失敗から学んだ、組織の一員として機能すること【スポーツとマネージメント⑦】元ラグビー日本代表・後藤翔太が、チームを日本一へ導く名コーチに変身できた理由

プレイヤーとして大切な〈量〉と〈質〉

 22歳でラグビー日本代表になった後藤翔太。幼少期、彼は「鈍足翔太」と呼ばれていたくらい残念な運動神経の持ち主であり、決して才能に恵まれていたわけではなかった。そんな彼が日本代表にまで上り詰められたのには、2つの理由がある。

 1つ目は、練習の〈質〉を高めるために〈量〉を重視していたこと。「才能のない私がライバルに勝つためには、限られた時間を有効活用するしかありません。全員に与えられた時間は24時間ですから。そのため、練習の〈質〉は常に意識していましたね。ただ大切なのは、〈質〉を高めるためにも〈量〉が必要ということ。ただ練習を『こなす』のではなく、自分に何の能力が足りていないのか、とひたすら向き合い続けました。例えば『パスを通す』という動き1つとっても、どうやってキャッチして、どの角度で、どう回転をかけて、どの軌道で、リリースまではどれくらいの時間で…と細かく分析しました。おかげで『なんとなく上手くいった/いかなかった』と思うことはなかったです。失敗した時はなんで失敗したのかを突き詰め、それを改善するために〈量〉を重視する。私は運良く日本代表にまでなれましたが、これまでのラグビー人生において私以上に才能がなかった人は見たことがありません。ただ、私以上に練習した人もいないと思います。それくらい練習しましたね」

ゴールが決まれば、今日何をすべきかも決まる

 2つ目は、目指す目標が明確であったこと。ラグビーが好きだったわけではなく「一番になれるかもしれない」と感じ、小2でラグビーを始めた後藤。だからこそ一番になるために何をすべきで、何をしないべきか、優先順位をつけ、取捨選択できたという。

もともとラグビーを始めたのも『日本一になりたいから』で、そこはブレなかった。

「『日本一になる』というゴールが決まっていたからこそ、10年後にどうなってないといけないか、5年後はどうだ? 中学卒業時は? 来年は? 今日はそのために何をすべきだ? と道筋を具体的に決められましたね。当時の私の場合、遊ぶのではなく練習。テレビをみてダラダラ過ごすのなら練習。そんな生活をしていました。逆に言えば、良くも悪くも同級生と遊んだ記憶はほとんどないですね」

 地元の超名門、大分舞鶴ではなく、神奈川の文武両道で知られる桐蔭学園への進学を決めたのもこれに基づく。「プロになるためには大学でラグビーをしたい、と思っていたので、どうしても勉強にも力を入れている学校に行きたかったんですよね。あとは、関東の高校の方が早稲田、明治、筑波などの強豪校にも物理的に近いのも当時は魅力に感じていました」。目標が明確だからこそ、目指す結果のために必要な環境や行動を選択できたのである。

選手として絶対にしてはいけなかったこと

 選手として日本代表にはなったものの、後藤は自身の行動すべてが正解だったとは思っていない。むしろ、絶対にやってはいけない組織への批判をしてしまっていた、と語る。組織批判がいけない理由は3点ある。

 1点目は隠れて行う批判は非生産的であり、解決しようとしていないからだ。所属組織への批判や愚痴は、当たり前だが周りの士気を下げる。もちろん、「不満を抱えるな」という話ではない。ここでの問題は隠れて批判してしまっているということだ。陰口のような組織の批判は上司には伝わらず、解決されない。そうなれば愚痴は延々と続く。その結果、メンバーの士気だけを下げ、解決する気もない状態になってしまう。組織としてこれほど困ることはないだろう。

 2点目は自分自身の成長機会を失ってしまうからだ。自己評価が高いからこその批判や不満は生まれる。そのため、他者からの評価を素直に受け入れることができない場合も多い。せっかくのフィードバックに対し、聞く耳を持てないということだ。これは本人にとってもデメリットと言える。

 3点目は組織あっての個人であるからだ。例えば、甲子園常連校の野球部に所属している人と、一回戦敗退の野球部に所属している人がいたとしよう。どちらの方が野球が上手いか、と聞かれれば、おそらく読者の多くは前者を選ぶのではないだろうか。つまり、どの学校(組織)に所属しているかが、個人への見方にも影響する、ということだ。そのため、自組織の批判は、言っている本人にもデメリットしかないと言えよう。

 後藤は組織批判について、次のように話す。「『不満を抱えるな!』というわけではありません。大事なのは、それを解決しようとしているかどうか。陰口は何にも繋がりませんし、自分にもデメリットでしかない。監督や上司に『事実として○○があって、このままでは××になる。なので、△△したい』といった解決のための提案に繋げていくべきだったと、今なら思います」

勝てるチームの共通点

 後藤は、複数のチームに所属した経験を踏まえ、勝てるチームには1つの共通点がある、と語る。それは、成長が連動している、ということだ。「良い状態のチームでは一人の成長に連動して、周りの選手も成長していきました。手前味噌ですが、3年目の追手門学院大学や早稲田大学ではまさにこれが起きていました」
 
後藤によれば、この成長を連動させるためのポイントは4点ある。

「①ルールが明確である。②役割が明確である。③平等な采配がされている。④リーダーと距離感がある。この4点が成長の連動に必要です。ルールと役割が明確だと、一人一人が同じ土俵でプレーをしたり、仕事をしたりすることになります。ルールと役割が明確になる、というのは例えば陸上でいうと、ちゃんと横一列に並んだ状態です。これが仮にある人は後ろから、ある人は重りを背負って走る、となっていたらどうでしょう。きっと不平等な采配のため、選手たちは最初から諦めてしまいます。だからこそ③平等な采配が必要です。また、これと関連して、リーダーとメンバーには一定の距離があるのも大切です。例えば、監督と親しい選手がレギュラーになっていた場合、他の選手からは依怙贔屓と捉えられかねません。もちろんその気がなかったとしてもです。なので、距離感といっても全員と平等に距離がある、というのが重要になります」

スポーツ指導者・管理職として大切なこと

 指導者や管理職になる人は、プレイヤー時代に優秀だった人が多い。しかし、管理職とプレイヤーは全くの別物である。「どんなにプレイヤーとして優秀だったとしても、リーダーとしては未評価。このチームを勝利に導けるか、という観点がとても大事です。注意する必要があるのは、チームの勝利がリーダーのおかげではないかもしれないこと。例えば、誤った指導であったとしても、優秀な選手に恵まれて勝利することは往々にしてあります。そうなると、リーダーも一時的に良い評価を得るでしょう。ここで勘違いをしたままでは、選手も『努力・能力を搾取されている』と感じ、最終的に離脱につながります。逆に言えば、優れたリーダーとは選手を成長させられる人です。指導を行った結果、選手たち自身が『自分の能力を最大限発揮させてくれる』と感じれば、選手の成長につながります。そうなると『もっとここで頑張りたい』と選手たちが思い、また努力する。そんな好循環で回っていくと思います」

 チームの勝利が選手のおかげなのか、リーダーの手腕なのかはなかなか分からない。だからこそ、常にリーダーは「チームの結果は全て自分の責任だ」と自責する必要がある。「私自身、自分に足りないものがある、と感じていた時は成長できていたなぁ、と思いますし、一方で、上手くいかないときにチームや周りのせいにしてしまうような思考を強く持っていた時は、全然成長できていませんでした。リーダーとしても『勝てないのは選手が…』と考えてしまったら成長できませんし、もちろん勝つこともできないと思います。私はありがたいことに3つのチームで、指導者として日本一になることができました。選手層に恵まれた伝統校から、新設のチームまで、それぞれの難しさがありましたが、しっかりと自らの責任、と自責で捉える、ということは一貫していたと思います。選手たちが実力を発揮できる環境を整え、勝つための練習に注力させる。基本中の基本ですが、これを徹底したことが3つのチームで日本一になれた理由です」

【スポーツとマネジメント①】元ラグビー日本代表・後藤翔太が、チームを日本一へ導く名コーチに変身できた理由

三代侑平

筑波大学、筑波大学大学院を卒業後、新卒で私立高校教諭として入社。担任をはじめ様々な教育活動に従事。識学入社後は、マーケティング部にてウェビナーや各種広告運用を担当。現在は、社内外両面の広報として、メディアリレーションや講演会活動、記事執筆など幅広い業務に携わる。