そんな100周年のセンバツで最も話題を呼んだのは、新導入された“飛ばないバット”だろう。高野連は「打球による負傷事故防止(主に投手)」、「投手の負担軽減によるケガ防止」の2つを目的として新基準の金属製バットを導入。これまでのバットであれば、柵越えした思われる軌道の打球が、外野後方やフェンス手前で失速するシーンが多く見られ、今大会の本塁打はわずか3本。金属バットが導入されて以降、最少となった。

 球児たちに大きな影響を与えた“飛ばないバット”は従来のバットとどう違うのか。まず、従来のバットは最大径が67mmなのに対して新基準のバットは64mmと、バットが細くなった。それだけではない。バットを断面にした際、打球部の金属部分が約3mmから約4mmへと肉厚になった。重量は900グラムと従来と変わりないが、細くなり、さらに厚くなったことで、トランポリン効果(打撃時に投球とバットが衝突する際に生じる約3トンの衝撃によりバットがへこむ現象)を減衰。日本高野連の実験では打球初速が約3.6%減少し、反発性能も5%から9%落ちたと公表されており、いわゆる低反発の飛ばないバットへと変わったのだ。

 ピッチャーライナーなどでも投手負傷の防止、また打球速度を抑えることで投手の負担が軽減されるなどの効果が見込まれていた新バットが与えた影響、それは数字に表れている。開幕ゲームとなった18日の八戸学院光星と関東一の1回戦は両校で計17安打も長打はなく、ポテンヒットや内野安打が目立った。出場32校のうち14校が1回戦で2点以下、完封ゲームは8試合と投手戦が多く、得点力の低下に悩まされたチームは多かったように見える。今大会の本塁打数は、金属バットが導入されてからは最少となる3本。そのうち1本はランニング本塁打で、スタンドインはわずか2本と大幅に減少した。甲子園大会だけでなく、地方大会などでもこのようなデータが出てくるとみられ、やはり新バットの導入は全国の球児たちに大きな影響を与えることになりそうだ。

 数字だけではない。新バットの影響は各校の戦い方にもあらわれていた。高野連の寶馨会長は、同連盟の公式HPに掲載されているインタビューにて、「新基準のバットはこれまでのものより反発力が落ち、打球が飛ばないと見込まれます。このことは、高校野球にも変化をもたらすのではないかと思います。具体的には、外野手の守備位置がこれまでよりも少し前になり、二塁走者がワンヒットで生還出来ないケースが増えるのではないでしょうか。そうなると、ワンヒットで還すための作戦や走塁方法、三塁コーチの判断などが重要になります。三塁への盗塁や1死二塁での送りバント、エンドランなどの作戦を積極的にとったり、足の速い選手をそろえたりするチームも出てくるかもしれません。守備側は、二塁走者の足を防ぐ二遊間の守りが重要になってくるでしょう。二塁けん制などでバッテリーは三盗を警戒しなければなりません。前進守備をする外野手は頭上を抜かれないような技術を磨く必要もあります。いろんなことを考えて練習し、作戦を練る必要があるでしょう」と新バット導入にあたって生じる変化について解説。飛ばないことで得点力が下がる傾向にあるということは、1点の重みが大きくなる。それだけに、今大会では実際にバントや盗塁、スクイズといった戦術で点を取りに行くスタイルが多く見られた。また、プレーする側だけでなく「観客のみなさんも、こうした細かい変化を探しながら試合を見ていただくと、より楽しくなるのではないでしょうか」と呼びかけている。ほかにも今大会から二段モーションの解禁(「投手の投球姿勢」と「反則投球の取り扱い」の削除)、タイムの制限と、3つの変更点があったが、新基準のバットに完全移行が全国の球児、そして指導者にも大きな影響を与え、今後も続いていくだろう。

 ただ新バットの導入はデメリットばかりではないともいえる。新バット導入にあたり、高野連が公開した動画内では、昨夏の「第31回 WBSC U-18 ベースボールワールドカップ」では日本代表を世界一へと導いた明徳義塾高(高知)の馬淵史郎監督が新バットのポイントを解説。「本当の芯じゃなかったらボールは飛ばないと思いますね。以前のバットだったらちょっと芯を外れても、外野の頭を超えるような打球もあったんですけど、やっぱりしっかりした打ち方で芯で捉えないとボールは飛んでいかないと感じています。打球の初速がずいぶん遅いかなと。0コンマ何秒の世界だと思うんですけど、初速の遅さからいえば以前の火の出るようなあたり、当然芯に当たればそういう打球も飛ぶんでしょうけど、確率的には非常に少なくなるんじゃないかなと思っています」と指摘した。しかし、低反発となったことで、新基準の金属製バットは飛距離や打球速度などが木製バットに近くなった。大学や社会人、プロといったステージでも野球を継続する場合は、その際に適応しやすくなるメリットが見込まれる。馬淵監督も「下半身をしっかり鍛えて、下から順番通りに打ってヘッドを返すというような打ち方を学ばないと。ただ振るだけではなくバッティングのメカニズムをしっかり頭に入れて、それに向かって練習していく、今後の野球には繋がる」と技術の向上につながる面もふまえ、見解を述べた。

 実際、今大会では青森山田高の選手が木製バットで試合に臨み、快音を響かせた。今夏の大会でも木製バットを使う選手が出てくるかもしれないが、いくら近しいとはいえ、木製バットは金属バットとは違って折れてしまう。そのため金銭面の負担が増えてしまうことが課題だ。従来のバットよりも新基準の金属製バットの方が高価であると言われており、金属でも木製でもこれまでよりも金銭面の負担も増えていくことが予想されるが、どちらにしても飛ばないバットが全国の球児、そして今後の野球界にどのような変化をもたらすのか。


VictorySportsNews編集部