2019年のラグビーワールドカップ日本大会に向け、日本代表のアイコン候補となっているのが姫野和樹だ。

24歳という若さ。公式で「187cm、112kg」という恵まれた体躯。誰にでもすごさの伝わりそうなパワフルな突進。老若男女を引き付ける怪童の笑み。トヨタ自動車でルーキーイヤーから主将を任されているバックボーン。これらの資質と背景によって、この国のラグビー界有数の訴求力をつくり上げている。

2017年に日本代表デビューを飾ると、翌年には代表の兄弟格にあたるサンウルブズに入り国際リーグのスーパーラグビーへも参戦。急ピッチで国際経験を積んでいる。

自国開催大会に向けたまっすぐな意志と、その原点に迫る。

(インタビュー・構成=向風見也、取材日=2018年12月17日)

親、高校の恩師、大学での指導者と仲間

――小さいころから身体が大きく、運動が好きだったそうですね。

「放課後は毎日、公園で遊んでいました。家でゲームしているよりも、皆で野球しよう、サッカーしよう、鬼ごっこしよう、と。それで、くたくたになって帰るという子どもでした。いろいろなスポーツをやっていくなかで自分の身体の大きさを最大限に活かせると思ってラグビーを始めました。ただ純粋に、楽しかったというのもありました。名古屋はラグビー部のある中学校が多く、ラグビーが身近にありました」

――ラグビーを始めたのは地元・名古屋の御田中学校に入ってから。「ラグビーで人生を切り拓こう」と考えたのは、いつごろからですか。

「ラグビーはずっとするんだろうな、とは思っていました。中学のころから(地元の名門である)トヨタ自動車でプレーをしたいと思っていましたし、本格的にラグビーで生きていけると思ったのは、帝京大学に入ってからですね。それまでは、そんなに将来のことを考えていなかった。単純に、『今を楽しく生きる!』……みたいな感じだったので。大学に入ってから将来について考えるようになり、ラグビーで生きていこうと考えました」

(C)長尾亜紀

――「今を楽しく」だった春日丘高校時代から高校日本代表入りするなど将来を嘱望され、その後は当時大学選手権4連覇中だった帝京大学へ入学。大学に行かないという選択もあったなかでの挑戦でした。

「高校の宮地真先生から『帝京大学に行った方がいい』と言われて。今になってみれば、行ってよかったなと思います。親、いい指導者、きつい練習も乗り越えた仲間……。周りのサポートは手厚かったと思います。感謝しかないです。来年のワールドカップでプレーすることは周りの方への恩返しにもなる。そこにはこだわっていきたいです」

いきなりキャプテンを任され、手探りだった1年目

――帝京大学では岩出雅之監督や優秀な選手たちと一緒に、大学選手権8連覇を達成。卒業後に入ったトヨタ自動車では、かつて南アフリカ代表を率いたジェイク・ホワイト監督に主将を任されています。とにかく、出会いの「引き」がいいですね。自覚していますか。

「そうですね。運、いいと思いますよ! いい指導者に出会えて、成長していますから。(就任初年度の)ジェイクは前のチームとの契約があって、最初の合流が2017年の7~8月くらいとなっていました。ただ、5月に1週間だけ来日したときがあって、何も言わずに練習を見ていたんです。それで、ジェイクが次の日に帰るというタイミングで監督の部屋に呼ばれ、『キャプテンにしようと思う』と言われました。激震ですよね。4月はまだ会社の新人研修に行っていましたし、まともにチームに入ったのはその時の5月からでしたから。社会人という新しい環境にも慣れていないですし、チームメイトがどういう人なのかも、トヨタの文化もわからないなかで主将という立場で何かを言わなきゃいけない……。手探りでやってきたと思います」

(C)長尾亜紀

――しかし、国内のトップリーグで重責を担いながら多くの試合に出たことが、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる日本代表への招集につながりました。

「だと、思います。ジェイミーはキャプテンシーもプレーも買ってくれていますし、1年目でキャプテンをやってよかったと思っています」

――とにかく、ずっとラグビーが楽しかったことは確かなようですね。

「楽しかったですね。ただ、けがをしてしまったときは落ち込んでいました。僕、高校のころから結構自由奔放な感じで走っていくので、膝をやる(傷める)ことが多かったんです。高校のころは、左の膝がボロボロでした。大学でもけがが多くて……。『これ以上走ったらやるな……』という『(力の)抜きどころ』が分かるようにはなった。その意味ではけがも無駄じゃないとは思いますが、自分の成長にとってもよくないもの。今は、けがだけはしないようにしています」

日本代表は強くなっている、W杯では大きな可能性がある

――さて、ワールドカップに向けて。今の日本代表というチームをどう見ていますか。

「可能性はありますよね。力もついてきているし、強くなっている。あとは、本当に強い相手にどれだけ自信を持って臨めるかだと思います。一人ひとりが強い自信を持って、それをチームとしての大きな自信にして臨むことができれば、大きな可能性があると思います」

――その「自信」はどうつくりますか。

「いろいろな経験を通してです。僕は今年サンウルブズに入って、日本人選手でもスーパーラグビーで戦えると感じました。まずは、そういう経験から一人ひとりが自信をつける。それがチームの大きな自信になりますし、それによって日本代表が(大会前の代表戦などで)結果を出せれば、さらに自信をつけられる」

(C)長尾亜紀

――2018年秋のツアーではニュージーランド代表、イングランド代表に敗戦。どんな印象でしたか。

「僕自身、(国内の)トップリーグで負ったけがから戻ったばかりでした。だから、あまり確固たる自信はできていなかったと感じます。自分のパフォーマンスに関しては、全く納得はしていないです。自分の一番いいメンタル、身体の状態ではなかったし、試合勘もなかったなかでの復帰だったので。ただオフを挟んでしっかりトレーニングをすれば、またいい働きができると思う。今は身体の状態もよくなりましたし、しっかり心のリフレッシュができたらと思います」

――「心のリフレッシュ」。12月中旬までのトップリーグを終えると、代表候補選手が始動するまでに約6週間のオフがあります。

「ここ数年、プレッシャーがかかる気の抜けないなかで生活していた。オフがあってもその次の試合、シーズンがあるためになかなか気の休まる場所がなくて……。ただ、今は少し落ち着いて休めると思います。2月の始動に向けたオフは、すごく大事なものになると思います。この時しかゆっくりできないので、とりあえずラグビーから離れたいですね。ただただ自分の時間を過ごしたい。自分と向き合いたいです。ラグビーは楽しいからやっていますけど、自分の心に余裕がないとラグビーを楽しめないと思うんです。ですので、一回リセットして、心の余裕をつくりたいと思います」

(C)Getty Images

ボールを持ったときにどれだけ前に進めるかを見てほしい

――オフおよびその後の準備期間を経て、重圧のかかる自国開催のワールドカップへ。いかがですか。

「ワールドカップはすごい場所。皆、口をそろえて言いますよね。リーチさん(リーチ・マイケル キャプテン)も、フミさん(田中史朗)も(いずれも2大会連続出場中)。僕は全くその舞台には立っていないですし、話に聞いているだけですけど、会場の雰囲気はすごいものになって、プレッシャーも相当なものになるだろうとは思っています。ただ自分にも、これまでにいろいろと経験したことがあります。(イングランド代表戦では)トゥイッケナムスタジアムで8万人を前にプレーしましたし、ニュージーランド代表戦では相手が踊るハカも間近で体感した。いろんなことをしてきたんだという経験を自信に変えて、ワールドカップの舞台でも臆せずにプレーしたいです」

――大会が間近に迫れば、姫野選手と同じポジションに代表資格を得た海外出身選手も加わる可能性があります。

「プラスですよね。僕はライバルがいた方が伸びるタイプですし、強いチームにいた方がパフォーマンスを上げられる体質、気質です。切磋琢磨していって、チームの力を大きくしたいです。2019年は、チャレンジしたいですね。自分の思う身体づくり、自分が得たいスキル、メンタル……。全てに対してチャレンジしたい」

――すっかり、注目選手の一人になっています。そのことはどう捉えていますか。

「注目される分プレッシャーもあると感じますけど、基本的にはすごくうれしいですし、楽しいですね。僕は期待されるのが嫌いじゃないというか、好きなので。その期待に応えるために努力したいと思いますし、スポットライトが当たっている方が楽しいタイプなのかなと思います」

――ワールドカップはどんな大会にしたいですか。また、自分のどんなプレーを見てほしいですか。

「たくさんの人にラグビーを知ってもらいたいですし、このスポーツを日本に根付かせたい。そのきっかけがワールドカップだと思っていますし、そうできるかどうかには日本代表が活躍できるかとも関係してくる。だから僕は、グラウンドで120%の力を出すことにフォーカスしたいと思っています。見てほしいプレーはボールキャリー。ボールを持ったら相手のディフェンスラインを突破して、必ずゲインをする選手だと思っているので、そこを見てほしい。僕がボールを持ったときにどれだけ前に進めるかを見てほしいと思います!」

――もう、本番の大舞台で戦うイメージはございますか。

「イメージ、できています。はい。もう、頭の中では10回ぐらい予選プールを戦っていますもん。日本代表はいつも、グループリーグを突破しています!」

――ちなみに、どうやって。

「それは、まぁ、楽しみにしてください!」

<了>

(C)長尾亜紀

[PROFILE]
姫野和樹(ひめの・かずき)
ポジション:フランカー/ロック/NO8(ナンバーエイト)
1994年7月27日生まれ、愛知県出身。現所属は、トヨタ自動車ヴェルブリッツ(トップリーグ)、および、サンウルブズ(スーパーラグビー)。今秋のツアーでは3つのポジションで先発を果たすなど、この1年で急激に日本代表での存在感を放っている期待の若きホープ。ハードなランでチームを引っ張る。日本代表キャップは9(2018年11月時点)。

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向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、ラグビーのリポートやコラムを『ラグビーマガジン』や各種雑誌、ウェブサイトに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。