けちくさく17年前に逆戻り

 日本陸連の発表によると、今年の世界選手権での報奨金は1位300万円、2位200万円、3位100万円、4位80万円などとなっている。前回の2019年ドーハ大会は1位に1千万円、2位が500万円、3位に400万円、4位で150万円だった。3年前には男子競歩の50㌔で鈴木雄介(富士通)、20㌔で山西利和(愛知製鋼)の2人が優勝し、最高額のボーナスの対象となった。比較してみると、今回の金メダリストより3年前の銅メダリストの方が高額となっている。

 今年と同じレベルの額を探っていくと、2005年ヘルシンキ大会までさかのぼらなければならない。2007年大阪大会から1位に与えられる額が400万円に増え、2015年北京大会からは優勝者には1千万円の設定。2017年ロンドン大会とドーハ大会は同水準だった。つまり、17年前に逆戻りしたことになる。

 2020年に本格化した新型コロナ禍。競技会やイベントの中止が相次ぐなど、スポーツ団体に与えた打撃は大きく、日本陸連も例外ではない。例えば、2020年4月1日から翌年3月31日までの決算報告書では、正味財産合計の項は前年度の約30億8千万円から約29億5千万円と約1億3千万円のマイナスとなった。

 今年の4月1日から来年3月31日までの事業計画にも、危機感が表れている。「長く続くコロナ禍で本連盟の経営基盤は揺らぎ、一部の事業においては活動規模の縮小もしくは機能を停止させている状況にあり、経費削減に努めるとともに、収益構造を再構築する」とうたっている。とはいえ、報奨金の大幅カットに手を付けてしまうことは選手のモチベーションへの影響を拭えず、陸上界の外から見るとけちくさくも映る。

話題になったボーナス

 大学を卒業すると実業団に所属して活動を続けるのが日本の主流。とかく会社のPRや社員の結束力向上などに結び付けられ、長距離では駅伝を重視する傾向にあると指摘されている。アマチュアリズムの象徴としても見られてきた環境下で、近年は個人の秀でた成績への報奨金が話題になってきた。

 代表的なものに、マラソンの日本記録更新に1億円のボーナスを授与した施策が挙げられる。これは日本実業団陸上競技連合が2015年に導入した制度で、東京五輪に向けた強化が主眼だった。2018年2月の東京マラソンで設楽悠太(ホンダ)が16年ぶりの日本記録更新となる2時間6分11秒をマークした。目録を受け取った設楽は「心の中は半端なくうれしい」と素直に語っていた。

 同じ年の10月に今度はシカゴ・マラソンで、大迫傑(ナイキ)が2時間5分50秒の日本新記録を樹立。贈呈式では「少しでも陸上にプラスになることとかを考えたい」と話していた。大迫は2020年3月の東京マラソンで2時間5分29秒をマークして日本記録を塗り替え、2度目となる1億円の報奨金を獲得。ボーナス制度を敷いたのと軌を一にするように男子マラソンの日本新記録が次々に誕生した。

 ただ好タイムが続出して報奨金を次々に贈呈したため、原資となる基金の残高が減少する事態にも陥った。結局、東京五輪の選考が終わって制度が終了。2021年2月のびわ湖毎日マラソンで日本選手として初めて2時間4分台をマークし、現在の2時間4分56秒の日本新記録を打ち立てた鈴木健吾(富士通)が1億円を受け取ることはなかった。

夢の象徴

 2017年ロンドン、前回ドーハと日本勢は直近2大会の世界陸上でメダル三つを獲得している。今年の大会では、東京五輪で池田向希(旭化成)が2位、山西が3位に入った男子20㌔をはじめ競歩に有力選手が集まる他、東京五輪ではバトンパスをミスして途中棄権に終わった男子400㍍リレーの戦いぶりが興味深い。

 中距離にはフレッシュな選手が名を連ねる。男子3000メートル障害の三浦龍司(順大)は、19歳で出場した東京五輪で7位入賞を果たした逸材だ。4月下旬の織田記念では専門外の5000㍍に出場し、ラストスパートで海外勢を逆転して制するなど走力アップを証明している。女子では東京五輪1500㍍8位で22歳の田中希実(豊田自動織機)が注目の的。世界の強豪の中でも物おじしない積極的な走りは日本人離れしており、頼もしいばかりだ。また男子短距離では、東京五輪で不調だったサニブラウン・ハキーム(タンブルウィードTC)も復調の気配を見せている。

 ボーナスの存在はそのスポーツに夢があると捉えられる。東京五輪後には、フェンシングの日本勢として史上初めて金メダルを獲得した男子選手に所属先からサプライズで1億円の報奨金が与えられて大きな関心を引いた。陸連からのボーナスは大きく減ったが、そんな状況を打破するようなパフォーマンスを披露すれば、必ずや知名度アップや競技の活性化につながっていく。


VictorySportsNews編集部