「やってきたことが間違っていなかった」開幕からの連勝で得た自信
―開幕から振り返っていかがでしたか。
田口:開幕戦のジュビロ磐田戦で勝てたことが、良いスタートをきれた要因だったと思います。もちろん勝つつもりで準備はしていたのですが、周りから「FC琉球は降下候補だ」と言われていたのも知っていて、ジュビロ磐田が勝つだろうと思われていたと思いますが、そこを覆して勝つことができたのが、チームの自信になりましたね。あの試合は最初に先制して、残りの時間は守って勝つことができたので、僕としては守備を構築できたという手応えがありました。
―田口選手個人として、どんな手応えを感じましたか。
田口:身体の状態も良くて、シュートをしっかりと止められました。今まで準備してきたことが出せて、自分の力を確信できましたね。そこからどんな相手と対峙しても、自分の力を出せればいけるんだという自信が持てました。選手にとって自信はとても大きな力になるので、公式戦の場で結果が出たことによって、「今シーズンはいけるな」という感覚が芽生えました。
―これまでと違ったことはありましたか。それとも積み上げたものですか。
田口:積み上げだと思いますね。昨シーズンの終わりに連続で試合に出場して、その時に掴んだ自信と、オフシーズンで身体の状態を見直して、レベルアップのために時間を費やしたことによって、結果に繋がったのではないかと思っています。自信の話ばかりになってしまいますが、「やってきたことが間違っていなかった」、「やっと結果が出せた」と思えたことが自分の中で大きかったですね。
―チームとしては、どういうことを意識していましたか。
田口:振り返ると、負ける気がしませんでしたし、チームの状態もとても良かったので、勝てるという自信がありましたね。また、自信はありましたが、チームに驕る雰囲気はなく、「目の前の試合が大事」ということを合言葉のようにみんなが言っていて、目の前の試合をしっかりやることが、連勝に繋がったのではないかと思います。
―そのあと町田戦で負けてしまいましたが、そのあとしっかり勝ち星を重ねていて、強いチームだなと感じましたが、その要因はどのように感じていましたか。
田口:町田戦は、0対3で完敗という言葉がぴったりと思うくらい、何もできませんでした。ただ、長いシーズンなので、「負けた後が大事」ということを、監督も言っていましたし、みんなも認識していたので、引きずることなく、「次必ず勝とう」という気持ちに切り替えて、ホームの甲府戦に挑めました。その試合では、個人的には完封できましたし、チームも1対0という形で勝てたので、悪い流れを切ることができ、今までのFC琉球とは違うところをお見せできたのではないかと思います。
「次の試合が大事」勝っていても負けていても変わらない意識
―その後、連勝していくなかで、怪我をしてしまった時の心境はいかがでしたか。
田口:怪我をしたタイミングが、連敗をした時だったので、怪我をしたことよりも、勝ちを伸ばせなかったという悔しさを抱えていました。なおかつ今シーズン最初の、チームとして苦しい時期でもあったので、「状況を変えたい」、「次の試合できっかけを掴みたい」と思っていた中で、自分が離脱してしまい、チームに関われなくなってしまったのもあり、苦しかったです。でも、翌日には、仲間を信じて、自分が戻ってきた時にチームを救えるように、この時間を大切にしようと切り替えることができました。
―個人としても調子が良いタイミングでの離脱だったと思いますが、葛藤はありませんでしたか。
田口:自分が怪我で休んでいる間に9試合あったので、その試合を見ながら、「試合に出たい」という気持ちがすごく出てきましたね。スタンドでチームが負けてしまう試合を見ると、「ああ、自分は何をやっているんだろう」と思っていました。負ける悔しさも一緒に共有できないという悔しさがあって、早く一緒に戦いたいという気持ちでしたね。
―焦りもありましたか。
田口:焦りもありましたね。一試合でも早く戻りたいと思っていましたが、焦ってリハビリのスケジュールを前倒ししようとすることが、果たして未来の自分にとってどうなのかとか、今シーズンの一試合も大切だけど、サッカー人生として捉えたらどうなのかとか、色々なことを考えながら、トレーナーさんと話してリハビリを進めました。
―復帰した後の一戦目はいかがでしたか。
田口:僕が離れている間のチームは、勝ったり負けたりを繰り返して、そこまで想像していたほど勝ち点を伸ばせていなかった状態でした。その中で自分が帰ってきたことで、「潤人が帰ってきたから勝てるようになったよね」というように選手としては言われたいですし、自分が出ることで勝ち点を取れる試合を増やして、自分の力を証明したいという気持ちがあったので、この最初の試合で勝たないといけないというプレッシャーを自分に与えて臨んでいました。
―復帰戦では引き分け、次の試合では勝利しましたが、その後4連敗という苦しい期間に入ってしまったと思います。その時はいかがでしたか。
田口:チームの歯車が狂ったような感覚がありました。怪我人がたくさん出てしまったという面もありましたが、その中でも勝てる光が見出せないような、何もかもがうまくいかないという感じでしたね。チームとしても個人としても、どうにか良い方向に持っていこうと、選手間でより確認をしたり、話す回数を増やしたりというのを意識していましたが、結果に繋がりませんでした。勝てば昇格、負けてしまえば今年は厳しいという局面で勝てなかったので、チームの成熟度や力の差を感じ、「昇格は甘くない。もっとレベルを上げないと、ここから上には行けない」というのを感じましたね。
―自信を失いかねない1ヶ月だったと思いますが、メンタル面ではいかがでしたか。
田口:連敗していた時にも、試合中怪我をしてしまって、その後3試合出れませんでした。長崎、京都、群馬とやって負けてしまったのですが、京都戦の負けが自分の中ではとても大きかったです。長崎に負けた後の試合で、連敗はしないと決めて挑んだ試合でもありましたし、落とせない試合だったのに、ロスタイムに勝ち越しゴールを決められて負けてしまいました。勝ち点を取れるか取れないかで、大きく結果が変わる試合だったので、その試合を取れず、自分の中でガックリしてしまいましたね。そして、次の群馬戦では、もう負けられないと挑みましたが、前半に失点してしまい、怪我もしてしまって交代してしまったので、個人的には新潟戦と同じように、またしてもチームが苦しい時に怪我でいられないという無力感に悩まされました。自分が抜けてからもチームはなかなか勝てずに、みんなが浮かない顔をしていたり、雰囲気が暗くなってしまって、それでも自分は一緒にその想いを共有することができない悔しさもありましたね。それと同時に昇格という希望が無くなってしまった時期でもあったので、J1という世界は甘くないんだなというのを実感しました。でも、勝てない時期をなくすことで、逆にJ1にいけるかもしれないんだという希望も抱きました。
―その期間にどのようなことを意識していましたか。
田口:自分がプレーしている時は、引きずらずに切り替えることを意識していましたね。シーズン始まった時から「次の試合が大事」ということを意識して、目の前の試合の勝ち点3を取ることに集中していました。それは連勝している時も連敗している時も同じなので、しっかり頭を整理して試合に臨むことを意識していましたね。
―頭を整理するためにどのようなことをしていましたか。
田口:今やるべきことに集中することで、集中力が増すと思っています。例えば、負けてしまった次の日の練習でも、目の前の練習でやるべきことをちゃんとやるというのを意識していますね。身体の準備もそうですし、一本一本のシュートに対するアプローチなど、そういうところをしっかりとやることで、週末のゲームに生きると考えていて、先のことを考えるよりも、今日の練習、今日の試合に意識を持っていくことで、集中力を保っています。結果を気にしてしまったり、集中力が落ちているなと感じた時は、より目の前のことに集中するように心掛けますね。
「大切なのは試合で自分の力を発揮すること」適度に力を抜くことを学んだ今季
―復帰後もスタメンを守り続けたのも、新たな自信に繋がったのではないかと思いますが、いかがでしたか。
田口:怪我をした後に、また試合で使ってもらえる確信はなかったので、出た試合で結果を出して、「潤人が出た試合では勝てる」と思わせる必要があります。そういう意味では、復帰した山形戦で勝てませんでしたが、勝ち点を取れて次に繋がったのではないかと思います。その後2回目の復帰後の試合は負けてしまったのですが、そのタイミングで監督が変わり、初戦で使ってもらい、勝ち点3を取れたので、その後の試合に繋がりました。節目節目でしっかりと結果を出したことが繋がり、キャリアハイの42試合中30試合に出ることができました。
―それだけの出場時間を獲得して、また今までと違った自信を持てたのではないかと思いますが、いかがでしたか。
田口:一度抜けてしまった後でも、自分のパフォーマンスが取り戻せるという経験が、自分のサッカー人生においての引き出しになりました。ピッチに立てば力を発揮してくれると思ってもらえれば、選手として嬉しいので、それを2度も経験できたのは大きかったですね。
―新たに今シーズンやったことや辞めたことはありますか。
田口:良い意味で、細かいところを気にしなくなりました。完璧主義者のような性格があって、例えば「練習でできないことは試合でできない」という日本人独特の考え方がありますが、僕の中では、練習でやりすぎてしまって、コンディションが落ちてしまい、週末のゲームに間に合わないことがありました。自分の自己満で練習をやった感を出すためにだらだらと練習するくらいなら、早々に切り上げてケアに時間をかけるなど、試合に力を発揮するために必要なことの取捨選択をするようになりましたね。生活でも、「これは食べないといけない」とか、「これは食べないようにしよう」など気にしていましたが、そこまで気にすることもなくなり、たまには甘い物やお菓子なども食べるようになりました。真面目にやりすぎず、適度に力を抜きつつ、大事なものは何なのかという本質を見て、試合に向けて考えられるようになりましたね。大人になったのかもしれません。
―若い時は難しそうですね。
田口:これが絶対大事だと思ってしまう性格だったので、それができなかったらどうしようと思ってしまっていました。でも、試合で自分がパフォーマンスできれば問題ないので、試合で自分の力を100%発揮するために何が必要かを考えるようになりましたね。
―それで、どのような変化がありましたか。
田口:過ぎたことを気にしなくなりました。過去のことでも先のことでもなく、今やるべきことに集中しようということと、適度に力を抜いてやることのバランスが取れるようになって、そこから生まれた余裕が、プレーの余裕に繋がったり、人としての落ち着いた振る舞いに繋がったのかなと思いますね。
―歓声が出せない中ですが、ファンサポーターの皆さんの力を改めて感じた1年だったと思います。
田口:そうですね。沖縄だけ無観客という試合が結構あって、アウェイチームのサポーターの入場制限もあり、ホームでもアウェイでも琉球サポーターが一人もいないという状況が2,3ヶ月続きました。その時期と、勝てない時期が重なっていたので、サポーターの皆さんの後押しが、ひと踏ん張りに繋がるのを感じた1年でしたね。
―ファンサポーターの皆さんへ、メッセージをお願いします。
田口:今までの日常が少しずつ戻ってきて、サッカー界でも入場者数が緩和されてきています。来季は今季経験した悔しさをバネに頑張りたいと思っていますし、サポーターの皆さんにも悔しい思いをさせてしまったので、僕らの力を合わせて、より高みを目指すために一緒に戦ってほしいです。
―来季の意気込みを教えてください。
田口:個人的には、全試合出場を目指しています。シーズン序盤では無失点試合が多かったのですが、終盤にかけて毎試合1点は取られていたので、その数字を変えていきたいですね。チームとしては最終順位が9位で終わったので、9位よりも上にいくのがまず目標です。そして、今季J1昇格という希望が見えたこともあり、今季経験したものを来季にぶつけなければいけないと思うので、昇格争いまで食い込むことも目標ですね。