「ヤングライオン杯」でぶっちぎりの優勝

 ここ数年、新日本プロレスの人気が回復し、観客動員も堅調に推移していることは様々なメディア等で報じられている通りだが、この好調はまだまだ続きそうだ。そう断言できる根拠の一つが、「ヤングライオン」と呼ばれる若手選手の人数と充実ぶり。昨年、2017年には5人の日本人選手がデビューしたが、これほどの人数がデビューした年となると、永田裕志、中西学らの1992年までさかのぼらなければならないほど。
 
 新人選手の育成は言うまでもなく先行投資に他ならない。会社に余裕がなければできないし、団体に魅力がなければ新弟子希望者も集まらない。従って新弟子の数、デビューの人数はほぼそのまま、団体の勢いのバロメーターとなる。さらに同期や近い代の先輩・後輩の数が多ければ出世争いもそれだけ激化し、自然と切磋琢磨が生まれて前座の試合が熱くなっていく。「前座の面白さは団体繁栄の証」なのである。
 
 この豊作を受けて、新日本は昨年後半に若手選手によるリーグ戦「ヤングライオン杯」を12年ぶりに開催。この「ヤングライオン杯」は、藤波辰爾、藤原喜明らが優勝した70年代の「カール・ゴッチ杯争奪リーグ戦」を前身に、1985年に第1回が行われた。蝶野正洋、天山広吉、小島聡ら錚々たるメンバーが歴代優勝者に名を連ね、ここでの優勝から海外武者修行を経て大きく成長した選手も多い。今回は、昨年デビューの5人に一昨年デビューの1人(2人デビューしたが1人は負傷で長期欠場中)を加え、6人のヤングライオンたちが総当たりで鎬を削った。
 
 このリーグ戦で、5戦全勝というぶっちぎりの結果で優勝を果たしたのが、“マッスルモンスター”北村克哉だ。

圧倒的なマッスルボディ

 昨年、2017年3月にデビューした北村は、その時点で31歳という異色の新人だ。専修大学レスリング部に在籍中の2006年に全日本選抜フリースタイル120kg級で優勝し、同年の世界選手権にも出場。大学卒業後、FEG(当時のK-1運営会社)、ドン・キホーテに所属してレスリングに打ち込み、2009年からは全日本選手権グレコローマン96kg級で3連覇を成し遂げた。2015年にはプロ格闘技イベント「巌流島」にも出場した後、2016年1月に新日本プロレスに入団。翌年にデビューに至った。この経歴からして、他の新人たちとは一線を画している。
 
 北村の特徴は、まず何と言ってもその圧倒的なマッスルボディ。学生時代から「日本人離れした筋肉」と定評のあったそのボディは、現在183cm、120kg。花道を疾走してリングインし、太い血管が浮く黒々とした体でマッスルポーズを取ると、全国どこの会場でも大きなどよめきが起きる。デビュー間もない新人と言えば、持って生まれた体格のよさはあっても、そこからプロレスラーらしい体を構築している最中。その中でもはや「完成形」と言っていい肉体を持つ北村の存在は、異様と言ってもいいほどだ。
 
 試合スタイルは、もちろんパワー満点の迫力溢れる攻撃を身上とする。特に大きく反動をつけて放つ逆水平チョップは会場中にとてつもない音を響かせ、観客の度肝を抜く。高く持ち上げてから叩きつけるジャックハマー、相手の腹に一直線にタックルを突き刺すスピアーなど、成長するにつれて破壊技も豊富になってきている。
 
 新日本では“エース”棚橋弘至も筋肉ボディが自慢だが、棚橋はその肉体を駆使しながらスピーディーで華麗な試合運びを得意とする。同じ筋肉系でも、外国人レスラーのようなパワーファイトを見せる北村とはタイプが異なる。日本人でパワーファイターと言えば中西学、真壁刀義、石井智宏らが思い当たるが、こと筋肉という部分では彼らにも引けを取らない。 

さらなる進化求め海外武者修行を希望

 存在感ではピカイチの北村に足りないのは、何と言っても「経験」だろう。しかし彼は、その点でも急速に躍進しようとしている。昨年11月には、先輩にあたる留学生レスラー、デビッド・フィンレーとのコンビで毎年恒例のタッグリーグ戦「WORLD TAG LEAGUE」に抜擢され、前記のヤングライオン杯と同時期だったにもかかわらず約3週間にわたるシリーズを闘い抜いた。
 
 また今年1月5日からは、ヤングライオン杯優勝のご褒美として「北村克哉7番勝負」がスタート。1月中に第3戦まで行い、いずれも外国人レスラーと対戦した。結果こそ、タッグリーグ戦が8戦全敗の0点、7番勝負もここまで勝ち星なしの3敗と黒星が並んでいるが、対戦相手はいずれも、この時期の新人がまず当たることのないような大物ばかり。彼らに連続して胸を借りたというだけでも、何物にも代え難い大きな経験だ。
 
 ヤングライオン杯に優勝した試合後のコメントで、北村はさらなる進化を求めて海外武者修行を希望した。新日本プロレスのレスラーたちは皆、若手時代に海外武者修行に出て、肉体的にも精神的にも大きくなって凱旋するやトップグループに食い込んできたという歴史がある。ヤングライオン杯優勝者は、他の同期に比べていち早くその権利を手にし、出世レースでも一歩先んじた選手が多い。北村も今は彼らの後に続きたくてウズウズしているところだろう。
 
 北村のド迫力ボディとファイトは、怪物並みのレスラーたちがウヨウヨするアメリカ・マットにあっても異彩を放つに違いない。それこそ過去の日本人レスラーにはいなかったタイプで、「日本にもこんなヤツがいるのか!」との驚きを現地の観客に与えることだろう。
 
 彼がいつ海外修行に旅立つのか、そしてどれぐらいの期間、行っているのかは現時点では全く分からないが、楽しみなのはその後だ。海外で様々な経験を積み、肉体にもパワーにもさらに磨きをかけて帰ってくるとしたら、果たしてどんな怪物になってしまうのか。そうなって返ってきた時、彼は誰を標的にし、どこを目指すのか。
 
 現在の新日本プロレスでIWGPヘビー級王者オカダ・カズチカを筆頭に、内藤哲也、棚橋弘至らが繰り広げるファイトは、スピードに溢れリング内外を立体的に使う、まさに現代的な闘いだ。それに対し、北村のパワーファイトは主流からはやや外れた感のあるスタイル。だが北村が海外で成長と進化を遂げた上で帰国し、磨きをかけたパワーファイトを展開して上位に食い込めば、新日本のスタイルそのものを揺るがす可能性がある。また、そんな北村と対峙することによって輝く選手も、日本人・外国人問わず出てくるだろう。それが現実になったらと想像すると、楽しみで仕方がない。
 
 予定は未定とは言え、北村のヤングライオンとしての闘いが国内で見られる期間はそう長くはないだろう。悪いことは言わない、まだ北村を未見という方は、今からでも遅くないので“その目で”見ておかれることをお勧めする。それだけの価値がある存在だと、今から断言しておきたい。

<了>

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高崎計三

編集・ライター。1970年福岡県出身。1993年にベースボール・マガジン社入社、『船木誠勝のハイブリッド肉体改造法』などの書籍や「プロレスカード」などを編集・制作。2000年に退社し、まんだらけを経て2002年に(有)ソリタリオを設立。プロレス・格闘技を中心に、編集&ライターとして様々な分野で活動。2015年、初の著書『蹴りたがる女子』、2016年には『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)を刊行。