メジャー覇者抑え副賞ゲット

 国内ツアーで史上7人目のアマチュア制覇を達成したのが杉浦悠太。11月中旬に宮崎県で開催されたダンロップ・フェニックスを通算12アンダーで制した。歴代優勝者にはタイガー・ウッズやトム・ワトソン(ともに米国)、セベ・バレステロス(スペイン)ら、そうそうたる名プレーヤーが名を連ねる国内屈指の豪華大会。今年も松山英樹、ブルックス・ケプカ(米国)といったメジャー覇者も出ていたが、日大4年の22歳が、並み居るプロを抑えて見事に勝利を収めた。

 優勝決定後の出来事も大きな関心を呼んだ。この大会はシーズン終盤に連続する高額賞金のイベントの一つ。杉浦は出場登録の際にアマチュアだったため、4千万円と国内では高い優勝賞金を手にできなかった。しかし、異例となる優勝インタビューでのプロ宣言をしたことで、スポンサーの意向もあり副賞をゲット。ドイツの高級車メルセデス・ベンツや宮崎牛1頭分を手にすることができた。
 
 愛知県出身で、福井工大福井高時代に日本ジュニア選手権で優勝。2019年からNTのメンバーに入り、世界アマチュアチーム選手権、アジア大会など場数を踏んで着実に地力を向上させた。速やかにプロ転向の手続きも済ませ「アマチュアの最後にうれしい結果で終われました。プロとして海外でやっていくためにレベルアップしていきたいです」。どん欲な姿勢は、右肩上がりの成長を予感させた。

物おじせず最高峰切符

 世界中のゴルファーが憧れる最高峰の米PGAツアー。欧州経由で、2024年シーズンの出場権をつかんだのが21歳の久常涼だ。昨年の予選会を通過して2023年は欧州ツアーに主戦場を置いた。同年9月には早速、フランス・オープンで初優勝し、優勝賞金の約51万8780ユーロ(約8300万円)をつかんだ。同ツアーでは青木功、松山に次ぎ日本勢として3人目のツアー制覇の快挙だった。しかも、開催された会場がパリ近郊のル・ゴルフ・ナショナル。フランス有数のコースで来年のパリ五輪も実施される。久常が五輪代表に入るかどうかは来年の成績次第だが、コースとの相性が影響されやすい競技だけに、いやが上にも期待値は高まる。

 欧州ツアーは欧州各国の他にもアフリカ大陸や中東、オセアニアを含めて広範囲で開催される。移動距離が長くてハードで、コースも多様。異国の地を巡りながら好結果を残した久常は最終戦まで戦い、ポイントランキングで17位に食い込んだ。既にPGAツアーの出場資格を持つ7人を除いて10番目に入り、PGA切符を手にした。欧州ツアーの2022~23年シーズン終了時点で、同ツアー総獲得賞金は早くも約141万6800ユーロ(約2億2700万円)に到達した。
 
 そして同シーズンには日本選手として初めて、ツアー新人王の栄誉に手にした。欧州ツアーの公式サイトに掲載されたインタビュー動画では「1年目でいろいろと貴重な経験ができました。とてもうれしくて、自分にとっては驚きのプレゼントです」と英語で心境を語った。物おじするそぶりもなく、頼もしさが漂っている。

アマ選手とプライベートジェット

 日本国内に目を向けると、23歳の中島啓太が日本ツアーで賞金王に就いた。プロ転向前、アマチュア世界一に贈られる「マコーマックメダル」に2年連続で輝いた逸材で、今年の獲得額は約1億8500万円だった。賞金ランキング2位で22歳の蟬川泰果もアマ時代に2022年の日本オープン選手権を制した有望株で、2人とも世界的な活躍がターゲット。NTの地道な取り組みが実を結んでいる。
 
 ただ、さらに次の世代に目を向けると、競技を取り巻く変化に注視が必要だろう。ルール改定でアマチュア選手でもスポンサー契約などが可能になり、市場規模が拡大した。海外事情に詳しい関係者によると、ゴルフの本場米国の各大学は知名度アップのため、世界中から有望なアマチュアをスカウトする流れが進み、学校によってはプライベートジェットで移動するなど厚遇。特に近年は中国やインド、タイといったアジア勢の留学が目立つという。
 
 米国の大学にはコースや充実したトレーニング施設を誇るチームがいくつもあり、レベルの高い試合が展開される。抜群の環境の中、伸び盛りの時期に鍛錬できれば強化の促進につながる。例えば10月下旬のアジア太平洋アマチュア選手権(オーストラリア)で、日本勢の最高は11位だったのに対し、プレーオフの末に2位になった中国選手2人や1打差の4位だった台湾選手はいずれも米大学に在籍あるいは加入予定。日本の関係者は「他のアジア勢の流れを見ると、うかうかしていられない」と危機感を示している。

 杉浦、久常、中島、蟬川、欧州ツアーに参戦する金谷拓実らには勢いがあり、2024年も国内外での奮闘が楽しみ。同時に、彼らに続く若手育成を鑑みると、日本ゴルフ界はプロの団体を巻き込んで国際的な動きへの対応が求められる1年になりそうだ。


高村収

1973年生まれ、山口県出身。1996年から共同通信のスポーツ記者として、大相撲やゴルフ、五輪競技などを中心に取材。2015年にデスクとなり、より幅広くスポーツ報道に従事