は3年連続リーグ1位。インローのボールを右前に運ぶ技術に加えて、思い切りの良さとパンチ力で自己記録となる14本塁打を放つなど、走者を「送る・進める・返す」打撃はチーム屈指である。
そして「3番・丸佳浩」。「核は丸。得点できるかできないかは、丸にかかっている」と石井琢朗コーチが言うように、攻撃における重要な役割を担った今季は、セの最多安打(171)を放って自身初の打撃タイトルを獲得、3年ぶりの3割超えとなる打率.309をマークしたほか、109得点は両リーグトップ。出塁率は田中に次ぐリーグ2位(.398)。23本塁打、92打点は自己ベスト。例年、各打撃部門の上位に名を連ねていたリーグ屈指の“オールラウンダー”は、今シーズンのMVP最右翼に挙げられる活躍を見せた。
こうしてあらためてみると、1番打者が盗塁王&最高出塁率で、2番打者が3年連続の犠打王、そして3番打者が最多安打&最多得点という成績なのだから、攻撃力&得点力が高いのも当然だ。
主力の離脱を補った“伏兵力”
今シーズンの広島の強さを演出したもう一つの大きな要因に、いわゆる伏兵の存在が挙げられる。その象徴といえるのが、投手であれば、薮田和樹と岡田明丈の2人。
思えば春先の投手陣は、開幕投手を務めたエースのジョンソンが早々に離脱。シーズン当初、「広島連覇」の条件として野村祐輔とジョンソンの2枚看板がフル回転することが大前提とみられていただけに、その片翼をなくすことは緊急事態のはずだったのだが、2年目の岡田が4、5月で5勝(1敗)を挙げるなど順調に白星を重ねれば、中継ぎとしてスタートした薮田も、野村の一時離脱の代役として初先発した5月30日の西武戦で6回無失点と好投すると先発ローテに定着。終わってみれば15勝3敗(うち先発で12勝)で最高勝率(.833)のタイトルを獲得するなど大躍進した。ちなみに昨季2ケタ勝利を挙げた黒田博樹とジョンソンの勝ち星合計は25勝(黒田10勝、ジョンソン15勝)、対して今季のヤブオカコンビは27勝(岡田12勝、薮田15勝)。この2人のブレイクがなければ、広島の連覇はあり得なかったかもしれない。
一方、打撃陣で層の厚みを感じさせたのが、安部友裕と松山竜平の10年目コンビだ。
安部は高卒10年目にして三塁のレギュラーポジションを獲得、規定打席に初到達での打率.310と17盗塁はともにリーグ4位の好成績。得点圏打率.336のハイアベレージで47打点と、下位打線のポイントゲッターに成長した。
そして、シーズン終盤戦のMVPともいえる働きを見せたのが大卒10年目の松山だ。チームがDeNA相手に3試合連続サヨナラ負けを食らったカードの2戦目(8月23日)で鈴木誠也が負傷離脱するという痛すぎる状況のなか、続く25日の中日戦から「代役4番」を務めた松山は、先制適時打を含む4安打4打点の活躍で勝利すると、ここからチームは息を吹き返したのだから「地獄に仏」ならぬ、「鯉の窮地にアンパンマン」だった。
松山はその後も4番に座り、9月の成績は68打数29安打で打率.426。5本塁打、23打点はともにリーグの月間トップ。今季の通算成績は打率.326、14本塁打、77打点。規定打席不足ながら稼いだ打点「77」はリーグ8位の高数字である。
「逆転の広島」を演出した中継ぎ陣だが…
「逆転の広島」が代名詞となったように、今季は優勝を決めた時点で84勝中41勝が逆転勝ち(昨年は89勝のうち45勝が逆転勝ち)だ。その要因は粘り強さと、DeNAのラミレス監督が「瞬きしている間に逆転されていたことが何度も…」と漏らした一気呵成の爆発力をもつ攻撃陣によるところが大きいのだが、“そこ”に至るまでの中継ぎ陣の踏ん張りも見逃せない。今季、勝ちパターンの中継ぎ陣を形成したのは今村猛、ジャクソン、中崎翔太、一岡竜司、中田廉の5人で、平均防御率は2.07という安定感だった。
ただ、中継ぎ陣に関しては拭い切れない不安材料もある。
登板過多である。
5人の登板数を見てみると、今村68試合、ジャクソン60試合、中崎と一岡が59試合、そして中田が53試合。このうち今村、ジャクソン、中崎の「中継ぎ・抑えの3本柱」は、昨季もそれぞれ順に67試合、67試合、61試合に登板しているのだが、日本シリーズでは特にジャクソンと中崎が精彩を欠き、試合終盤に痛打を浴びて日本一を逃した苦い経験がある。
そこで今季は中継ぎ陣の負担軽減を図るべく、開幕当初から緒方孝市監督と畝龍実投手コーチは「中継ぎ陣のローテ制」を模索、一岡が59試合(昨季は27試合)、中田が53試合(同8試合)に登板して一見、負担の分散に成功しているようにも見えるのだが、前述したように3本柱の登板数は今村が「増」、ジャクソンは7試合減も60試合に登板、中崎は腰痛離脱がありながらも前年比でわずかに2試合減と、昨年とほぼ横ばいの数字が並ぶのだ。
しかも、5点差以上つけたゲーム展開でも今村、ジャクソン、中崎を投入する場面も目についた。たとえば、4月13日巨人戦、7月28日ヤクルト戦では6点差、5月14日巨人戦では7点差がありながら今村を投入、7月1日には7点差のある9回、7月30日ヤクルト戦には9点差のある8回にジャクソンを投入、7月19日は11点差のある8回に中崎を投入している。
特に、投手陣にとっては負担の大きい8月は21試合中、今村は13試合、中崎は14試合に登板。この頃の中継ぎ陣はこぞって球威を落とし、痛打されるケースが目立った。
中継ぎ陣の出来と起用法が、CS&日本シリーズのカギ
その“悪例”が、8月22日からのDeNAとの3連戦だ。3連戦初戦は8回表終了時点で5対1の完勝ムードも、最終回に今村がロペス、宮崎敏郎に本塁打を浴びて逆転サヨナラ負け。2戦目は2回までに5点を奪いながら、最終回に中崎、延長10回に中田が打たれて二夜連続のサヨナラ負け。そして3戦目は6回まで4対1とまたまた優位な試合展開も一岡、中崎がつかまり、3試合連続でサヨナラ負けを喫したのだ。
3連戦の最中には、谷繁元信氏が「(広島は)昨年と比べてブルペンに不安あり」と指摘したように、中継ぎ陣の失速は顕著で、一度崩れ始めると歯止めが効かなくなるパターンは、昨年の日本シリーズで日本ハム相手に4連敗したケースと同じであった。1年前のこと。地元開幕した日本シリーズで幸先良く連勝スタートした広島だったが、3戦目からの4連敗は、大瀬良大地、ジャクソン、中崎、ジャクソンとすべて救援陣が打たれて悪夢の4連敗。「救援陣で全4敗」と「4試合連続逆転負け」は日本シリーズ史上最多の不名誉な記録だ。
この時も中継ぎ陣の起用偏重と登板過多は明らかで、今村とジャクソンは揃って6連投と全試合に登板。過去の日本シリーズでの6連投は56年の稲尾和久(西鉄)と03年の吉野誠(阪神)のわずかに2人。広島は一度のシリーズで「2人の6連投投手」を生み出したことになるわけだ。かたやブルペンで控えていた一岡、福井の出番はゼロ。ロングリリーフの効くヘーゲンズは2試合に登板したのみだ(うち1試合は打者1人で交代)。
その投手起用について、広島首脳陣のなかには「普段(シーズン)通り」を強調するコーチもいたが、こと短期決戦に関しては「普段通り」と「短期決戦仕様」の住み分けおよび臨機応変な策は必要だ。特に試合の流れ、調子の良し悪しの見極め(見切り)は、それこそ首脳陣の腕の見せどころである。
まもなく、クライマックスシリーズのファイナルステージが始まるが、広島のカギ&キーパーソンはズバリここ、中継ぎ陣の出来と起用法にある。
ファーストステージの2チームを見てみると、阪神は粘り強い戦いを身に付けているうえに、福留、鳥谷、そして糸井というベテランは勝負どころでの読みに長けている。広島からすれば相性の悪い相手ではないが、5月6日の甲子園での戦いでは9対0から世紀の大逆転負けを喫した苦い経験もある。短期決戦の早い段階で試合をひっくり返されるようなことになると、その後の戦いに影響が出てきても不思議はない。
一方のDeNAには筒香、ロペス、宮崎といった中軸は広島に負けず劣らずの爆発力&破壊力があるうえに、前述した横浜での3連戦で広島相手に3試合連続サヨナラ勝ちを食らわせた実績もある。今シーズンを通して、唯一広島が負け越した相手(12勝13敗)もこのDeNAだ。一筋縄ではいかない戦いになることは間違いない。昨季の日本シリーズ、そして今年の屈辱的な負けを広島がどのように活かして短期決戦に挑むのかに注目だ。
<了>
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