拡大する外国籍枠は時代の流れに合った施策

「戦略ありきで、基本的には賛成です」
横浜DeNAベイスターズ初代球団社長で、スポーツ庁参与を務める池田純氏は、日本国内のプロスポーツリーグのこうした動きを、「時代の潮流に合っている」という理由で肯定的に見ていると言います。

「外国籍選手枠を広げることで、日本人選手の強化に悪影響がある、若手選手の育成に支障が出る、外国籍選手ばかりになることをファンは快く思わないかもしれない…などのネガティブな要素を挙げて反対する人の意見もわかりますが、プロリーグとして生き残っていくためには、マーケティング目線で『時代の潮流は変わる』という考え方で、現代に合った戦略を再考するのは当然です」

池田氏は、プロスポーツリーグとして生き残っていくためには、多様性、ダイバーシティが求められている時代のニーズに合わせて、ルールも変わっていくべきだと主張します。

「鎖国とまではいかなくても、自国の選手を守るという意味で外国籍選手の出場に制限を設けることは、これまでは当たり前でよかったのかもしれません。しかし、これだけ世の中が急激に変わり、世界で活躍する“日本人”アスリートの定義についての論争も起きていることを考えたら、スポーツのプロリーグも変わっていかざるを得ない。欧米に比べたらまだまだですけど、これから日本でもある種の移民文化みたいなものが一気に加速していくと思います。そういった時代の潮流、コンテクストの中で、日本国内だけを見るのではなく世界やアジアを見据えた戦略のもと、外国籍枠という枠組みをどう捉えていくのかを考えなければいけませんよね」

池田氏は続けて、外国籍枠の拡大によって失われるものより、リーグ全体が受ける恩恵の方が大きいのではないかと指摘します。

外国籍選手たちが与える「インパクト」

「素晴らしい外国籍選手が来る、そのプレーを間近で見られるインパクトってやっぱりすごいですよね。Jリーグではヴィッセル神戸のイニエスタ選手が話題を集めていますが、本当に素晴らしい選手は子どもたちにも大きな影響を与えます。プロ野球でいえば、かつてはよく“助っ人外国人”という言い方をしていたように、個性的でインパクトのある選手が多かったですよね。素行には問題があったかもしれませんが、元巨人のバルビーノ・ガルベス投手は私の子ども時代にはものすごくインパクトがありました。2度の三冠王に輝いている阪神のランディ・バース選手、俳優のエディ・マーフィーみたいな風貌の近鉄のラルフ・ブライアント選手、近鉄、巨人で活躍したタフィ・ローズ選手、“マシンガン打線”の主軸を担った横浜のロバート・ローズ選手など、その時代の記憶に残る選手がたくさんいますよね」

2011年、池田氏が史上最年少の35歳で横浜DeNAベイスターズの初代球団社長に就任した時、大洋ホエールズ時代のカルロス・ポンセ選手やジム・パチョレック選手の名を挙げ、そのことが野球ファンの間で話題になったこともありました。外国籍選手が残すインパクトは、確かに、記録やプレー以上のものがあるのかもしれません。

Jリーグ、トップリーグ、Bリーグは外国籍枠増の流れ

プロスポーツの世界だからこそ、ファンは常に心のどこかで必ずや「すごいものが見たい」と思っている。池田氏はそのすごさが、大人にも子どもにも強烈なインパクトを与え、スポーツやリーグの魅力につながると言います。

外国籍枠の見直しが複数のプロスポーツリーグで行われたのは偶然ではなく、マーケティングの観点から「魅力、競争力のあるプロリーグをつくらなければいけない」という試行錯誤の表れであることは間違いありません。

前述のイニエスタ選手に加え、同じ神戸のルーカス・ポドルスキ選手、鳥栖のフェルナンド・トーレス選手など、サッカー強豪国の代表クラスのスーパースターの加入がプラスに働いているJリーグでは、16日の実行委員会で、J1の外国籍枠を3人から5人に変更することを協議し、アジア枠1+提携国枠に加え、7人以上の外国籍選手が出場できる方向で調整中だといいます。

ラグビーのトップリーグでも、元ニュージーランドのスタンドオフにして世界的名プレーヤー、ダン・カーター選手が神戸製鋼に加入するという大きなニュースがあり、彼目当ての観客も増えています。さらに2018-19シーズンでは、アジア枠を含め、最多6名まで同時出場可能というルール変更を行い、日本代表候補やサンウルブズに招集された選手が「特別枠」として扱われることで、一気に外国出身選手の出場が増えています。

バスケットボールのBリーグも「外国籍選手1人と帰化選手1人まで」から「外国籍選手2人に加え、帰化選手1人」がコートに立てるようになるなど、サッカー、ラグビー、バスケットボール界では、外国籍枠の増枠という流れがあります。

NPBは変化なし? アジア枠などで戦略的変化を

かつて池田氏が直接関わったプロ野球はどうなっているのでしょう?

「NPBでは、外国籍選手の獲得数に制限はありませんが、出場選手の登録は1球団4名に制限されています。しかも、投手、野手として同時に1軍登録できる人数が3人までになっているので、4人全部投手、4人全部野手という登録はできません。以前は各球団平均して4人の外国籍選手を獲得することが多くありましたが、最近では6人ぐらいの外国籍選手を支配下登録しておいて、入れ替えながら使っているチームが多いようですね」

1軍選手として試合に出られる人数に限りがあっても、ルールの上では無制限。外国籍選手をどう有効活用できるかは、近年のプロ野球においてはチームの浮沈に関わる問題です。

「入れ替えられるといっても、一回1軍から外れると、10日間は1軍に再登録できないルールがあるので、ローテーションで外国人を使うというのにもルール上の一定の限界があります。 それに、外国籍選手の中には、メジャーでの実績があったり、ある程度の名前のある選手の場合、『1軍から落とさない』というような条項が契約に含まれている場合もあります。こういう選手が日本の野球や環境になじめずに実力を発揮できない場合、球団としては早期に契約を打ち切って、帰国してもらった上で1軍枠を空けることもあります。外国籍枠があることで、何億円も払っていても結局1年間使われない外国籍選手も一定数います。このあたりは、もうそろそろ制度のちぐはぐ感が出てきているような気がしますね」

NPBの外国籍枠は、いまのところJリーグやBリーグ、トップリーグのような“開放路線”の具体的な話は出てきていませんが、池田氏はNPBでも外国籍枠に変化があってもいいと考えているようです。

「リーグがしっかり考えた上で、理由があってそのままにする、枠を増やすというふうに議論していけばいいと思いますが、私の個人的な意見を言わせてもらえば、一時検討されていたアジア枠を設けるのも面白いと思います。韓国野球界や台湾、野球のアジアでの普及面でも意義があるので、マーケティング戦略としても意味があると思います。あるいは、枠を変えないなら、4枠を全部投手または野手に登録できるようにすることを考えてもいと思います。どんな議論は寛容になされ、多様な意見に基づいて、常にアップデート、時代に合った議論を繰り返し続ける必要があります」

世の中の流れに背いて、内向きなルールに固執していては競技自体に魅力が生まれず、そのスポーツ、リーグに対する興味・関心もどんどん狭まっていきます。外国籍枠の増枠、緩和をきっかけにそのスポーツ、リーグにダイナミズムが生まれる側面はたしかにあります。

「例えばJリーグでは、やっぱりヴィッセル神戸がポドルスキ選手を獲得して、さらにイニエスタ選手を獲得して、ダイナミズムを生んだわけです。このことをきっかけに世界のサッカー界でのJリーグの注目度は確実に上がりました。もちろんJリーグのチームの経営規模で、すべてのチームがイニエスタ級の選手を連れてきたり、そのほかにも各国代表選手をそろえるような人件費を捻出するのは難しいと思います。チームの売り上げ、予算規模にはかなり差があるので、外国籍枠が増えればそれだけ戦力の不均衡は生まれるかもしれません。でも、そこはある程度市場の原理に任せてもいいのではないでしょうか」

「ファンはすごいプレーが見たい」
池田氏が指摘するように、外国籍選手の活躍による注目度のアップ、競技レベルの向上、そのどれもが、多様化が進み競争が激化する日本のプロスポーツのあり方に大きな影響を与えていくのは間違いありません。

<了>

取材協力:文化放送

****************************
文化放送「The News Masters TOKYO」(月~金 AM7:00~9:00)
毎週木曜日レギュラー出演:池田純
****************************

「The News Masters TOKYO」の公式サイトはこちら

経営目線で見るクライマックスシリーズ 元ベイスターズ社長が実体験を振り返る

プロ野球、セ・リーグのペナントレース争いは、広島の独走で終盤を迎えています。ファンの興味は4球団による熾烈なクライマックスシリーズ(CS)進出をかけた2位、3位争いが続いています。24日時点で、2位はヤクルト、3位巨人と4位DeNAが0.5ゲーム差、これを阪神、中日が追うという展開。CS出場権の有無は「天国と地獄」。今回は球団サイドから見たCSについて考えます。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

「プロ野球離れ」はどこまで本当か? 伝統のスターシステムの終焉

巷間ささやかれる「プロ野球離れ」。しかし、会場には過去最多の観客が集まっています。われわれは、この矛盾をどう解釈すればよいのでしょうか?「プロ野球死亡遊戯」でおなじみ、中溝康隆さんに解説を依頼しました。(文:中溝康隆)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

総年俸1位は“金満”ソフトバンク。では最もコスパがいい球団は?

プロ野球の契約更改が行われる季節になりました。今年も各球団と選手の交渉をめぐる悲喜こもごもの物語が繰り広げられていますが、日本一に輝いた福岡ソフトバンクホークスは摂津正投手、松田宣浩内野手が現状維持の4億円、五十嵐亮太投手が1000万円増の3億6000万円、最多勝の東浜巨投手が5400万円増の9000万円と景気の良い数字が並びます。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

社長の平均年齢は11歳差! 3大プロスポーツ社長像の比較に見る日本スポーツ界の課題

バスケットボールのBリーグ事務局がプロ野球12球団、Jリーグ全54クラブ、Bリーグ36クラブの社長の属性を調査、発表しました。プロスポーツの経営を任される球団社長の責任は重大ですが、野球、サッカー、バスケットボールの競技間でその経営者像に違いがあることが結果から見てとれます。これからの時代に求められるプロスポーツの球団社長像とはどんなものなのでしょう?

VICTORY ALL SPORTS NEWS

メジャー観客数減少は他人事ではない。求められる将来需要の掘り起こし

10月1日(日本時間2日)に米メジャーリーグベースボール(MLB)が今季のレギュラーシーズン全日程を終了しました。ロサンゼルス・エンゼルス“二刀流”大谷翔平選手の活躍、イチロー選手のシアトル・マリナーズ会長付特別補佐への就任など、日本人選手の話題が多かった今シーズンのMLBですが、観客動員では苦戦が続いているようです。 「アメリカで起きたことは日本でも起きる可能性が高い」 横浜DeNAベイスターズ初代球団社長の池田純氏は、MLBの観客数減は対岸の火事ではないと警鐘を鳴らします。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

VictorySportsNews編集部