日本へ帰国…そして、日本全国を駆け巡るチアの育成に力を注ぐ【競技チアリーディング・笠原園花インタビュー vol. 4】

海外と日本で異なるディレクターの役割

 私は現在、全国のチアチームのコーチングと並行して、埼玉県富士見市を中心に活動している《Cheerleading Team Phoenix》というチームのディレクターを勤めています。メンバーは60人ほど。男女混合チーム(コエド)に加えて、去年から女子チーム(オールガール)を立ち上げました。

 学生さんも社会人も、習いごと感覚の方もチアリーダーとして行けるところまで行きたい本気の方もいます。いろいろな人のチアとの向き合い方を間近で見ることができて、すごく刺激になっています。ディレクターとしてステージの構成を考えたり、これまでになかった視点から演技を見ることもすごく新鮮です。

 意識しているのは、丁寧なコミュニケーションです。シーズン初めに一人ひとりと面談をして、「今の自分に足りてないものは?」と聞くのですが、大学生や社会人ぐらいになると自己分析がしっかりできています。今の自分はここで、他のメンバーはこういう状態だから、全体を俯瞰すると今の自分はこのスキルを伸ばさなくては——というロジカルな考え方ができます。

 ただ、高校生やジュニア世代にそこまで期待するのは正直難しいです。あなたは今この技ができてこの技ができないからポジション的にはここなんだよと、しっかり目を見てわかりやすい言葉を選びながら、自分の頭で考えてもらうようにしています。

「考えるチーム」ってめちゃくちゃ強いんです。考えて考えて考えて。思いついたことを試してみて、ちょっとずつ変えてみて。その繰り返しがすごく大切です。コーチが練習メニューをバチッと組んで、言われたことをしっかりやるチームと、どうしたらできるかみんなで考え、そのための時間をちゃんと与えるチームがありますが、後者の方が伸びしろがあると感じています。

 実は海外と日本のチームで、このあたりが明確に違うんです。

 日本のチームは、自分たちで練習を組み立てて、自分たちで話し合って、何かクリアすべき課題が生まれたら自分たちで解決してというチームが多い一方、海外ではトップコーチからの情報発信とデータをもとにして、ディレクターがトレーニングをしっかり見守りというように、それぞれの役割が完全に分業化されています。

 私自身、オーストラリア時代に後輩や同僚に“勝手に”アドバイスをしていたと見られて、「それはきみの仕事じゃない」と言われたことがあります。

 ビジネスのシチュエーションでも同じかもしれませんね。あなたは「これ」をやる人だとされて、それ以外の仕事はしなくていい、むしろするべきじゃないということが多いですが、日本には「総合職」と呼ばれる働き方があるように、幅広い領域の仕事を手がけることが成長につながるといった風潮が根付いているように感じます。

オーストラリア時代のコーチと(笠原園花・提供)

コーチとして参加した世界選手権で日本チーム初の優勝

 私は、2023年にアメリカ・フロリダで開催された「ICU世界チアリーディング選手権大会」では、日本代表選手団のヘッドコーチとして指導にあたりました。

 今回の代表チームメンバーは個人トライアルで決めました。チーム単位で募集をして優劣を付けてではなく、「我こそは!」という方に手をあげてもらってセレクションするスタイルです。ビデオ選考からスタートして、月1回ペースで練習会を開いて、一人ひとりの技量を見極めていきました。

 選ぶ基準の一番はスキルです。国を背負う代表としての演技力・表現力があるかどうか。そして「この選手をずっと見ていたい!」と思えるような魅力にあふれているかどうか。笑顔一つとっても、ただの笑顔じゃダメなんです。ひと目見たら惹きつけられる選手っているんですよ。

 あとはコミュニケーション力です。言うなればみんな、バラバラのチームから集まってきていますからね。異なるバックグラウンドから集まってきた一人ひとりが、チームとして機能するかどうかを見ていました。限られた練習時間の中でコミュニケーションをとれているか、チアスピリットにあふれているか——そうして最終トライアウトを行い、去年末に代表メンバーを選出しました。

 私がコーチとして入ったのは、男性14名・女性8名の男女混成コエドチームです。16歳の高校生2名と、あとはみんな20歳以上で社会人メインの経験豊富なメンバーをそろえました。代表選手が決まった年末から4月の本番に向けて、週1回ペースで練習を続け、会場となるフロリダのディズニーワールドに入ったのはなんだかんだで本番2日前。バタバタの現地入りとなりましたが、緊張感と一体感を高めていざ当日を迎えました。

 結果は……日本のチアリーディングで史上初の世界一! これまで送ってきたチア人生の中でも、一番うれしい出来事になりました。

 実は男女混成チームは、優勝はおろかこれまで決勝の舞台にすら進むことができなかったんです。欧米選手に比べて小柄な日本人チアリーダーは、海外審査委員の前だとどうしても不利にならざるをえず、なかなか結果を出すことができませんでしたが、この優勝で世界でも勝負できることが証明できたと思います。日本代表チームの演技はYouTubeに動画があがっているので、ぜひチェックしてください。

 今回、世界大会で優勝したことで、チアリーディングというスポーツが広く注目してもらえました。これまで興味もなかった方々がチアに興味を持つきっかけになれば本当にうれしいですし、「チアって楽しそう!」「すごい!カッコいい!」と憧れを持ってくれるジュニアメンバーたちが増えてくれたらいいですね。

 その一方で、すでにチアをやっている人の中には、敷居が上がったと感じる人もいます。実はすでに新たな日本代表候補を、再びトライアウトで選んでいるところなのですが、「私のレベルで申し込んでも大丈夫でしょうか?」という問い合わせもありました。

 そこで私は声を大にして言います。「大丈夫です!」と。あなたが日本のチアのこれからをリードする一人になりえます。そしてトライアウトから本番までに、確実に成長できますのでまずはチャレンジしてほしいと言いたいのです。今回の優勝メンバーも同じスタートラインに立っている、完全入れ替えのセレクションです。世界のチアを見てみたい方の挑戦を待っています。

〔笠原園花インタビュー vol. 6〕につづく

2023年ICU世界チアリーディング選手権大会の映像はこちら。

<笠原園花>
1992年生まれ。高校でチアリーディングと出会い、大学卒業後は社会人チームに所属。2016年、日本代表として出場した世界大会で海外チームの演技に刺激を受け、17年よりオーストラリア・メルボルンで活動。18年にクラブチームの世界大会「チア・ワールド」男女混成部門で世界6位に入賞。オリンピック種目候補として注目を集める競技チアリーディングの魅力を広め、次世代を担うチアリーダー育成に取り組む。東京都稲城市出身。


VictorySportsNews編集部