「妥協している自分が嫌だった」現役引退を決意した背景

ー昨年の全日本選手権で、テニスプレイヤーとしては引退を発表されました。引退を決意されたきっかけと最後の舞台として全日本選手権を選ばれた理由を教えてください。

添田:30代後半にさしかかるくらいになると、自分が築いてきたピークにはたどり着けないなって思ったんですよね。そうなるとどんどん目標を下げていかないといけなくて、その目標にたいして、100%向き合えなくなった自分がいました。昔に比べて妥協している部分はありましたし。そういった中で引退というものを決意しました。そして、最後の年にそういう自分でいることが嫌だったので、もう海外に行くのはやめて、全日本で優勝という目標を掲げてやろうというふうに決意しました。

ーご自身の中で「やりがい」というものを強く意識されてるんですね。

添田:真剣勝負がない仕事はできないんだと思いますね。楽しいだけの仕事も好きなのは好きなんですが。とにかく自分本位なんだと思います。例えば、指導者をやられている方は、指導している選手を上達させることに喜びを感じると思うんですけど、僕の場合は見ている選手が勝てば自分も勝った気になれるというか。気持ち的には自分が現役のように思って取り組んでいます。

ー今お話にも出たように、現役を引退された後、デビスカップ(テニスの国別対抗の団体戦)の監督に就任されましたが、監督になってから現役時代となにか変わった部分はありますか?

添田:生活リズムとしては現役の頃と変わってないですね。朝から練習があるときは早く起きて、帰るのは夕方くらいで、食事も寝る時間も変わらないですね。ただ、普段の意識は変わりましたね。食事の内容だったり、サプリメントだったり、そういったことをあまり気にしないようになって、気持ち的には楽になりましたね。
逆に、自分以外の選手のことを考える時間は増えました。コミュニケーションを取ったり、気配りをしたり、今後のプランを練ったりっていうような、テニスに関することに向き合う時間は現役時代よりも長くなりました。自分本位ではあるんですけど、他の選手の技術面だとか細かい話ではなく、今後どういうふうにしてその選手がより活躍しやすい環境を作っていくか、ということに関して考えるのはすごく好きですね。

ー現役時代よりも長くテニスに向き合うようになった、というお話がありましたが、現役時代はあまり考えすぎないようにされていたんですかね?

添田:そうですね。ルーティンとかも他の選手に比べると少なかったと思います。細かいことを考えすぎるときりがないというか。次の目標をたてるときは何年後とか、大枠で物事を考えていました。
逆に西岡とか錦織とかは割と細かいことまで考えている方だと思いますね。会話をしていると細かいことまで考えているんだなと感じます。考えている選手のほうが、その細かい部分まで実際に行動に移せるのであれば強くなると思います。自分や相手選手の分析をできる選手は強いと思いますし。自分自身は相手に対してアプローチすることはあまりできなかったですね。

ー逆にご自身の「考え方」の部分での強みはどういったところにあると考えられていますか?

添田:自分と向き合う部分では長けていたと思います。他の選手なら気持ちが切れているところを、別のアプローチをひらめいて解決できたからこそ強くなれたと思いますし、長く現役でプレーできたのかなと思います。

僕は「コーチ」には向いていない。監督とコーチの役割の違い

ー監督としての仕事はどう感じられていますか?

添田:監督になってもう少し教えることがあるのかなと思っていたのですが、各個人の選手についているコーチではないので、技術面を指導するっていうことはあんまりしていなくて。コーチの領域まで入ってはだめだなと監督になってから感じました。あくまでまとめ役というか、チームマネージャーみたいな気持ちのほうが強いですね。いかに選手をまとめて勝てるチームにしていくかっていうところを重視しているので、そこは選手のときの監督像とは変わりましたね。

ー理想の指導者像に関しては、現役時代と今で変わった部分はありますか?

添田:僕は結構自分で考える方だったんですけど、いざ教える側になると、もっと教えてもらいたかったなと思いますね。ただ、それは正しい知識でないといけないので、その教える技術を得るためには自分が正しい知識をどんどん学んでいかないといけないなと思います。
ただ、自分自身はまだ「コーチ」には向いていないと考えています。監督をやめてコーチになるかと言われれば分からないですし、どちらかというと技術を教えるよりも気持ちの面だったり、環境とかをサポートしてあげるほうが自分もやりやすいと考えています。

ーどういった部分で、コーチには向いていないと感じられたのですか?

添田:コーチに向いているのは、研究熱心な人だと思います。常にテニスのことを考えていて、家に帰っても勉強したり、細かく考えながら言葉にできる人ですね。僕はどちらかというと感覚で生きていて。細かいことよりも、考え方の部分でテニスは変わると思います。家に帰ってまでテニスのことを考えたくないですしね(笑)。技術の細かいことを勉強することは得意ではないので、コーチには向いていないなと。逆に、僕は「チームをまとめて、勝たせるためにはどうすれば良いんだろう?」ということに関しては、解決策がどんどん出てくるので、そういう意味では監督に向いているのかなと思います。


ー監督という立場から、日本のテニス界の強化を図るうえで、日本人選手の底上げを考えているのか、それともトップの選手を育てていきたいのか、どちらの気持ちのほうが強いですか?

添田:トップの選手ですね。トップの選手じゃないと、選手の熱量が自分の熱量を下回ることがあるんですよね。本当に強くなりたいっていう思いがないと、僕自身が一気に冷めてしまいます。トップの選手であれば厳しい世界で生き残りたいという思いが強いし、それに対して負けないように自らの気持ちを奮い立たせることができるので。
これまで僕が指導してきた選手たちは、みんなうまくなりたいとか、強くなりたいっていう気持ちが強かったですね。やるべきことをちゃんとやっていたり、普段はみんなと変わらないけど、自分のテニスに対しては厳しい側面を持っていたと思います。練習に手を抜かないですし、練習試合にしても集中して100%やっていて。強くならない選手はそこに入っていけないですね。結果、どんどん差が開いていく形になるのかなと。

日本のテニス界を盛り上げるための取り組み

添田豪氏のコメント
「22年の10月の全日本で現役を引退し、デビスカップの日本代表監督に就任することとなりました。当面の目標としては、デビスカップで日本代表を優勝に導き、日本国内のテニス熱を高めるというところを掲げています。また、野球のWBCやサッカーのW杯のような、選手にとってもデビスカップひいては日本代表チームが、全選手の憧れ、目標となるような場所にするべく、貢献していきたいなと考えています。

これまでは現役選手として、日本のテニス界を発展させていくべく、このG.S CLUB(ファンの方向けのメンバーシップ)という取り組みを続けてきましたが、これからはこの場を活用して、監督という立場から、どういった活動ができるのか模索しながら、メンバーの皆さんに自分の思いを伝えつつ、また皆さんの考えを知りたいなと考えています。G.S CLUBの一員となって、日本のテニス界を盛り上げていく活動にご助力いただけると嬉しいです。」

添田豪オフィシャルメンバーシップ|G.S CLUB

22年の10月の全日本で現役を引退し、デビスカップの日本代表監督に就任することとなりました。このG.S CLUBという場を活用して、監督という立場から、どういった活動ができるのか模索しながら、メンバーの皆さんに自分の思いを伝えつつ、また皆さんの考えを知りたいなと考えています。

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Vol.2はこちら

ヒントはWBCにあり。テニス日本代表監督・添田豪が描く世界一へのビジョン Vol.2

長年、日本のテニス界を牽引してきたて添田豪。昨年の全日本選手権をもって現役を引退し、テニスの国別対抗戦であるデビスカップの日本代表監督に就任した。今回は、目標として掲げる「世界一」に向けて、監督という立場からどうアプローチしていくのかについて語った。

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VictorySportsNews編集部