チームの主軸となっている5人の「平成元年世代」

来年の4月30日に天皇陛下の退位が決まり、「平成」は30年の節目で幕を閉じることになった。

遡ること29年前、昭和が終わり、平成の時代へと突入したこの年に産声を上げた選手たちが今、プロ野球界をけん引している。

日本ハムの中田翔、巨人の菅野智之、小林誠司、ソフトバンクの中村晃、岩嵜翔、ロッテの唐川侑己、鈴木大地、オリックスの伊藤光……。彼らは今年で29歳と野球選手としては脂の乗り切った時期を迎えており、各球団の主力に名を連ねることも、当然といえば当然のことだ。

そんな中、特に「平成元年世代」の活躍が目立つ球団が、昨季セ・リーグを連覇した広島東洋カープだ。

2年連続でリーグを独走し、圧倒的な強さを誇る広島では、彼ら平成元年世代がチームの「軸」として不動の地位を築いている。

広島の強さを象徴する「平成元年世代」。それが、野村祐輔、丸佳浩、菊池涼介、田中広輔、安部友裕の5人だ。

彼らは全員、平成元年度生まれ(菊池は平成2年3月の早生まれ)の同級生。球界を見渡しても、ここまで同学年の選手が主軸に固まっているケースは稀だ。

特筆すべきは、彼らがチーム内で担う役割が野球においてもっとも「重要視」されるポジションであるということだ。

先発投手陣のエースには野村が君臨し、ショート、セカンド、センターといういわゆる『センターライン』には田中、菊池、丸がレギュラーに座る。彼ら3人は打順においても1~3番という重責を担い、広島の強力打線をけん引している。この4人に、昨季打率.310を記録してサードのレギュラーの座を掴んだ安部を加えた5人の同級生クインテットが広島にもたらしているものは、あまりにも大きい。

同い年である彼ら5人だが、入団経緯やプロ入り後に歩んだ道のりがそれぞれ異なるのもまた、興味深い。

5人の入団経緯を見ると、
高卒2人(丸、安部)
大卒2人(野村、菊池)
大学、社会人経由1人(田中)
となる。

紆余曲折を経ながら1軍に揃い踏みした時期と合致した25年ぶりの優勝

この中で、もっとも早く頭角を現したのは昨季リーグMVPを受賞した丸だろう。2007年高校生ドラフト3巡目で入団した丸は、プロ4年目の2011年に1軍に定着。2014年以降は4年連続シーズンフル出場を記録するなど、今や不動の3番センターに君臨している。

丸が1軍に定着した翌年、大卒で広島に入団したのが野村と菊池だ。野村は広陵高校時代に夏の甲子園で準優勝、明治大では六大学史上7人目となる通算30勝300奪三振を記録し、鳴り物入りで広島に入団。その実力は1年目から存分に発揮され、9勝11敗、防御率1.98で新人王を受賞。3年目からの2年間は苦しんだが、2016年にシーズン16勝を挙げて完全復活。最多勝を受賞し、チームのリーグ制覇に貢献した。

野村と同期入団、2011年ドラフト2位で入団した菊池は1年目の夏場から1軍のレギュラーに定着。以降は「異次元」の守備範囲で不動のセカンドに君臨し、昨季まで5年連続でゴールデングラブ賞を受賞している。

菊池、丸の同級生コンビは「キクマルコンビ」として一躍脚光を浴び、広島の象徴的存在となったが、そこに割って入ったのが田中だ。東海大相模、東海大、JR東日本と各カテゴリの「名門」でプレーを続けながら、プロ入りは24歳と「遅咲き」の部類。ただ、1年目から持ち前の守備力とシュアな打撃でサードのレギュラーを奪うと、終盤には梵英心からショートのレギュラーを奪う。2年目以降はその座を確実なものとし、「キクマルコンビ」はいつしか田中を加えた「タナキクマルトリオ」へと変化していった。

そして、広島の「平成元年世代」で最後にブレイクを果たした男が、安部だ。入団は07年高校生ドラフト1巡目。指名順位からも分かる通り当時の評価は同期の丸よりも上だった。

俊足強打の内野手として早くからその将来を期待されていたが、1軍ではなかなか出番に恵まれなかった。2011、2014年に2度、ウエスタン・リーグの盗塁王を獲得しているが、その実力を1軍で発揮するまでには至らず、気づけば8年の歳月が経っていた。

そうこうしている間に、同期の丸はもちろん、後から入団した同い年の野村、菊池、田中が次々と1軍の舞台で結果を出していく。それでも、プロ9年目の2016年にサードのレギュラーだったルナの故障、期待された堂林翔太の不調などで転がり込んできた「ラストチャンス」を見事につかみ、翌2017年には前述の通り完全にレギュラーの座をモノにした。

ここで注目したいのが、彼ら平成元年世代が紆余曲折を経ながら、ようやく1軍の舞台でそろい踏みを果たしたタイミングと、広島の25年ぶりリーグ優勝の時期が完全に一致している点だ。

菊池涼介の言葉「チームの中心としてみんなを引っ張っていく」

野村が復活を果たし、丸、菊池が不動のレギュラーとして安定したプレーを見せ、田中がプロ3年目にして自身初のフル出場を経験。そして、高卒9年目の安部がようやくチャンスを掴んだ2016年、広島は圧倒的な力でリーグ優勝を果たした。

連覇を果たした昨季もそうだ。野村はシーズン9勝ながら投手キャプテンとしてチームを引っ張り、丸、田中はフルイニング出場。菊池はシーズン途中に体調不良などもありながら、長期離脱はせずに138試合に出場。安部はサードのレギュラーとしてはもちろん、チーム事情でファーストやセカンドの守備も就くなど「ユーティリティ」ぶりを存分に発揮した。

平成も終わりに差し掛かったこのタイミングで、「平成元年度」に生まれた5人の選手が、チームの黄金期を築き上げている。

今春キャンプで、田中にチームの「平成元年世代」について質問する機会があったが、田中自身は「同い年ということはあまり意識していない」と語る。

ただ、その後に、こうも付け加えてくれた。

「同い年という意識はなくても、僕らの世代がチームの中心として、みんなを引っ張っていかなければいけないことは全員が分かっている。年齢的にも、キャリア的にも、置かれている立場を考えても、これからは若い選手の手本になっていかなければいけないと思います」

そう、「平成生まれ」は、もはや「若手」ではない。平成の時代に突入してはや29年。彼らはチームの軸としてベテラン、若手をつなぎ、勝利へと導く重要なポストに位置している。

今季終盤、「平成最後」の優勝チームとなる球団が広島になるかはまだわからないが、そのカギを握るのが彼ら「平成元年世代」なのは間違いない。

<了>

広島は、なぜ清宮争奪戦から撤退したのか? 再び脚光浴びるドラフト戦略3カ条

「(セで二度目の連覇は巨人についで)2球団目になるのかな。巨人の数と随分差はあるけど、勲章になる」。リーグ連覇を決めたその日、広島カープの松田元オーナーが語った言葉だ。確かに数的な差はある。しかし広島の場合、外国人以外はほぼ自前の選手で達成した連覇であるという部分に、巨人とはまた違う価値を見いだすことができる。そしてそれを成し遂げた大きな要因として挙げられるのが、伝統の「スカウティング力」であり、「ドラフト戦略」だ。13年続いた逆指名(自由獲得枠・希望枠含む)制度が廃止されて10年。今再び脚光を浴びる、“広島オリジナル”のスカウティング力とドラフト戦略に迫る。(文=小林雄二)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

広島・田中広輔、向上のカギは「仙腸関節」にあった。身体の専門家が観るトッププレーヤー(1)

VICTORY編集部です。これからシリーズとして、トッププレイヤーの動きをフィジカルの観点から分析する記事を出させていただきます。初回となる今回は、広島カープの田中広輔内野手です。2013年に東海大学からドラフト3位で広島カープ入りした田中選手は、2014年に早々に一軍のスタメンを確保。2016、2017の連覇にも大きく貢献した選手です。そんな田中選手のプレーは、身体の専門家からはどのような変化として映るのか? JARTA(日本アスリートリハビリテーショントレーナー協会)代表の中野崇さんに分析いただきました。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

誰もがマツダスタジアムに魅了される理由。設計に隠された驚きの7原則

2009年にオープンした広島東洋カープの新本拠地、MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(マツダスタジアム)。訪れた者なら誰もが魅了されるこの異空間は、日本のこれまでのスタジアムの概念を覆すようなアプローチによってつくられた。「スタジアム・アリーナを核としたまちづくり」が経済産業省を中心に進められるなど、今やスポーツの域を超えて大きな注目を浴びているスタジアム・アリーナ建設。今回、マツダスタジアムの設計に関わった株式会社スポーツファシリティ研究所代表取締役の上林功氏が、同スタジアムに隠された知られざる特徴と、未来のスタジアム・アリーナ建設のヒントを明かした――。(取材・文=野口学)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

広島、“3連覇”の偉業なるか? CS敗退も確かに見える進化の過程

プロ野球にとって、来春へ向けた大切な種まきのシーズンともいえる秋。今年、圧倒的な強さで37年ぶりのリーグ連覇を達成した広島カープもまた、宮崎・日南の地で来季に向けた準備を進めている。クライマックスシリーズでは思わぬ敗北を喫したが、セ・リーグでは巨人しか成し遂げていないリーグ3連覇と、33年ぶりの日本一奪還を見据える「広島の来年」を展望する。(文=小林雄二)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

広島、“野球王国”の誇り! 地元が生んだ名手の系譜と義務教育で学ぶカープ愛

日本シリーズ進出こそならなかったが、広島カープは37年ぶりとなるリーグ連覇を達成し、高校野球では広陵が夏の甲子園で準優勝、国体で優勝するなど、今年の“広島野球指数”は高かった。その広島、密かに地元の人間(特に年配者)が声を大にして言いたいのが、「もともと広島は野球王国じゃけぇのぉ」である。そんな野球王国・広島が生んだ名手の系譜と、地元に根付く野球愛を探る。(文=小林雄二)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

カープ女子の、ガチすぎる愛情。優勝の1日を振り返る

「カープ女子」という言葉が世間を賑わせるそのはるか前から、一途で筋金入りのカープファンだった、古田ちさこさん。広島カープが37年ぶりの連覇を決めた9月18日。彼女はこの記念すべき1日を、どのようにして迎え、過ごしたのでしょうか? 決して派手とはいえなくとも、純粋な愛情に満ち溢れていた1日を振り返ります――。(文=野口学)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

花田雪

1983年生まれ。神奈川県出身。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行うなど、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆を手がける。