チアを鑑賞するときのおすすめポイント
〈私的チアを楽しむ鑑賞術〉についてお話しします。大きく3つあげますね。
まず1つ目は、ステージに入ってきてから位置につくまでの「表情」です。観客が初めてチームを目にした瞬間に、笑顔と緊張感のすき間からワクワクが伝わってくるか、アイコンタクトをして気持ちを一つにまとめているか、勢いのままでワーッと入ってきてドタバタのままセットしてしまうとか、いろいろなチームがあります。審査員の方に話を聞くと、「入場の段階で世界レベルかどうかわかる」とよく言っています。
2つ目は「移動」です。演技が始まって、技と技の間の移動時間でどんな表情をしているかとか、ミスをしたりポンポンを落としてしまった後のみんなの対応とか、細かいところなのですが人間味があふれていて、チームとしてのまとまりを見るのに移動時間は面白いポイントかと。
3つ目は「推し」ですね。誰か1人、なんかいいなと感じた人を追いかけて見てみると面白いですよ。気迫がダイレクトに感じられますし、次の技のことを考えるふとした瞬間だとか、ずっと1人を見ていると伝わってくるものがたくさんあります。
ちなみに曲やユニフォームに着目するのもおすすめです。音楽やコスチュームはチームによって違いますし、サインボードは自分たちで作ったりもします。振り付けについてはジュニアチームだとコーチがやりますが、社会人チームや代表クラスはコレオグラファーという演出のプロが担当します。
今回の世界選手権では、私が全部の曲を選んだので構成や演技テーマもすべて考えました。「このリズムいいな、踊りやすいな」という曲でも、実は歌詞がドロドロの恋愛ソングだったり歌詞にFワードが入ってたり、日本人だと気づきにくいポイントがたくさんあるんです。
そうした初歩的なミスをしないように注意しつつ、Teriyaki BoyzやSteve Aokiなど、欧米圏でも知名度がある日本に関連する音を遊び心で入れながら、今回のテーマは《歴史の始まり》としました。「ただの挑戦者ではなく、私たちはここに勝ちにきた。ここから新しい日本のチアの歴史が始まるんだ!」という決意を伝える選曲・構成にしたつもりです。
チアにおける世界と日本の現在地~これから
世界を見渡すと、文化的にもスキル面でもアメリカが頭一つ飛び抜けています。他の国々が必死でアメリカを追いかけている構図ですね。今回の世界選手権で、日本代表は全部門でメダルを獲得するなど快挙を遂げましたが、だからこそ現時点における日本とアメリカ、日本と海外チームの距離感やレベルの差を、選手一人ひとりが肌で感じられたことにものすごく価値があると思っています。
大事なのは「どれぐらい離れているのか」を知ることでしょう。そればっかりは海外の大会に参加して自分の肌で感じてみないとわかりません。だからこそ、海外生活や海外チアのすごさと強さを肌で知っている私が、全力で日本チアを底上げしていきたいんです。
私の想いは、日本代表を強くしたい、ただそれだけです。目標は絶対王者であるアメリカに勝つこと。ホントにそれだけ。カナダやメキシコ、南米をはじめ、フィリピン、台湾などのアジア諸国も、ノルウェー、デンマークなどの北欧各国もすごく強いです。ただただ、アメリカは別格です。
でも全然悲観的じゃないですよ。世界大会で優勝して、ちょっと近づくどころか差が見えてきたことで何をすれば近づけるのか、その道すじが見えてきましたからね。もちろん私だけではなくて、世界のチアを見てきた人たちもたくさんいて、同じ目標を持っている人も数多くいます。そうした方々がそれぞれ培ってきたものを、一つに融合するのが私の役割なのかって思っています。
これからも一人でも多くのチアリーダーを増やして、チアリーディングの魅力を多くの方に知ってもらいたいその一心です。現役世代もOB・OGも一つになってチアを広めていくために、まだまだ私にやれることがあると信じています。
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<笠原園花>
1992年生まれ。高校でチアリーディングと出会い、大学卒業後は社会人チームに所属。2016年、日本代表として出場した世界大会で海外チームの演技に刺激を受け、17年よりオーストラリア・メルボルンで活動。18年にクラブチームの世界大会「チア・ワールド」男女混成部門で世界6位に入賞。オリンピック種目候補として注目を集める競技チアリーディングの魅力を広め、次世代を担うチアリーダー育成に取り組む。東京都稲城市出身。