神奈川・横須賀市の球団施設「DOCK」での秋季キャンプを11月18日に打ち上げたベイスターズ。三浦監督は一定の手ごたえを示し、24年シーズンへ鋭い視線を向けた。

「目的だった個々に特化した練習を全員がけがなくできた。やってきたことを来季につなげたい」

 秋季キャンプは「個」のレベルアップを重視。提携する米大リーグ、ダイヤモンドバックスを参考に、ポジション別に練習場所を3カ所に分け、各自が課題に向き合う形などを取り入れた。1、2軍の区分けなくコーチ陣が指導。捕手の山本祐大は「来シーズンは必ず優勝しましょう」と手締めした。

 選手の能力の高さや戦力面で高く評価される一方、チームプレーの拙さが指摘されがちなベイスターズだが、例えば23年シーズンの犠打の企図数が142とリーグトップながら、犠打数は阪神と並ぶ2位の106(トップはヤクルトの115)で成功率がリーグワーストの.746(トップは広島の.889)にとどまるなど、作戦面と個の能力がかみ合っていないことが数字に表れている点はさきの記事「ベイスターズはなぜ優勝できないのか」(https://victorysportsnews.com/articles/8703)で指摘した通りだ。チーム打率がリーグ2位タイの.247、本塁打が同3位の105ながら、総得点はリーグ4位の520。「個」の能力を高めずして、チームの浮上はない。秋季キャンプのテーマを見ても、それを指揮官も強く感じていることが明らかだ。

 そこで、今回は「個」の観点から、今季の躍進のポイントを探る。まず、打線。最初に挙げられるのが1、2番の固定だ。23年のベイスターズは1番打者が打率.221、出塁率.287。2番打者が打率.216、出塁率.268。2番の数字はいずれも投手の打順である9番を除けば打順別で最低で、1番の数字は下から2番目。首位打者の宮崎敏郎、打点王と最多安打に輝いた牧秀悟らを擁する強力なクリーンアップがあっても。これでは脅威が薄れて当然だ。ちなみに、優勝した阪神は1番の出塁率が.371、2番が.350。固定した近本光司、中野拓夢の2人が機能したことが、リーグ最多555得点をマークした最大の理由となった。23年のベイスターズは1番が佐野恵太に始まり終盤の林琢真まで8人、2番は京田陽太にネフタリ・ソト、桑原将志、大田泰示ら11人が名を連ねた。最後まで重要な1、2番を固定できず、タイプも大きく異なる選手が入れ代わり立ち代わり入れば、少なからず戦術面への影響も出て当然だろう。

 そこで、注目されるのがドラフト1位で指名した度会隆輝の存在だ。鈴木尚典打撃コーチは「(23年シーズンは)1、2番を固定できなかった。そこに入ってきたら面白い」と度会を評価。ドラフト1位で競合した中日の立浪和義監督も、ドラフト前に「(今回のドラフトで対象となる打者では)頭一つ技術が抜けている」と証言したほど。現役時代に1997、98年に首位打者に輝いた鈴木コーチ、通算2480安打を記録した同監督の言葉だけに、おのずと期待は高まる。

 駒大からドラフト3位で入団し、2年目を迎える林も、上位打線を担うだけの可能性を持った選手といえる。ルーキーイヤーは65試合に出場。終盤には遊撃のレギュラー格として起用され、クライマックスシリーズでも1番打者として起用されて初戦から2安打を放つなど存在感を見せた。打率.206、0本塁打、11打点とレギュラーシーズンを通じて好成績とはいかなかったものの、7盗塁を記録するなど、ベイスターズに欠けている走力の高さも持つ。契約更改交渉後の記者会見では「1番・遊撃」定着を目標に掲げ、「出塁率3割超え、20盗塁」を誓うなど、自覚も十分だ。

 林が定位置を狙う「遊撃」は守備位置としてもベイスターズの“泣きどころ”となっており、その台頭は大きな意味を持つ。2020年に神奈川・桐蔭学園高からドラフト1位で入団した森敬斗もプロ5年目を迎え「負けられない」と、林との争いを制しての遊撃レギュラー奪取に燃えている。来季はこの“森林コンビ”の争いが、チーム全体の底上げにも大きな影響を与える。

 けが続きでこの2年間で60試合の出場にとどまるタイラー・オースティンの復活、今季打率3割を4年ぶりに下回るなど苦しんだ佐野の復調も、もちろん重要な要素となる。この2人が本来の力を発揮できれば、下手な補強以上の効果がある。

 続いて、投手。こちらは昨年からの“戦力ダウン”の影響をいかに抑えるかが課題となる。成績のみならず存在の大きさが際立っていたエース・今永がポスティングシステムを利用しての米大リーグ挑戦を決断。昨年途中からの合流ながら10勝を挙げたバウアーはメジャー復帰を目指しており、去就が流動的となっている。

 今永は昨季22試合に先発し、148回を投げて7勝4敗、防御率2.80。バウアーは19試合に先発し、130回2/3を投げて10勝4敗、防御率2.76。合わせて先発41試合で278回2/3を投げた。昨年のベイスターズ先発陣の合計投球回は854回2/3。実に2人で全体の32.6%を占めていた計算になる。チーム4位の118イニングを投げた石田が国内FA権を行使しながら残留を決めたことは追い風だが、先発陣の“駒”確保は急務といえる。

 候補となるのが若手の3投手、松本隆之介、深沢鳳介、そして小園健太だ。三浦監督は、秋季キャンプを終えた際、「面白いと思ったのは松本」と、神奈川・横浜高からドラフト3位で入団しプロ4年目を迎える左腕の名前を挙げた。左肩の手術から復帰した昨年は2軍で9試合(うち4先発)に登板し、1勝、防御率1.29を記録。伸びのあるストレートは高く評価されており、12.86という高い奪三振率(9回を投げた場合の奪三振数)を誇る。

 深沢は千葉・専大松戸高からドラフト5位で22年に入団した右腕。内外角への精密なコントロールが武器のサイドハンドで、昨年は2軍の先発ローテーションに定着。18試合(うち15先発)に登板し、6勝6敗、防御率3.28と安定感を見せた。2位争いが最終戦までもつれたため実現しなかったが、シーズン終盤には1軍デビューも予定されていたほどだ。このオフは阪神・青柳の自主トレーニングに参加予定で、自身のインスタグラムに「レベルアップしてきます!」と意気込みを記した。昨オフに同自主トレに参加した阪神・村上はMVP&新人王に輝いており、続くブレークが期待される。昨年まで2軍監督を務めた仁志敏久氏も、高橋尚成氏のYouTubeチャンネル「高橋尚成のHISAちゃん」に出演した際、真っ先に名前を挙げ「来年(24年シーズン)、使ってもらえれば」と“ネクストブレーク”を予感する。

 そして、小園。市和歌山高から22年にドラフト1位で入団。阪神・森木、ソフトバンク・風間とともに「高校ビッグ3」と称され、スター候補として注目されてきた逸材だ。体づくりに徹した1年目を経て、2年目の昨年は17試合(うち16先発)に登板。2勝5敗、防御率4.21。数字的にはやや苦しんでいる印象ながら。イースタン・リーグで先発ローテーションの一角として回り、83回1/3の投球回をこなしたことでステップアップを実感。シーズン後には、台湾でのウィンターリーグに参加し、4試合(うち3先発)に登板して2勝0敗、防御率1.42と好成績をマークした。満を持しての1軍デビューへ、「しっかり競争に勝ちたい」と意欲を示す。

 この若手3投手から1人でも1軍の戦力となる存在が出てくることが、24年の戦いにおいて重要なポイントとなるのは、首脳陣らの期待の言葉からも裏付けられる。また、昨季ドジャース、パイレーツでプレーしたアンドレ・ジャクソンの獲得に乗り出していることも判明した。メジャー通算は26試合1勝4敗4セーブ、防御率4.25。昨季は61回1/3を投げ57奪三振と高い奪三振能力を持ち、最速157キロの直球とチェンジアップなど鋭い変化球は一級品。年齢も28歳と若く、米球界での評価も高い。こちらはバウアー流出時の“保険”以上になり得る実力の持ち主といえる。そして、バウアーの残留交渉がまとまれば、これ以上の朗報はない。通算127セーブを誇り、昨年は2軍で先発として結果を残したソフトバンクの森唯斗、オリックスの下手投げ右腕・中川颯と、自由契約となった2投手を獲得。地道な補強も進めている。

 牧が佐野からキャプテンを引き継ぎ、新たな船出を迎える24年のベイスターズ。新たな「個」の台頭が、26年ぶりの栄冠へ、まずは大きなカギを握る。


VictorySportsNews編集部