開幕まで1カ月を切ったとは思えないサッカー・ワールドカップ

前回大会、2014年のブラジル・ワールドカップ決勝では10億人以上が視聴し、のべ視聴者数ではオリンピックをはるかに超える数百億人が目にするといわれるスポーツ界のビッグイベント、サッカーのFIFAワールドカップですが、ハリルホジッチ監督の突然の解任などもあり、過去の大会の同時期に比べて盛り上がりに欠ける、活気が見られないとの声が多くあります。

横浜DeNAベイスターズ前球団社長の池田純氏は、こうした空気感をサッカーの現場で目の当たりにしたと言います。

「先日、パナソニックスタジアム吹田で行われたJリーグ・ガンバ大阪対浦和レッズの試合を観戦する機会がありました。前日には日本代表候補が西野朗監督の口から発表され、この試合にも3人の代表候補選手が出場していました」

池田氏が指摘したのは、人気、実力ともにJリーグ屈指の両クラブの対決、しかもワールドカップメンバー候補に選出された選手が出場するというニュース性があるにもかかわらず、そのバリューが世間に伝わっていないということでした。

実際、この日の観客数は2万5361人で、今シーズンの吹田スタジアム開催としては、1万人台で推移した過去2試合よりも多いものの、セレッソ大阪との大阪ダービー(3万5242人)、開幕戦となった名古屋グランパス戦(2万8681人)と比べるとやや物足りない数字に終わっています。

池田氏は、ガンバのGK東口順昭、レッズのDF槙野智章、MF遠藤航と3人の代表候補が出場しているにもかかわらず、それが集客につながっていないというのが「なんとなく盛り上がらないワールドカップ」の象徴的な例だといいます。

(C)Getty Images

スポーツイベントを盛り上げるには“助走”期間が重要

「“助走”期間が重要になるのではないかと感じています。今年2月に開催された平昌オリンピックも、直前まで『本当にオリンピックが始まるの?』という雰囲気でした。それが、日本人選手が活躍したこともあって、始まってみれば連日話題の中心になった。それはそれでいいのですが、いまはどうなったかというと、ほとんどの人にとって平昌は遠い過去の話のようになっています。要するにブームになりやすいけど、ブームで終わってしまっている。私はビジネスサイドの人間ですから、大会を盛り上げるためにビジネスサイドから何ができるかという視点で常に見ているのですが、その意味では、“助走”、つまり大会や試合に向けてどうやって盛り上げていくか、サッカーのワールドカップの場合なら開幕や日本代表の試合に向けて、どうやってファンの興味・関心をマックスにして持っていくかが重要だと思います」

池田氏が観戦したガンバ大阪対浦和レッズでも、「日本代表候補選手が発表されて、これからいよいよロシア・ワールドカップが始まるぞ」という期待感やワクワク感が試合に投影されていませんでした。こうした演出や工夫は、興行としてできる努力でもあります。

「代表選手の選出やプレー・試合内容などについては、ビジネスサイドの人間が口を出すことではありません。しかし、大会自体、試合自体をどう盛り上げるかは、ビジネス面からできることがたくさんあります。極端なことをいえば、こうやって『盛り上がっていないこと』を話題づくりに活用するというやり方もあるでしょう。グッズの売れ行きが鈍いとの記事もありますが、過去の大会と比較してどれくらい鈍いのか? 逆説的ですが、そこからできることもあるはずです。まったく盛り上がっていない、無風だといっても、まだ開幕まで猶予はあるわけです。この期間でどれだけ助走をつけられるかが、今後の日本におけるサッカーの発展に関わってくるんだという気持ちでやらないといけないと思います」

(C)Getty Images

スポーツイベントを一過性のブームに終わらせないために

売り上げの出足に悩む各社も、5月30日に予定されているガーナとの親善試合から日本代表の初戦、6月19日のコロンビア戦までを商戦のヤマとみて、売り込みに力を入れているといいます。

「盛り上がっていないとはいえ、前回の開催地であるブラジルよりも物理的な距離は近いこともあり、ロシアでの観戦ツアーは売れているそうです。コアなファンはもうそこに向けて準備をしているということですよね。でも、国内でどう観戦しようかといった話題、準備はたしかに過去の大会に比べて遅い気がします。私も過去大会では仲間内でレストランの大画面で観戦してきましたが、今大会は『どうする?』『どこで観ようか?』という話題はまだ出てきていない状況です。メンバーが発表されてしまえばサプライズのような情報提供もなくなりますので、あとは周辺要素でどれだけ盛り上っていけるか。例えばですが、日本サッカー協会がお金を出してパブリックビューイングのドリンクを1杯無料にするとか、テレビで観る人たちに向けてのアピールや施策はまだできることがあると思います」

池田氏の言うように、大手旅行代理店によると、ロシアでの現地観戦ツアーはブラジル大会に比べ現時点で約4割増と好調だそうです。視聴用に4Kテレビに買い換える需要も徐々に出てきていて、深夜帯の大会になることからレコーダーも人気を集めているという情報も。代表監督をめぐるドタバタ劇や、前回大会を経験した選手が多いという、悪く言えば「代わり映えしない」、良く言えば「安定感のある」メンバーなど、さまざまに「盛り上がらない理由」も挙げられていますが、ワールドカップが4年に一度のサッカー界、スポーツ界最大のビッグイベントであることに変わりはありません。これをチャンスにできるかどうかは、日本代表の活躍だけでなく、事業面での努力、ビジネスとしての捉え方にも大きく左右されてくるでしょう。

熱しやすく冷めやすい、ブームはくるけどすぐに忘れてしまう。そんな日本人の特性もあってか、スポーツイベントは特に「瞬間最大風速」だけで風が止んでしまうことが多い傾向にあります。助走期間をいかに組み立て、興味・関心に継続性を持たせられるかが、サッカー・ワールドカップだけでなく、さまざまなスポーツイベントやその盛り上がりを一過性のものにしないために重要なのではないでしょうか。

<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部