2019年、初めて日本で開催されるラグビーワールドカップ。9月20日の開幕戦に向けてファンの期待を一身に背負うホスト国、日本代表の攻撃のタクトを振るっているのがスタンドオフの田村優だ。

前回大会、日本代表が初戦で優勝候補の南アフリカを撃破し、プール戦3勝1敗という快進撃を見せたことは記憶に新しい。当時、独特のルーティーンでゴールを狙っていたプレースキッカー、フルバックの五郎丸歩はラグビーブームの象徴的存在となった。

田村はその五郎丸に代わり、現在の日本代表でプレースキックを任されている。南アフリカ戦では勝利の瞬間にピッチに立っていた歴史的勝利の立役者の一人でもあり、こうした国際経験や磨きをかけてきたスキルと判断力を武器に、チームに欠かせない攻撃の司令塔として活躍している。

刻一刻と迫ってきた、またとない大舞台への率直な思いを聞いた。

(インタビュー・構成=齋藤龍太郎、取材協力=キヤノンイーグルス、取材日=2018年12月27日)

前回大会の経験を思い出しながら日々を過ごす

──ワールドカップイヤーを迎えた今、どのように過ごしていますか?

「今(取材当時)はオフをもらっているのでしっかりと体を休めています。4年前(前回ワールドカップが開催された2015年)と比べてゆとりを持っているわけではないのですが、当時はこうしていたな、という経験をいろいろ思い出しながら過ごしています。今は“スーパーリラックス”状態で(笑)、周りからは『日本代表の活動期間とは全然顔が違うね』と言われますが、次に試合に出るのが楽しみになるような準備をしたいです」

(C)長尾亜紀

──前回大会の反響は大きかったと思います。取り巻く環境の変化などはありましたか?

「日本人はこうした大きなスポーツイベントが好きなので、その影響は今でも感じています。ラグビー自体の知名度が上がって、全然ラグビーを知らない方でも僕のことを知っていただいていることがあります」

──昨年は「24時間テレビ」や「行列のできる法律相談所」(いずれも日本テレビ系)に出演されるなど、メディア露出が増えました。

「ラグビーの周知活動というより、出演依頼をいただいて、その時の自分の身体の状況と時期やタイミングを考えて決めてきました。いい意味でも悪い意味でも目立つようになったので、私生活には気を付けるようにしています(笑)」

自分本来の形に立ち返れれば大丈夫

──日本代表は昨年6月、イタリアとは1勝1敗(○34―17、●22―25)、ジョージアには勝ち(○28―0)、11月は強豪ニュージーランド(●31―69)とイングランド(●15―35)には敗れたものの、ワールドカップの開幕戦で対戦するロシアには勝ちました(○32―27)。振り返るとどのような1年でしたか?

「6月はいいスタートを切ることができました。そして11月の3試合で自分たちがどういう方向に変わっていかなければならないか、事前合宿のときからチーム全員で認識を共有してきました。そこからみんな本当にがんばった結果、勝ったのはロシア戦だけでしたが、得たものは大きかった。試合だけではなく準備など全てのことを含めて、本当に収穫の多い1年でした」

──なかでも世界ランキング1位のニュージーランドと同4位のイングランドとの対戦はいかがでしたか?(※日本代表は同11位。いずれも2018年11月26日現在)

「負けはしましたけど、アタックもディフェンスも本当にいいシーンが多く、練習してきたこと、目指そうとしていることを全部出し切ることができました。それでもオールブラックス(ニュージーランド代表)にはかなわなかったわけですが、僕たちが次のレベルに進むための準備ができている、またそれだけの力があるということがはっきり分かった試合でした。イングランド戦は後半、反則が増えて逆転されましたが、前半はよくできました(15―10でリード)。いい方向に向かっていること、目指しているところが1ランク、2ランク上がったことをチーム全員が認識できたと思います」

(C)Getty Images

──田村選手はプレースキッカーとしての重責も担っています。

「前回のワールドカップが終わった直後のゴール成功率は90%ぐらいでしたが、今はプレッシャーが勝手に自分にかかっているせいか70%ぐらいです。仲良くさせてもらっている五郎丸さんとは『いろいろ試行錯誤していくことが大事』、そして『最後は自分のものにする』ということを前のワールドカップでも話していましたので、この誤差を埋めていくことです。自分本来の形に立ち返れれば大丈夫だと考えています」

将来を見据えサッカーからラグビーに転向

──2002年に開催されたFIFAワールドカップ日韓大会(サッカー)の当時は中学生でした。

「愛知県の中学に通っていて、みんなで応援していました。将来プロスポーツ選手として飯を食っていくということは最初から頭にありましたが、サッカーとラグビーではどちらが生計を立てられるかと考えた結果、父がラグビーをしていたこともあって、ラグビーを選んだのです。日韓大会のころには高校からラグビーをやると決めていました」

──中学までのサッカー経験は、現在キッカーとして生きていますか?

「癖を直す必要があったので、むしろマイナスかもしれません(笑)。ラグビーのプレースキックはサッカーのフリーキックに近いと思うんですけど、同じキックでも別物です。あえていえばシュートに似ているかもしれないですね」

(C)長尾亜紀

──日本代表の試合が続いていた昨年6月もロシアでFIFAワールドカップが開催されていました。

「応援していましたよ。認知度は違いますけど、同じ日本代表として本当にがんばってほしいという思いがありました。ラグビーワールドカップではきっと彼らも僕らを応援してくれると思っています。同じ日本のチームですからね」

──今年はラグビーの番です。盛り上がりそうですね。

「そうですね。ただ、僕らが求めているのはそこではなく、結果を出さないといけないということです。盛り上がるのは最終的についてくることで、勝つかもしれないし、負けるかもしれない。勝利を約束することはできませんが、自分個人としてはケガをしない限り前回のワールドカップを越えた状態で臨むということだけは断言できます。今の時点で確定しているのはそれだけです」

「難しそうだからやめておこう」とは思わない

──9月20日開幕のラグビーワールドカップに向けて、さらにやっていくべきことは何でしょうか?

「まずはフィットネス(試合で動き続けるための身体能力や心肺機能)など体の部分、根本的なところをさらに上げる必要があります。これは僕個人だけでなくチームとしてもです。フィットネスに終わりはないですからね」

──取り組んできて、すでに成果が出始めていることはありますか?

「前回のワールドカップ以降、例えばパスやキックの仕方を変えるなどいろいろなことを試行錯誤してきたのですが、ようやく自分に合うものが出てきました。今は自分のスタイルに立ち返ることができています」

(C)Getty Images

──ワールドカップでは世界屈指の強豪と対戦します。昨年の年間最優秀選手に選ばれたアイルランドのスタンドオフ、ジョナサン・セクストンとも対戦することになりそうです。

「セクストンとは1回も試合をしたことがないので、自分では比べようがないのですが、対戦することになれば楽しみではあります。オールブラックス(ニュージーランド代表)戦でもイングランド戦でも相手のことをぐちゃぐちゃにできているので、僕だけでなくチームとしても『強い相手でも崩せる!』という自信がついたことは間違いありません」

──強敵と対戦しても動じることなく、プレッシャーに強いタイプに見えます。

「見ている方々からは『田村なら何かしてくれる』というビッグプレーを期待していただいていると思うのですが、実はしっかり準備して試合に臨む、どちらかというと堅実なタイプです。ただ、チャンスがちょっとでも見えたらチャレンジしたくなります。『このプレーは難しそうだからやめておこう』とは思わないですね。難しそうなことにこそどんどん積極的にチャレンジしてやろうというタイプだと自己分析しています」

──最後に、あらためてラグビーワールドカップに向けた意気込みをお願いします。

「ワールドカップの前にも国内での試合がいくつかありますので(7月27日(土)フィジー戦@釜石鵜住居、8月3日(土)トンガ戦@花園、9月6日(金)南アフリカ戦@熊谷)、ぜひ会場に来ていただきたいです。何も知らずに観戦しても十分楽しめると思うので、とにかく見に来てもらえることが一番のPRになると思っています。僕個人としては走って、パスして、キックして、攻めているところをぜひ見ていただきたいですね」

<了>

(C)長尾亜紀

[PROFILE]
田村優(たむら・ゆう)
ポジション:スタンドオフ
1989年1月9日生まれ、愛知県出身。現所属はキヤノンイーグルス(トップリーグ)。中学まではサッカーをしていたが、高校からラグビーを始め、たちまち頭角を現す。日本代表の司令塔で、プレースキッカーを任される。父・田村誠氏はトヨタ自動車、豊田自動織機で監督を務めた。弟・田村熙はサントリーで活躍中。日本代表キャップは54(2018年11月24日時点)。

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齋藤龍太郎

著者プロフィール 齋藤龍太郎