優勝賞金は前回大会から300万ドル増額

近年のワールドカップは、様々な利権が絡み、巨額のカネが動くビッグイベントとなっている。一方で、選手たちは国の威信をかけ、目の前の勝利、あるいは世界王者の称号を目指して死力を尽くす。敗退が決まって泣きじゃくる選手、茫然自失となる選手の姿からは、大会にかける思いの強さが伝わってくる。

選手たちはカネのために戦っているわけではないが、W杯でも他の大会と同様、賞金が用意されている。FIFAの発表によると、今回のロシア大会では総額4億ドル(約438億円)が賞金として計上されている。ちなみに、2014年ブラジルW杯の賞金総額は3億5800万ドル(約393億5363万円)だったので、40億円以上増額されたことになる(以下、「増額」はすべてブラジル大会との比較)。賞金はUEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)のようなラウンド進出ごとにボーナスが積み上がっていく形式ではなく、順位によってあらかじめ決まっている額が支払われる形。17-18シーズンのCLの賞金総額13億1890万ユーロ(約1691億円)との差が歴然としているのは、この形式の違いによるものと考えられる。

では、順位ごとの賞金額を見ていこう。優勝したチームには3800万ドル(約41億6850万円)が支払われる。あくまで比較だが、2018シーズンのJ1リーグを制したチームは優勝賞金、理想強化分配金、均等分配金合わせて22億円超を受け取る。W杯優勝賞金がその約2倍であることを考えると、「そんなに高額ではないな」という印象を受けるが、“世界王者”の栄誉は何物にも代えがたい。ブラジルW杯の優勝賞金は3500万ドル(約38億3940万円)だったので、300万ドルの増額ということになる。

準優勝チームの賞金は2800万ドル(約30億7794万円)。優勝賞金とは1000万ドルの差がある。こちらもブラジル大会の時に比べて300万ドルの増額だ。3位は2400万ドル(約26億3823万円)、4位は2200万ドル(約24億1837万円)と、こちらは200万ドルアップ。2位から4位までの賞金額は、それほど大きな差はつけられていない印象だ。

日本代表の選手たちに支払われるボーナスは

5位から8位まで、つまり準々決勝で敗れた4チームに対しては、それぞれ1600万ドル(約17億5882万円)が支払われる。9位から16位まで、つまり決勝トーナメント1回戦で敗れたチームは1200万ドル(約13億1911万円)。日本はすでに決勝トーナメント進出を決めているので、この時点で1200万ドルは確保したことになる。

5位から8位までは200万ドル、9位から16位までは300万ドルが増額されている。そしてグループステージ敗退となったチームにも、それぞれ800万ドル(約8億7941万円)が支給される。また、出場する全チームには準備金として150万ドル(約1億6488万円)が与えられる。これらは4年前からお値段据え置きだが、たとえば今大会に初出場したパナマなどは物価が安い国なので、800万ドル+150万ドルは同国のサッカー連盟にとってそれなりに大きな収入となるだろう。一方でまさかのグループステージ敗退となった前回王者ドイツは、3500万ドルから800万ドルへと賞金額が激減。上位の常連だったドイツにとって、今回の敗北は金銭面でも痛手となるだろう。

この賞金というものは、FIFAから各国のサッカー連盟、サッカー協会に対して支払われるものだ。では、選手たちはW杯に出場することで、どの程度の収入を得ることができるのだろうか。日本代表の場合、代表チームでの活動には「日当1万円」が日本サッカー協会(以下JFA)から支給される。ハードワークや何らかの技術・資格が必要なアルバイトと同程度という感覚であり、トップレベルの選手にとっては微々たる金額だと思われるが、代表に招集されること自体が名誉であると考えれば、キリのいい妥当な額と言えなくもない。これは代表に招集されている間は支払われ続けるもので、今回のメンバーたちには直前のトレーニングキャンプから数え、すでに約1カ月分が支払われることになる。今後、勝ち進めば勝ち進んだぶんだけ日当も増えていく。

また、JFAは試合に勝利した際に支払う勝利給も制定している。勝利給の額は試合のグレードによって定まっており、W杯の場合は最もグレードの高いSランクで、1勝あたり200万円。ちなみに、W杯予選やアジアカップ、コンフェデレーションズカップなどは50万円、キリンチャレンジカップやEAFF E-1サッカー選手権などは20万円などとなっている。W杯の勝利給とは大きな差があり、それだけW杯の1勝に大きな価値があるということになる。

順位に応じてのボーナスも設定されている。W杯の場合、ラウンド16に進出すれば600万円、準々決勝で800万円、準決勝で1000万円、3位は2000万円、準優勝3000万円、そして優勝すれば5000万円が、選手それぞれに支払われる。優勝した場合、5000万円×23人なのでボーナス総額は11億5000万円となるが、FIFAから支払われる優勝賞金が約41億円なので、約4分の1が選手へのボーナスに充当される計算になる。

過去に起こったボーナスを巡る騒動

W杯でボーナスと聞くと、アフリカ諸国の選手たちとサッカー連盟のボーナスを巡るせめぎ合いを思い出す方もいるだろう。2002年日韓大会では、キャンプ地の大分県日田郡中津江村になかなかやって来ないカメルーン代表選手団と気長に待つ村民の交流が取り上げられたが、その内情はボーナスの増額要求交渉が長引いていただけだった。カメルーンは2014年ブラジル大会の時もボーナスの額を巡ってサッカー連盟と対立し、なかなか現地入りしなかった。

また、ナイジェリア代表は2016年リオデジャネイロ五輪の際、資金難から試合のボイコットを示唆する騒動を起こし、「高須クリニック」の高須克弥院長が資金提供を持ちかけて約4000万円を寄付し、話題となった。その反省からか、同国サッカー連盟は今大会のグループステージ出場によって得られる800万ドルのうち、240万ドル(約2億6458万円)を出場ボーナスとして選手に支払うことを明言。そのかいもあってか、今大会ではボーナスを巡る大きな騒動は起こっていない。

いよいよノックアウトステージに突入したロシアW杯。勝ち上がっていくチームがどれほどの賞金を受け取るのか、予備知識として頭の片隅に置きながら試合を見るのも楽しいかもしれない。

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池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。