さらに、暗号資産アルゴランド(ALGO)の開発を手掛けるブロックチェーン(不正・改竄不可能な取引履歴を実現する暗号資産・仮想通貨関連のデータベース技術)企業アルゴランド社ともW杯における地域スポンサー契約を締結。2023年女子W杯の公式スポンサーとなり、FIFAの技術パートナーとして公式ブロックチェーンプラットフォーム「FIFA+ Collect」を提供することも発表した。

 「FIFA+ Collect」は、W杯の試合の名場面などをNFT(代替不可能で固有の価値を持つデジタルデータ)として収集できる、いわばデジタル上のトレーディングカードのようなサービスで、今や米大リーグMLBや日本でもJリーグ、プロ野球・横浜DeNAベイスターズなどが進出。スポーツ界の新規ビジネスとして大きな注目を集めている。「FIFA+ Collect」では、ランダムに選択された3つの試合シーンがセットになった「Genesis Drop」(4.99ドル)などを販売。NFTを売買できるサービスも展開される予定で、市場拡大が期待されている。

 また、近年サッカー界で大きなうねりをもたらしているファントークン市場も、W杯をきっかけに盛り上がりを見せている。ファントークンとは、スポーツチームなどがファンとの関わりを強化することなどを目的に独自に発行する仮想通貨の一種。ブロックチェーン技術を活用したもので、保有者にはユニホームのデザイン決定などチーム運営に関わる投票権、選手との交流会などの企画に参加できる権利などが付与される仕組みだ。コロナ禍で入場料収入が頭打ちになる中、ファンとの貴重な接点を強化するツールとして、大きな注目を集めているビジネスモデルとなっている。

 こうしたファントークンは、欧州サッカー界を中心に2020年頃から広がりを見せており、バルセロナやラツィオなど欧州各国のクラブが導入。プラットフォームアプリ「Socios.com(ソシオスドットコム)」などと連携して発行・売買できる仕組みを構築している。この動きは各国の代表チームにも波及しており、2021年5月にアルゼンチン・サッカー協会が「Socios.com」と提携して、世界初の代表チームの公式ファントークン(ARG)を発行。今年1月には仮想通貨取引所バイナンスとも契約を交わし、公式スポンサーにも就いた。

 こうした動きは他国にも広がり、ブラジル・サッカー連盟はトルコのブロックチェーン企業Bitci(ビットシー)と提携して、ブラジル代表のファントークン(BFT)とNFTをリリース。イタリア代表(ITA)、ポルトガル代表(POR)、スペイン代表(SNFT)、ペルー代表(FPFT)などもファントークンを発行している。

 これらはビットコイン(BTC)やリーサリアム(ETH)などと同様に取引所で売買されており、W杯が近づくにつれて、出場国のファントークンは価格面でも盛り上がりを見せている。仮想通貨情報サイトCoinGeckoによると、W杯開幕3日前の11月17日午後4時現在、過去7日間でスペイン代表は78%、ブラジル代表は89%上昇。仮想通貨取引所大手FTXの破綻による影響もあり、BTCやETHが暴落する最近の市場動向の中でも比較的回復が早く、主要仮想通貨のパフォーマンスを上回る数字をたたき出している。

 これまで、W杯をめぐる経済活動といえば、勝敗などを賭けの対象とするスポーツベッティングが主流だったが、ファントークンはそれに代わるものとして発展する気配を見せており、今回のW杯の結果によっても、その価値が上昇下降していくものと思われる。欧州のクラブでスポーツベッティング企業の広告掲出などが規制対象となる中、仮想通貨関連、ブロックチェーン企業が存在感を示し始めているところも注目すべきポイントだ。

 NFTを活用したファンタジーフットボールゲームを提供するSorare(ソラーレ)がフランス・サッカー連盟とライセンス契約を結んでフランス代表チームのNFTトレーディングカードを発行。日本では、2010年W杯南アフリカ大会で得点王に輝いた元スペイン代表FWダビド・ビジャ創設の選手育成機関「DV7 JAPAN」が、ファントークンによるクラウドファンディング型の支援を募るなど、新しい取り組みも出てきており、W杯がこうした動きを活性化させる可能性もある。

 もはや、W杯も無縁ではいられない仮想通貨業界。もちろん、金融商品取引法の規制対象となる「有価証券」に該当する可能性があることや、購入者にとって価値変動リスクがあることへの周知など、理想と現実をしっかり把握することが必要となるが、日本も、また新たな強化、あるいは強化費獲得の手段として、こうした世界の潮流を注視していく必要がありそうだ。

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NFTファンタジーフットボールゲームを提供するSorare。フランス代表チームのNFTトレーディングカードの発行も行った(画像は公式サイトより引用)

VictorySportsNews編集部