2~3位指名には、各球団の緻密なドラフト戦略、戦術眼が求められる

「巨人、ヤクルトが根尾昂の1位指名を公言」
「ロッテは藤原恭大を1位指名へ」

10月25日に行われるドラフト会議が近づくにつれ、各球団の指名戦略に関する報道も増えてきた。

今年のドラフトで「目玉」とされるのは、やはり根尾昂、藤原恭大(ともに大阪桐蔭)、吉田輝星(金足農)、小園海斗(報徳学園)といった「ミレニアム世代」の高校生たちだ。

彼ら高校生以外にも甲斐野央、上茶谷大河、梅津晃大(すべて東洋大)、松本航、東妻勇輔(ともに日体大)、齋藤友貴哉(ホンダ)、生田目翼(日本通運)といった、いわゆる「即戦力」と呼ばれる大学・社会人投手もまた、「1位指名候補」と呼べるだろう。

当たり前ではあるがファンもメディアも、ドラフトで最も注目するのは「どの球団が、誰を1位指名するのか」になる。複数球団による競合となれば交渉権の行方が抽選に委ねられるため、「誰に何球団が競合するのか」もまた、大きな焦点となるだろう。

ドラフト前に1位指名選手を公言する球団があるのは、「是が非でも獲りたい」という意思表示である以上に、競合を避けたい他球団へのけん制の意味合いも強い。

ドラフトにおける駆け引きは、すでに始まっているのだ。

そんな中、実は最も各球団の「戦略」、「駆け引き」が楽しめるのは1位指名選手ではない。むしろその後に指名される2位以下、もっといえば抽選で外れた後の「外れ1位」以下の指名にこそ、各球団の編成力やスカウティング力が顕著に表れる。

ドラフトにおける1位指名には、乱暴な言い方をしてしまえば「シンプルに一番欲しい選手」を挙げればいい。競合する、しないの駆け引きはもちろんあるが、少なくともプロ志望届を提出している選手の中から、誰でも好きな選手を指名できる唯一の機会が「1位指名」なのだ。

しかし、外れ1位、2位以下は違う。たとえ欲しい選手がいても、すでに他球団が指名してしまった選手は獲得できない。2位以下の指名はウェーバーになるため、指名順も加味して選手を選択する必要も出てくる。

他球団が誰を指名するのかを想定しつつ、実際に指名する段階で誰が残っているのか、さらにいえば欲しい選手が2位でなければ獲れないのか、下位でも獲れるのかまで見極める。

そんな高度な戦術眼が、ドラフト当日の各球団には求められるのだ。

広島、西武は、2~3位指名の選手の成長が優勝の原動力となった

加えて、2~3位で指名される選手が誰になるのかは、各球団の「近未来」にも大きく影響してくる。

当たり前ではあるが、プロ野球の世界で最も成功する可能性が高いのは1位指名選手だ。複数球団が競合するような選手の場合は、その確率もさらに上がる。もちろん、すべての1位指名選手がプロで大成できるわけではないので、あくまでも「確率論」になってはしまう。それでも、プロ野球で毎年12人しか生まれない「ドラフト1位選手」には、それだけの素質が備わっている。

ただ、毎年ひとりしか生まれない「ドラフト1位選手」だけに頼っていては、チームは強くならない。本当にチームを強くするためには、1位以下、特に実力的には1位指名選手にも匹敵するであろう2~3位あたりの選手がいかに戦力になるかがカギを握るからだ。

例えば、今季のセ・パ両リーグを制した広島と西武を例に挙げてみよう。

■広島の生え抜き主力選手とドラフト順位
【野手】
會澤翼(06年高校生3巡目)
丸佳浩(07年高校生3巡目)
菊池涼介(11年2位)
鈴木誠也(12年2位)
田中広輔(13年3位)
西川龍馬(15年5位)
【投手】
中﨑翔太(10年6位)
野村祐輔(11年1位)
大瀬良大地(13年1位)
九里亜蓮(13年2位)

■西武の生え抜き主力選手とドラフト順位
【野手】
中村剛也(01年2巡目)
栗山巧(01年4巡目)
浅村栄斗(08年3位)
秋山翔吾(10年3位)
山川穂高(13年2位)
森友哉(13年1位)
外崎修汰(14年3位)
源田壮亮(16年3位)

【投手】
菊池雄星(09年1位)
十亀剣(11年1位)
多和田真三郎(15年1位)

これを見ると、両球団のドラフト戦略が顕著に表れている。1位では投手を、2位以下で野手を獲得。特に2~3位までに指名された野手がしっかりとチームの主力へと成長しており、それが優勝の原動力となっているのがわかるはずだ。

現在はプロ野球を代表する選手になった鈴木誠也も、丸も、浅村も、秋山もドラフト時には決して「目玉」と呼べる選手ではなかった。しかし、そういった「2位以下で獲得できる選手」の中から逸材を見いだし、さらには他球団の動向も見ながら獲れる選手を指名する。そこに、ドラフトの醍醐味と、ドラマが生まれる。

こんな話がある。

広島は田中広輔の指名を見送るつもりだった

2013年ドラフトの際、広島は当時JR東日本に所属していた田中広輔を「上位候補」としてリストアップしていた。しかし、ドラフト前の編成会議で「今年は上位で即戦力投手を指名する」という方針が決定したため、広島は指名リストから田中を外したという。実際、この年のドラフトで広島は大瀬良大地、九里亜蓮というふたりの大学生右腕を1、2位で指名。広島としては「田中は2位までで消える選手」と考えていたため、指名は見送るつもりだった。

しかし、いざ3位指名の選手を決めるとなった時、席上の松田元オーナーが「田中が指名されていない」ということに気付く。

広島首脳陣はにわかにざわめき、担当だった尾形佳紀スカウトがすぐさま席を外してJR東日本に電話をしたという。

「田中がまだ指名されていないんですけど、もしかしてけがとかしているんですか?」

電話口でこう聞くと、先方からはこんな返事が返ってきたという。

「いや、そんなことはないです。ウチも正直、指名されないのでちょっと焦っているんですよ」

この返答で、広島は田中の3位指名を急遽決定。結果的に田中はプロ1年目の途中からレギュラーに定着し、現在は不動の遊撃手としてチームになくてはならない存在となっている。

あの人の一言が、西武・秋山翔吾とソフトバンク・柳田悠岐の運命を変えた

2010年ドラフト3位で西武に入団した秋山にも、こんなドラマがある。

当時、秋山には西武のほかにも複数球団が興味を示しており、中でもソフトバンクはその打撃センスを高く評価していた。ドラフト時には2位指名を検討していたというが、実はこの時、秋山と同等の評価を得ていた選手がいた。

それが、柳田悠岐だ。
ドラフトでは秋山の指名で方針が固まりつつあったが、王貞治会長の「誰が一番飛ばすんだ」という一言によって急遽、柳田の指名に方針転換したという。

結果としては両選手とも超一流へと成長したが、王会長の一言がなければ、西武の秋山も、ソフトバンクの柳田も誕生していなかったかもしれない。

ミレニアム世代の高校生や、粒ぞろいの即戦力投手など、「ドラフト1位候補」の行く末は確かに気になるところだ。

ただ、ドラフトの面白さはそれ以外にもある。

まもなく行われるドラフト会議。「超目玉」と呼ばれる1位指名候補の動向はもちろん、各球団が2位以下でどんな選手を指名するのかにも、ぜひ注目してほしい。

<了>

広島は、なぜ清宮争奪戦から撤退したのか? 再び脚光浴びるドラフト戦略3カ条

「(セで二度目の連覇は巨人についで)2球団目になるのかな。巨人の数と随分差はあるけど、勲章になる」。リーグ連覇を決めたその日、広島カープの松田元オーナーが語った言葉だ。確かに数的な差はある。しかし広島の場合、外国人以外はほぼ自前の選手で達成した連覇であるという部分に、巨人とはまた違う価値を見いだすことができる。そしてそれを成し遂げた大きな要因として挙げられるのが、伝統の「スカウティング力」であり、「ドラフト戦略」だ。13年続いた逆指名(自由獲得枠・希望枠含む)制度が廃止されて10年。今再び脚光を浴びる、“広島オリジナル”のスカウティング力とドラフト戦略に迫る。(文=小林雄二)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

広島・田中広輔、向上のカギは「仙腸関節」にあった。身体の専門家が観るトッププレーヤー(1)

VICTORY編集部です。これからシリーズとして、トッププレイヤーの動きをフィジカルの観点から分析する記事を出させていただきます。初回となる今回は、広島カープの田中広輔内野手です。2013年に東海大学からドラフト3位で広島カープ入りした田中選手は、2014年に早々に一軍のスタメンを確保。2016、2017の連覇にも大きく貢献した選手です。そんな田中選手のプレーは、身体の専門家からはどのような変化として映るのか? JARTA(日本アスリートリハビリテーショントレーナー協会)代表の中野崇さんに分析いただきました。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

ホークスの育成術をひも解く。3軍制度にみる「育てて勝つ」戦略

直近の10シーズンで5度のリーグ優勝、3度の日本一を果たし、今季は2年ぶりの日本一を目指すソフトバンクホークスは、生え抜きの選手が活躍する球団としても知られています。いち早く3軍制度を導入し、成果を挙げているホークスの戦略的育成術に迫ります。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

ドラフト制度の「抜け穴」が埋まるまで。50年かけて実現した戦力均衡

10月26日、今年もプロ野球ドラフト会議が開催されます。かつてのドラフト制度は運用がアバウトだった時期もあり、また様々な「抜け穴」が存在していました。しかし徐々にその「穴」は埋まり、プロ野球界は約50年の時を経て、戦力均衡が実現しています。果たして、どういう経緯があったのでしょうか? (文:大島和人)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

総年俸1位は“金満”ソフトバンク。では最もコスパがいい球団は?

プロ野球の契約更改が行われる季節になりました。今年も各球団と選手の交渉をめぐる悲喜こもごもの物語が繰り広げられていますが、日本一に輝いた福岡ソフトバンクホークスは摂津正投手、松田宣浩内野手が現状維持の4億円、五十嵐亮太投手が1000万円増の3億6000万円、最多勝の東浜巨投手が5400万円増の9000万円と景気の良い数字が並びます。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

誰もがマツダスタジアムに魅了される理由。設計に隠された驚きの7原則

2009年にオープンした広島東洋カープの新本拠地、MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(マツダスタジアム)。訪れた者なら誰もが魅了されるこの異空間は、日本のこれまでのスタジアムの概念を覆すようなアプローチによってつくられた。「スタジアム・アリーナを核としたまちづくり」が経済産業省を中心に進められるなど、今やスポーツの域を超えて大きな注目を浴びているスタジアム・アリーナ建設。今回、マツダスタジアムの設計に関わった株式会社スポーツファシリティ研究所代表取締役の上林功氏が、同スタジアムに隠された知られざる特徴と、未来のスタジアム・アリーナ建設のヒントを明かした――。(取材・文=野口学)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

4年で3度優勝のソフトバンクホークス、常勝球団を支える経営サイクル

ソフトバンクホークスは16日、メットライフドームで行われた西武ライオンズ戦に7-3で勝利し、2年ぶり20回目のリーグ優勝に輝いた。直近4年で3度の優勝を飾っているソフトバンクは、なぜこれだけ安定して結果を出せているのか。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

カープ女子の、ガチすぎる愛情。優勝の1日を振り返る

「カープ女子」という言葉が世間を賑わせるそのはるか前から、一途で筋金入りのカープファンだった、古田ちさこさん。広島カープが37年ぶりの連覇を決めた9月18日。彼女はこの記念すべき1日を、どのようにして迎え、過ごしたのでしょうか? 決して派手とはいえなくとも、純粋な愛情に満ち溢れていた1日を振り返ります――。(文=野口学)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

花田雪

1983年生まれ。神奈川県出身。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行うなど、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆を手がける。