コンセプトは「Everyday Performance」。「すべての人の、より健康的で、より良い生活のために」を合言葉に、トレーニング時から忙しく動き回る日常までアクティブで健康的な毎日をサポートするウエアを提供するもの。開発キーワードは、「クオリティ」「イノベーション」「サステナビリティ」であり、「スポーツの機能性」と「サステナビリティ」を融合し、スポーツの祭典をショーケースに世界に「ユニクロ」の商品開発力を発信していく。その開発ストーリーに迫る。


*1:ユニクロとスウェーデンオリンピック委員会は2019年1月、スウェーデンオリンピック・パラリンピックチームのメインパートナー兼、選手のウエアを提供するオフィシャル・クロージング・パートナー契約を締結(2020東京と2022北京)。2020年7月には、ユニクロ初のチームブランドアンバサダー「ユニクロ チーム スウェーデン」を結成。選手からのフィードバックを反映し改良を繰り返し、大会公式ウエアと、競技ウエア(20種目)を開発。

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 スウェーデンチームのスポンサードのきっかけは、2018年、「ユニクロ」が北欧初店舗を首都ストックホルムにオープンした際に遡る。新パートナーを探していた同国のオリンピック委員会最高経営責任者のピーター・レイネボ氏が、商品群を見て、選手たちが、東京と北京のオリンピックでパフォーマンスを発揮できる機能性とクオリティを感じ、「ユニクロ」にアプローチしたのが事の始まりだ。グローバルブランドアンバサダーである、テニスの錦織圭やロジャー・フェデラー、国枝慎吾らの国際試合にユニフォームを提供してきた実績も認められた。それまでのスポンサーは同国の国民的ブランド「H&M」だったため、ライバルへの乗り換えは、ちょっとした“事件”でもあった。

 また、「ユニクロ」を手がけるファーストリテイリングは、「サステナブルでなければ生き残れない」「サステナビリティを本業に据える」と表明しているが、北欧・スウェーデンはサステナビリティ先進国だ。会社の目指す方向性とも合致し、学ぶことが多い点もパートナーシップを後押しした。

 マーケティングマネジャーの小笠原一郎氏は「スウェーデンチームからは、『ユニクロ』のLifeWearのコンセプトに非常に共感いただいた。トレーニングでも日常生活でも着られるウエアは好評だ。究極のアスリート視点で作った商品は、動きやすさや軽さ、夏でも快適に過ごせる点や、サステナビリティの一環でもあるが、良いものを長く着ていただく観点からも、一般の人たちにも求められるものだと考え、『Everyday Performance』をコンセプトに、広く販売することを決めた」と説明する。

 競技用ウエアや「UNIQLO+」の開発に重要な役割を果たしたのが、ユニクロ有明本社の5階に2019年に開設した「服の基礎研究所/ラボ(人工気象室)」だ。湿度や温度、風、日射などの環境条件を変えて様々なデータを取得することができる。マイナス40から+60℃まで、真冬のロシアや高温多湿な東京など、世界の気候を再現し測定できるもの。

 ラボで実験や研究を担当した石田聡美さん(R&D部、服の基礎研究所、研究員)は、人間工学や体型美などを研究してきたキャリアの持ち主だ。今回のプロジェクトでは、「様々な数値だけでなく体感などのデータを集めて商品に反映し、通気性や速乾性など、確かなクオリティや機能性を高めることに注力した」という。とくに、今回の「UNIQLO+」の肌離れの良さと通気性、軽量性はこれまでのスポーツユーティリティウエアよりもかなりグレードアップしているという。

「選手や社員を含めた一般の方々に運動テストかと思うくらいトレッドミルを走ってもらったり、クールダウン時に着用したりしながら実験を進めた。基礎的な体型や、一般人に比べて基礎代謝が高いアスリートの発汗の仕方や体温の上がり方などを調べて、服の中の通気性の向上や、速乾、クールダウンのしやすさなど対策を講じていった。高温多湿な中で汗をかくと、自覚しにくいけれども、衣服が体に張り付いてしまうので、『肌離れのよさ』を意識した。数字の違いだけでは効果がわかりにくいので、どのように快適なのか、涼しいと感じられるのか、などを、言葉やキーワードとして抽出して、わかりやすくすることで結果や改良につなげていった。汗をかきやすい箇所やストレッチ性を高めたい箇所の素材や伸縮率を変えたり、ストレスを軽減する重要ポイントである重量を軽くするなどして、疲れにくく、パフォーマンスの高さにもつなげていった」

選手たちのフィードバックをもとに、改良を重ねて完成した「UNIQLO+」

 選手たちのフィードバックをもとに、改良を重ねて完成した「UNIQLO+」は、ウィメンズ、メンズの各7アイテムだ。アスリートは大会に向けて体を作り上げると、体格やサイズが大きく変わるものだ。その変化にも快適に対応できるように、ウルトラストレッチ素材のストレッチ性を高めており、その機能性を「UNIQLO+」にも適用している。ニットジャケットの肘を選手の動きに合わせて少し曲げた形に編み立てたり、ショーツのウエスト部分を1枚布にして軽量化するなど、アスリート向けに研究開発した機能などを「UNIQLO+」に落とし込んでいる。

 サステナビリティの観点では、10アイテムにリサイクル素材を使用。グローバルブランドアンバサダーがテニスの国際試合でも着用する、ペットボトル由来の再生ポリエステル素材を使用したドライEXに加え、新たに、再生可能資源のバイオマス原料(トウモロコシなど)由来のポリエステル繊維を一部に採用。パーカーにはフッ素を使わない撥水加工剤を使用した。リサイクル素材でありながら、タフな運動をしても長く着られる品質を維持できるものを作り上げられたのは、戦略的パートナーシップを結ぶ東レのテクノロジーの賜物でもある。

 さらに、「スウェーデンは美意識が高い国。より快適で、ファンクショナルで、見た目のデザイン性の高さやパターンの美しさなどを目指した」とも明かす。カラーリングもスウェーデンカラー(青、黄色)と、夏でも涼しく感じられるライトグレー色を基本にカラーバリエーションを決定したという。男女すべて同デザインであり、ジェンダーレスアイテムという点でも「ユニクロ」の中では新鮮さがある。

 公式服ではユニバーサルデザインとして、ニットジャケットに片手で開閉ができるファスナーをユニクロで初めて採用している。「スウェーデンチームと共同開発したウエアはLifeWearだ。高品質で、長く使えて、誰もが気軽に手に取れる服。そして、あらゆる人のあらゆる生活のために作られた、『Made for All』な服であることを目指している」と小笠原氏。ユニクロ流のアダプティブウエア(障害者用ウエア)の開発拡大にもつながりそうだ。

 ちなみに、ネーミングの「UNIQLO+」について、小笠原氏いわく「ポジティブな印象、アクティブな印象で、着用することで、前向きで健康的な生活、アクティブ・ヘルシー・リビングを過ごしてほしいという思いが一つ。もう一つ、スウェーデンの国旗の十字を意識した。また、『+』には「ネクスト」とか「次」という意味もある。ユニクロのLifeWearの次の形をうまく見せられればという思いもある」。

 全く新しい取り組みであるため、コンセプトを伝えられる売り場で世界観を表現しながらコミュニケーションを図ることを重視。UNIQLO TOKYOなどの世界の旗艦店や超大型店などの限定店舗とオンラインストアで販売している。展示会でお披露目した際、メディア関係者から、「アウトドアでも着たい」「軽くてコンパクトで洗ってもすぐ乾くので、旅行や出張にも最適そう」との声が聞かれた。

 スウェーデンチームの東京五輪での活躍も気になるところだが、契約は冬の北京五輪まで続いている。ウィンタースポーツ用の公式服や競技ウエア開発に当たり、ラボの石田さんは「北京の冬は相当気温が下がり、降雪もある。雪や氷、床など足元からの底冷えなども含めて、環境を把握し、開発につなげている」という。「UNIQLO+」の秋冬商材の発売も待たれる。小笠原氏は「スポーツ人口やウェルネスを目指す人々が世界的に伸びている。日本でも健康を促進したい方々や、高齢者を含めた生涯スポーツ参加者も増えている。LifeWearとしては切り離せない重要な市場だ。『スポーツユーティリティウエア』ラインや『UNIQLO+』で提案を強め、LifeWearの幅を広げて、より多くの方々のスポーツを含めた日常生活で着用してもらえるようにしたい」と意気込む。

「ユニクロ」の小森田真也グローバルMD部部長への一問一答

スポーツを日常的に楽しむ人々が増える中で、ユニクロのノウハウを最大限に活かした新しいLifeWearを届けたい

Q:ユニクロ全体の商品群の中で、「UNIQLO+」の位置付けは?

A:スポーツを通してより豊かなで健やかな暮らしを実現しているスウェーデンからインスパイアされ、トップアスリート達からフィードバックをもらい完成させた、全く新しいコレクションです。世界的にもサステナブル大国として知られるスウェーデンとの協業により、リサイクルポリエステル素材の使用をはじめ、サステナビリティの要素を取り入れております。昨今では運動を日常に取り入れ楽しむ人々が増えていく中で、ユニクロは、カジュアルに、そしてアクティブに日常を過ごしていただけるSUW(スポーツユーティリティウエア)商品や、ユニクログローバルブランドアンバサダーと共同開発したスポーツウエアなどを展開しており、「UNIQLO+」も同様に、スポーツと日常を快適に、健康的な生活を過ごしたいというお客様を応援したいという思いで、開発しています。


Q:「服の基礎研究所/ラボ(人工気象室)」ができたことによる商品開発や売り方などで大きく変わったことやプラスになったことは?

A:製品の機能性を正確に把握・評価し、お客様が求める高品質なLifeWearを開発するために活用しています。パートナー企業や第三者機関による調査結果と併せて製品の機能性を評価する役割も果たしています。着心地などの感覚による評価だけでなく、仮説と検証を繰り返し、科学的な根拠に基づいた商品開発ができ、一年を通して世界中のあらゆる気候、温湿度を設定した検証を行うことができます。その製品が着る人の生活をどのように快適、かつ活動的にできるのかを自社でスピード感をもって検証できることは、お客様のニーズに応えるウエア開発にとってプラスになっていると感じます。


Q:再生ポリ、バイオマス由来繊維、フッ素不使用など素材を中心にサステナブルな商品開発も行った。サステナ先進国のスウェーデンチームとの協業によって、ユニクロのサステナブル商品の開発はどのような刺激を受けたのか?

A:スウェーデン選手たちとのサステナブルな服開発は重要なキーワードでした。ユニクロがこれまでも取り組んでいるリサイクルポリエステル素材の使用だけでなく、ウエア一つ一つの素材選びや開発行程について、細かなフィードバックをいただきました。地球環境に余計な負担をかけにくく、かつ高い機能をも両立するコレクションを完成させました。トップアスリートも認める高品質な服は、シーンを選ばず着用いただけること、またより長く着続けていただくことができ、“持続可能性”にもつながっていると考えています。


Q:6月7日から発売しているが、反響や売れ行きは?

A:梅雨時で蒸し暑い季節を迎え、吸汗速乾性やドライ性を高めたコレクションはお客様に好評いただいています。特にポケッタブルパーカやウルトラストレッチ素材のボトムスなど、より日常的に洋服の部品として使えるアイテムが好調に推移しています。


Q:今後の「UNIQLO+」の商材の拡大の計画について。夏商品の追加品番投入や、冬アイテムの開発状況、展開店舗の拡大などを教えてください。

A:拡大や冬アイテムの開発状況については公表しておりません(6月28日現在)。このような新しいコンセプトで産まれた商品は、スポーツを楽しんでいただく際に活躍することはもちろん、日常においても快適に着ていただけると思います。これからもスポーツ・運動を日常的に楽しむ人々が増えていく中で、ユニクロがこれまで培ってきたウエア開発のノウハウを最大限に活かして、SUWなども含めて新しいLifeWearをお客様にお届けしていきたいと考えています。

ユニクロがオリンピアンの声を集めたユニフォームと一般モデル「UNIQLO+」を発売開始

ユニクロは2021年7月から開催予定の東京オリンピック・パラリンピックでスウェーデン代表選手団が大会期間中に着用する公式ウエアを発表した。東京の猛暑と湿気の中でも選手たちが競技で最高のパフォーマンスを発揮できるようデザインされているという。

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19年続くサッカーキッズ支援 ユニクロが世界の子どもたちに夢を届ける理由

JFAが主催する未就学児を対象としたサッカーフェスティバル『JFAユニクロサッカーキッズ』のこれまでの参加者は、約28万人に上る。2021年度も、6月27日(日)の新潟『デンカビッグスワンスタジアム』を皮切りに全国15か所の会場で開催されることが、4月13日の記者会見で発表された。

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松下久美

著者プロフィール 松下久美

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表 。「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、25年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッドなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。