障がい者スポーツに心を寄せてこられた天皇皇后両陛下

宮内庁の発表によると、天皇杯、皇后杯が贈られる対象の大会は日本車いすバスケットボール選手権大会、日本女子車いすバスケットボール選手権大会、飯塚国際車いすテニス大会、全国車いす駅伝競走大会。障がい者スポーツに天皇杯や皇后杯が贈られるのは初めてだということです。

天皇陛下は皇太子時代の1964年東京パラリンピックで名誉総裁を務めるなど、障がい者スポーツへの支援を続けてこられました。宮内庁によると、天皇陛下は障がい者スポーツも一般のスポーツと変わらず、選手も観戦する人も楽しむものとして発展することを期待されてきたとのことです。

横浜DeNAベイスターズ前球団社長の池田純氏は、今回の発表について陛下の「先見性」に驚くとともに、今回の発表が障がい者スポーツの発展を考える上で重要な投げかけになったと言います。

「これまでスポーツの大会には天皇杯、皇后杯が贈られてきたわけですが、その中に障がい者スポーツの大会はありませんでした。天皇陛下が1964年の東京パラリンピックで名誉総裁を務めて以来、パラリンピックをはじめとするさまざまな障がい者スポーツを見守られてきたということで実現となったわけですが、障がい者スポーツを考える上でも重要なことだと思います」

(C)The Asahi Shimbun/Getty Images

スポンサーが熱視線、パラリンピックが“ブーム”に?

3月9日から18日まで、平昌ではパラリンピックが開催されていましたが、日本人選手の活躍に沸いたオリンピックに比べてしまうと、パラリンピックの報道量は少なかったといわざるを得ません。

「あんなに話題になったオリンピックに比べると、パラリンピックの報道が少なかったのは間違いありません。NHKでは競技の放送も行っていましたが、民放で取り扱う情報量はやはり少なかった」

池田氏は、国際パラリンピック委員会(IPC)が主催し、肢体不自由(上肢・下肢および欠損、麻痺)、脳性麻痺、視覚障がい、知的障がい者が参加する世界最高峰のスポーツ大会であるパラリンピックの報道のあり方に疑問を呈します。

「あるメディア関係者が『パラリンピックをどう伝えるのか、その良さをどう報道するかについてはすごく悩んでいる』と言っていました。一方で、平昌の様子を聞くと日本からやってきたスポンサーやメディアの数が非常に多く、東京2020に向けて半ば“ブーム”のようになっていると耳にしていました」

オリンピックに比べれば報じられる機会の少ないパラリンピックですが、池田氏によるとスポンサーやメディアの注目度はかつてないほど高くなっているそうです。

「パラリンピックを支援すること自体は素晴らしいことです。だからこそ2020年に向けたイメージづくりのための露出というだけで終わらせてはいけないと思います。日本はブームになるのは早いですが、それが長続きしないという傾向があります。2020年が過ぎたらスポンサーもメディアもサーッと引いていく、ということにはならないようにしなければいけないと思っています」

(C)Getty Images

障がい者スポーツをどう伝え、どう観るのか?

スポーツにビジネスのプロとしての知見を取り入れてきた池田氏は、スポーツのスポンサーこそ「やり続けること、継続性が大切」と語ります。

「スポーツを支えるというのは、どういう意味を持っているのかということだと思います。そういう面で、私はパラリンピックが重要な意味を持つのではないかと感じています。これから2020年に向かって、時代の象徴になっていくような存在になる可能性があるのではないでしょうか」

伝える側も受け取る側も「パラリンピックだから」と身構えてしまいがちですが、パラリンピックをどう受け止めるかは、これからのスポーツ、これからの社会をどう考えていくかと密接に関わっていると池田氏は続けます。

「私はパラリンピックだけじゃなく、障がい者スポーツ自体が過渡期にあると考えています。メディア側もパラリンピックをどう伝えればいいのか悩んでいますが、視聴者もどう観ればいいのか戸惑っている面もある。一方で、それを支えたいという純粋な気持ちと、障がい者スポーツをサポートすることで会社のイメージを上げることができるのではないかという打算の気持ちもある。そんな“思いと思惑”の狭間にあるのではないでしょうか」

伝える側、受け取る側の双方が障がい者スポーツとの付き合い方を考えている中で、パラリンピックや障がい者スポーツに対する「特別感」をなくすことが重要だと池田氏は言います。

「IPCとWOWOWが共同で制作している『WHO I AM』というパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズがありますが、あの番組を観ていると純粋に引き込まれるものがありますよね。その競技者のすごさという面ももちろんありますが、伝わってくるものがあるのは障がい者スポーツだからと言うのとはまた違ったもので。『どう競技を観るのか?』の一つのヒントになると思います」

(C)Getty Images

2014年には長らく厚生労働省の所管だった日本パラリンピック委員会(JPC)が文部科学省に移管され、日本オリンピック委員会(JOC)とJPCが、強化指定選手の就職支援をおこなう協定を結ぶなど両者の連携も進んでいます。

天皇杯、皇后杯の贈呈を決めた天皇陛下も早くから障がい者スポーツを一般のスポーツと変わらず、選手も観戦する人も楽しむものとしてその発展に期待を寄せられていました。

「障がい者スポーツは、競技者によって障がいの程度が異なる中で、競技を公平に行おうと努力しています。私はそういう価値観こそがいまの日本、世界にもたらしてくれるものがあると思っています。日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)のスペシャルサポーターを務めている香取慎吾さんが『パラリンピックを通して、優しく強い国に変わるんじゃないか』というようなことを言っていて、私はそれにすごく共感しました。公平ということの意味を考えれば、素直に取り上げて、それを観て感じたことを大切にすればいいのではないかと思いますね」

2020年にはパラリンピックをホストとして迎えることになる東京と日本ですが、障がい者スポーツへの理解と、真の「公平さ」についてはまだまだ学ぶべき点があるようです。

<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部