「顧客体験の価値を最優先する」オンラインが主流になった今だからこそ、大切にしていること

―感染症が流行した2020シーズンから、時系列順にお話をおうかがいします。まずは、2020シーズン、感染症の流行で開幕が遅れてしまった当時の心境をお聞かせください。

清水:僕は本業がチケッティングなので、正直だいぶ混乱しましたね。一生懸命売ったチケットも全部払い戻しになってしまったこと、そしてお客様に観戦という楽しみを届けられなくなってしまったことにショックを受けました。
ただ、その一方で、感染症が流行する以前から、オンラインやリモートでのアクティベーションに注目していたので、その領域にトライできるチャンスだと思い、前向きに捉えていました。

―清水さんは、そういった状況下で様々なオンライン上のアクティベーションを手がけられたと思うのですが、その中でも印象に残っているものを教えて下さい。

清水:オンラインでも実施したファン感謝DAYは僕の財産になりましたね。

オフライン(神宮球場)でのファン感謝DAYと並行して、観客数などに制限があったので、オンラインでも楽しんでいただけるようこの取り組みを行いました。「オンライン神宮タウン」と命名し、オンライン上でファン感謝DAYの配信を視聴できたり、グッズや神宮球場のグルメを買えたりという形で、オンライン上で神宮球場と、その周辺のグッズショップなどを再現しようという取り組みです。
「オンライン神宮タウン」にファンの方々、同じ想いを持った方々がたくさんいるという状況を作れたことが良かったですね。そこで色々なコンテンツを発信していくことで、家にいながら神宮球場での体験を味わえるような世界観を表現できていたのではないかと思っています。同じ業界の方からも、「よくあそこまでできたね」とおっしゃっていただきました。

また、オンラインではないですが、印象に残っているのは、2020年7月、感染症の流行後初の有観客試合ですね。5千人のお客様の前で試合をしたのですが、その時のことは鮮明に覚えています。今まで神宮球場という、直接ファンの皆様と接点を持てていた場所がいきなり失われ、混乱しましたが、オンラインのコンテンツでファンの方との接点を持ち続けて、やっと球場に戻ってきていただいて、会えた時の喜びは大きかったです。オンライン上でも、ファンの方が球場に戻ってきやすいように、気持ちを切らさないための工夫をずっと考えていたので、喜びは一層大きなものになりましたし、実際に球場に来て、生で野球を感じられることがどれだけ素晴らしいことであるか、お客様にも体感いただけたと思います。球団運営に携わる我々も、あのフィールドは強力なものだなと、改めて感じました。

―日本のスポーツ界も、他業界に比べてまだまだな部分はあるものの、オンライン上の施策も普及してきました。これからどのように様変わりしていくとお考えですか?

清水:あくまで僕の考えですが、オンラインという領域に拘泥することなく、その時にお客様が一番親しみやすい場所を常に提供してあげることが、あるべき姿だと思っています。
例えば、神宮球場の付近にお住まいの方にとっては、オンラインでグッズを買うよりも、グッズショップに直接買いに行った方が良いと思います。「今はオンラインが主流だからお店を全部潰そう」というような考え方は、お客様のニーズに合っていません。本来は「顧客体験の価値」を最優先させた中で、そのツールとしてオンラインのフィールドと、オフラインのフィールドがあるべきだと思います。テクノロジーが普及し、便利なものはほとんどオンラインであるかのような世界になっていますが、基本的にはお客様の想いに寄り添ってあげることが基本であり、今一度そこに立ち返るべきだと思いますね。それは、オンラインが悪い、オフラインが良いということではなく、オンオフどちらも関係ないということです。デジタル化させて、本当にそれがお客様のためになっているのかを考えた時に、本当にそうなっているものばかりではないなと、今のスポーツ界を見ていて思うので、自分が実施する取り組みについては、お客様ファーストな施策を提供できるように心がけています。

©TOKYO YAKULT SWALLOWS

「ファンの方の人生の一部でありたい」ファンアクティベーションの意義

―オンラインのアクティベーションの一つとして、株式会社PASUが提供する「PasYou」と連携し、ビデオメッセージを活用した施策を実施されたとおうかがいしました。
清水:今までであれば、エスコートキッズや始球式などで、選手を近くで見る経験ができました。ただ、今はそれができないので、ビデオメッセージを使うことで、選手を近くに感じることができるのではないかと思い、導入しました。
実際、導入してみて、選手に自分の名前を呼んでもらって、自分に向けてのメッセージやアドバイスをもらえることは、とても素晴らしいことだなと感じました。これまでは、サインや握手、写真など、その瞬間しか接点を持てないファンアクティベーションがほとんどでしたが、ビデオメッセージという形で、選手がファンの方の人生に入っていけるというのは、やっていて本当に価値のあるものだなと思いましたね。

また、僕は石川投手のビデオメッセージの撮影に立ち会ったのですが、「とてもいいね」と言ってくれていました。特に石川投手は話すのがとても上手な方なので、リクエストに加えて、ご自身の経験などを踏まえた「自分の言葉」で伝えてくれていたので、より熱量の高いメッセージになっているなと感じました。選手たちの空いている時間で、気軽にファンに対してアクティベーションができるという面で、とても良いと思ってくれていましたね。
今は、選手がファンの方と交流ができる場がなくて、インスタライブなど、できることを選手個人が探りながら発信している状況ですが、今回のビデオメッセージのように、選手のやりたいことを球団が一緒になってやっていくという姿は、本来あるべき姿なのではないかと思います。選手会と良いコミュニケーションが取れて実現できたので、嬉しかったですね。

©TOKYO YAKULT SWALLOWS

球場に空席が目立っても「焦りはない」

―感染症が流行する前後で、お客様の変化はありますか?

清水:ファンクラブや年間シートの利用者は増えていますが、球場に足を運んでいただいているお客様はコロナ前と比べるとまだまだ遠いものがあります。僕はチケッティングを担当している以上、興行を制限がない状態でできるのであれば、「ぜひ来てね」と言いたいのですが、実際は感染症の流行が収束したわけでもありませんし、今後も付き合っていかなければいけない問題なので、球場に足を運んでいただけるよう、段階的な取り組みの必要があると思っています。
感染症の影響で、ここ数年はオンラインに力を入れていましたが、興行が復活した瞬間に、「球場に来てね」と言うのは、こちら側のエゴです。オンラインでしかスワローズとコミュニケーションを取れない方々とも向き合っていくことが、今後の課題ですね。2019年までの僕たちは、神宮球場での興行のことをメインとして考えていましたが、感染症の流行により、新たにオンラインというツールを主流にしました。そして、今興行が復活してきて、興行とオンライン、両方の取り組みを行っていくというのは非常にカロリーを使うことではありますが、オンラインでスワローズに興味を持っていただいた方々に、継続的に寄り添うことも大切にしていきたいと思っています。

―球場に客足が戻らない要因はどこにあるとお考えですか?

清水:自粛生活に慣れてしまって、それ以前の日常に戻らなくなっているのが大きいと思います。僕も感染症が流行する以前は週3回ほど外食をしていましたが、今ではほとんどありません。自分たちも元の生活に戻っていないので、2019年以前と同じような勢いでお客様が球場に来るとは思っておらず、正直仕方ない部分もあると思っています。「制限がなくなったのに球場に来ない人はファンじゃない」なんてことは絶対ないですし、「今は感染症が流行しているのだから、球場に行くのはやめておこう」とお客様が思うのは、至極当然のことだと思っているので、客足が戻ってこないことに対しての焦りはありません。

ー最後に、感染症の流行を経て、ご自身のお考えなども変わった部分はあるかと思うのですが、これからの東京ヤクルトスワローズが目指す姿を教えて下さい。

清水:我々球団としては、様々な取り組みを通してファンの方の人生の一部でありたいと思っています。9イニング球場に座って野球を観ることだけが、スワローズとの関わり合い方ではないと感じていただきたいですね。ファンの方が何かをする時の選択肢になりたいと思っているので、他球団さんがやっているような、球団が主催するライブやフェスを開催しても良いと思いますし、ある種の「総合商社」のような役割を担っても良いのではないかなと。もちろん根底には「野球を通じて人に感動を届ける」という想いがありますが、それ以外の部分でも社会に影響を与えていきたいので、これからも新しいアクティベーションに積極的にチャレンジしていきたいです。

本文中に紹介したビデオメッセージの取り組みはこちら

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VictorySportsNews編集部