大阪育ちの32歳。堀江翔太は、ラグビーの面白みのほぼすべてを表現できる選手だ。スクラム最前列中央のフッカーという黒子のようなポジションを務めながら、意表を突くパスやキック、相手防御のひずみをえぐるランと華美なプレーで光る。肉弾戦にも強い。

「先を見過ぎない」と日々を大切に過ごす。もっとも出場すれば3大会連続となるワールドカップにも、鋭い視線を向ける。今回は南アフリカ代表などを破った2015年のブーム、個性を重んじるスタンス、現代表での歩みなどを語る。

(インタビュー・構成=向風見也、取材日=2018年9月5日)

(C)Getty Images

大きな変化をもたらした、あのワールドカップ

――堀江さんが日本代表の副キャプテンとして臨んだ2015年のイングランド大会では、予選プール突破こそならなかったものの歴史的な3勝を挙げました。帰国後、周囲の環境にかなり変化があったのではないでしょうか。

「めちゃくちゃありました。結果を残すか残さないかでこんなに違うか、というくらい違いがありましたよね。2011年(ニュージーランド大会は未勝利)は日本に帰ってもあまりメディアとかに映らなかったですけど、2015年の後はラグビー選手がアスリートとしてテレビに出ることが多くなったと思います」

――戦い終えて成田空港に着くや、多くの出迎えのファンと帰国会見が用意されていました。

「そんなことも、全く考えてなかったですしね。向こうでも日本のテレビは見られたんですけど、それも一時、騒がれているだけかなというくらい。あんな人気になっているとは思っていなかったです」

――そのブームが続いていた2016年は、国際リーグのスーパーラグビーに日本のサンウルブズが参戦。そのできたてのチームでキャプテンになったのが堀江選手でした。サンウルブズとリンクする日本代表でも、ヘッドコーチが決まらないなか船頭役となりましたね。

「大変な年でした。その後にあったトップリーグ(パナソニック ワイルドナイツの一員として臨んだ国内リーグ)も難しいところがありましたし、メンタルって大切やな、と思わされました。特にサンウルブズでは負けている時が多くて、チームを勝たすために選手にどう発言していったらいいのかずっと気を使っていた。気疲れというか、精神的にきつい部分がありましたね。僕のバランス的には、まず自分のことを中心に考えて、そのうえでチームを考えた方がうまく回ると思いました。チームのことを考え過ぎて自分のプレーができなくなっていたのは確かだったので」

――ジェイミー・ジョセフ現ヘッドコーチが就任した2016年秋以降も、しばらくキャプテンを務めます。これは本筋とはやや無関係ですが、当時、堀江選手のユニークな髪型が日本協会の理事会で議論になったという記事が『Yahoo!ニュース』のトップで扱われました。

「あぁ、ありましたねぇ。あれは僕が直接耳にしたわけでもないですし、関係者から『そんな話があるらしいよ』と聞いた時も冗談で言われていると思ったので、特に気にしてなかったです。言いたいこともわかりますけど……。まぁ、すんません、という感じです」

――堀江さんには、ご自身の意思と同時に周りの人の意思も尊重されるところがあります。

「あぁ、それ、あるかもしれないです。年下、年上関係なしに誰にでも意見があるから、それぞれのいいところを取る。個性を大切にしたいと思っています。僕って上下(関係)がフラットだと思われているのかもしれないですけど、僕のなかでの上下はあるんですよ。敬語を使うとか、挨拶をするとかいう上下は必要。敬語でも『これって●●じゃないですか?』みたいに言えるじゃないですか。ただその上下が『下が意見を言いにくい』となるのはよくなくて。意見の交換という意味では、フラットがいいですよね。僕は社会人をしていないのでこれが正しいのかどうかはわからないですけど、スタンスはこうです。で、若いやつと喋っていても、自然体でいる感じです」

(C)Getty Images

強いチームは、全員が同じ方向を見ている

――あらためて、2012年以降の選手生活を振り返っていただきます。2011年のニュージーランド大会敗退後、海外に挑戦されました。2012年からニュージーランドのオタゴ州に留学。翌年にはスーパーラグビーのレベルズ(オーストラリア)とサインします。

「2011年に結果が出ないなか、代表の重要性を知りました。開催地では地元のニュージーランド代表が優勝してすごいことになっているのに、日本では取材の人が数名とカメラ1台みたいな。まず、ラグビーがあるのだと日本で知らせるのに選手ができることは、強化しか思いつかなかった。それで、海外に出なあかんと決意したんですよね。オタゴでは近場(肉弾戦周辺)で仕事をするような、海外で求められるフッカーの動きを映像で見ながら勉強しました。レベルズではセットプレー(スクラムなど)を学んできたという感じです」

――日本代表では、国内外で実績のあるエディー・ジョーンズさんがヘッドコーチに就任。早朝に始まる1日複数回の練習で選手を鍛えるなど、献身を求めていました。

「厳しい人でしたよ。1人であそこまでできるなんてすごくエネルギーがあるだろうし、神経をすり減らすようなことをやっているなと思いました。実際、身体、壊しましたしね(2013年、軽度の脳梗塞で倒れた)。オフフィールドでもスタイル(服装)をちゃんとさせるとか、早朝練習をさせるとか、他の監督ではなかなかできないですよ。人に厳しくするって、しんどいので」

――結局、ワールドカップで結果を残しました。それゆえ当時の過酷な準備期間は、やや過剰に美化されてしまうのですが。

「全員が同じ方向を見ているのが強いチームなんですよ。で、あのやり方が一番そうさせやすいかな、とも思います。ただあれは、あくまでやり方の一つとして思ってほしいですね。エディーさんがいなくなった後、『また多くの練習が必要であれば(自分たちで)するだろうな』ということはリーチ(マイケル、現日本代表キャプテン)と話していましたけど、まずは新しい監督の方針を100%忠実にやろうと思っていましたね」

(C)長尾亜紀

ラグビーを知らない人にも気軽に見てもらいたい

――ジョセフさんがヘッドコーチになったのは2016年秋。2018年はそのジョセフさんがサンウルブズの指揮を兼ねましたね。

「僕のなかでは忠実にやろうとしていることが、ジェイミーに『やり方が違う』と怒られるような時がありました。他のスタッフに聞いたら、本当は当時していた新しい戦術に対しても『なじみきっていなくても、頑張ってくれている』くらいには評価されていたみたいなんです。でも、僕にはそう思ってもらえていることが伝わっていなくて、『全然、あかん』くらいに捉えられていると感じていました。本当、ささいなことなんですけどね」

――ジョセフさんには、あえて辛辣な物言いで選手を発奮させるところがあります。

「でも、藤井さんがジェイミーと選手の間を取り持ってくれて、関係がだんだん良くなっていったと思います」

――藤井雄一郎さんは、かつてジョセフさんがプレーしていたサニックス(現・宗像サニックス)の現監督。2018年からはサンウルブズにも入閣し、特にグラウンド外で重要な役割を担っています。

「藤井さんとジェイミーとの繋がりは長くて、藤井さんの言うことをジェイミーが聞いてくれるということもありました。藤井さんと選手との間の距離も縮まっていって、選手が藤井さんに何かを伝えるということもあります。今年のサンウルブズのニュージーランド遠征の時(4月)にちょうどそういった(歩み寄りの)話が持ち上がって、日本に帰ってきてから皆で飯に行って……。そのあたりから、ぐっと強くなりましたよね」

(C)Getty Images

――陰のキーマンの計らいも奏功したのでしょうか、当時、開幕9連敗を喫していたサンウルブズは、5月に2連勝。日本代表も6月のツアーで2勝1敗と勝ち越しました。ここから来年のワールドカップに向け、どう過ごしていきたいですか。

「ベースの戦術、戦略を理解して、フィジカル、スクラムなど、上げられる精度は最後まで上げていきたいです。ワールドカップでは、観客の人が盛り上がるお祭りみたいな試合をしたいですし、2015年に達成できなかったベスト8入りを決めたい。これから観る方には、ルールがたくさんある格闘技のような感じで気楽に見てほしいです。選手もなるべくファンサービスしようとしているので、それも楽しんでもらえればと思います」

――その言葉通り、現在行われているトップリーグでは堀江さんたち人気選手がいやな顔ひとつせずサインや写真撮影に応じています。頭が下がります。

「全然、人気なかった頃も知っているので……。そら、なかには失礼な方もいるかもしれないですけど、その方も含めてファンなので!」

<了>

(編集注)10月1日、堀江選手は右足の疲労骨折により、今秋シリーズの日本代表離脱が決定しました。

(C)長尾亜紀

[PROFILE]
堀江翔太(ほりえ・しょうた)
ポジション:フッカー
1986年1月21日生まれ、大阪府出身。現所属は、パナソニック ワイルドナイツ(トップリーグ)、および、サンウルブズ(スーパーラグビー)。2013年、2014年に所属したスーパーラグビーのレベルズ(オーストラリア)でプレーし、副キャプテンとして臨んだ2015年ラグビーワールドカップで活躍した実績から、ワールドクラスの評価を得る。2016年にはサンウルブズの初代キャプテンを任される。日本代表キャップは58(2018年6月時点)。

山田章仁、日本開催のワールドカップに馳せる想い「早くみんなに見てもらいたい」

来年9月に日本で開幕する、ラグビーワールドカップ。今回は日本代表として活躍する山田章仁選手に、ワールドカップに馳せる想いを語ってもらった。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

姫野和樹、若きホープが初めて挑むW杯に臆さぬ強さ「期待されるのは好き、応えたい」

2019年、ここ日本で開幕するラグビーワールドカップ。その大舞台に初めて挑むのが、急成長の24歳、若きホープの姫野和樹だ。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

大畑大介が語る「ラグビーと子育ての関係」。世界に誇るトライ王が見るW杯と日本代表

2019年9月、ラグビーワールドカップが日本にやって来る。日本が世界に誇るトライ王・大畑大介氏が、現在の日本代表への期待と、現役時代の秘話、さらには2人の娘を持つ父親として「ラグビーと子育ての関係」について語った。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

田村優、日本代表の司令塔が感じた手応え「目指すランクが上がった」

今年、ラグビーワールドカップがここ日本で開幕する。日本代表の司令塔・田村優は、試行錯誤の末につかんだスタイルに自信をのぞかせる。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

日本開催のラグビーW杯まであと2年 完売必至のチケットはこれだ!

日本で開催されるラグビーW杯の開幕まで2年を切った。来年1月19日には、先行抽選販売の申し込みが開始となり、同27日からは一般抽選販売の申し込みが開始される。ビッグゲームは、文字通りのプラチナチケットとなる世界有数のスポーツイベント。ここでは、注目のゲームをおさらいする。(文=斉藤健仁)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

日本にとって理想的!? 19年ラグビーW杯組分けを読み解く

2019年に日本で開催されるラグビー・ワールドカップ(W杯)の組分け抽選会が行われ、日本はアイルランドやスコットランドと同居するプールAに組み込まれた。ニュージーランドやイングランド、南アフリカといった優勝経験国との対戦が避けられた今回の抽選結果をどう見るか。また決勝トーナメントに進出する8チームも予想した。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

今さら聞けない 日本ラグビーを飛躍させたエディーの後任 ジョセフとは何者か

2015年ラグビーワールドカップでエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)が率いて予選プールで3勝を挙げたラグビー日本代表。そのジョーンズ氏の後を継ぎ、2019年の自国開催となるワールドカップで、「ブレイブブロッサムズ(勇敢な桜の戦士たち)」の指揮を執るのが「JJ」ことジェイミー・ジョセフHCだ。選手時代、「オールブラックス」ことニュージーランド代表だけでなく日本代表でもワールドカップに出場、さらにコーチとしても2015年にハイランダーズ(ニュージーランド)をスーパーラグビー優勝に導いた指揮官に迫る。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

19年W杯での躍進のカギを握る9番、10番争いの行方

「チームジャパン2019総監督」という立場で15人制ラグビー日本代表の強化を担当するジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチが6月のルーマニア、アイルランド戦に向けて嬉しい悲鳴をあげている。戦術のカギを握る9番のSHと10番のSOについて「選手の層が厚くて選ぶのに悩んでいる」と言うのだ。激化するハーフ団の定位置争いについてレポートする。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

五郎丸歩のフランス挑戦、1年で幕を下ろす。トゥーロンでのプレーを振り返る

6月にルーマニア、アイルランドと国際試合を行う日本代表のメンバーから漏れた五郎丸歩がフランス1部のトゥーロンを退団し、ヤマハ発動機ジュビロに復帰することが発表された。なぜ、五郎丸は国内に復帰するのか。1年で終わりを迎えた五郎丸のフランス挑戦を振り返る。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

秩父宮に依存している日本ラグビー界が抱える「2020年問題」

日本ラグビーの聖地である「秩父宮ラグビー場」。日本におけるラグビーの歴史の多くは、この場所でつくられていった。4日に1度以上の割合で試合が開催されている聖地が、抱えている、ある問題に切り込む。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

4372億円の経済波及効果も外国人に依存 「日本でラグビーW杯を開催する意義」とは?

3月20日、公益財団法人ラグビーワールドカップ2019組織委員会が、2019年9月20日から11月2日まで日本全国12会場で開催されるラグビーワールドカップによる経済波及効果が4372億円になると発表しました。開催まで1年半と迫り、その経済効果に期待が集まるラグビーワールドカップですが、経済的な理由以外に「日本でワールドカップを開催する意義」は、どこにあるのでしょう?

VICTORY ALL SPORTS NEWS

向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、ラグビーのリポートやコラムを『ラグビーマガジン』や各種雑誌、ウェブサイトに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。