WAT'S GOIN' ON 〔Vol. 12〕「信頼」と「想い」が可能にした起死回生劇によって躍進した青森ワッツ

改革の行方

 そして2022‐23の勝負のシーズン。

 北谷の狙い通り、青森ワッツは躍動した。

「まず徹底的にディフェンス、そこから速い展開のバスケットボールを目指しました。プレーしていても、観ていても一番面白いでしょ。相手の攻撃を防ぐということは、こちらがシュートを打つ機会を得るということです。速い展開に持ち込めば、40分のなかで、シュートを打つチャンスが何度も訪れます。選手としては各自、なるべく多くシュートを打ちたいし、得点も決めたい。観ていても、得点シーンが増えると楽しいですよね」(北谷)

 北谷はこれを自らの志向ではなく「青森のスタイル」だと語る。

「私は鶴田町出身なのですが、もともとバスケットボールに力を入れている町なんです。強豪の鶴田中学校の部活で学んだのも堅守速攻のスタイルでしたし、進学した弘前実業高校も同じように、どちらもディフェンスからの速いバスケが特徴でした」

現代のバスケットボール

 北谷の理想は、堅守からのファーストブレイクだ。

「といっても、現代のバスケは、私の現役時代と比べるとトランジション(攻守の切り替え)のスピードが格段に増していて、ファストブレイクを決めるのはそう簡単ではありません」
 
 そのため、素早いトランジションだけでなく、5人のフォーメーションで相手を崩す攻撃も備えておかねばならないという。

「ガード陣が3ポイントラインまでボールを運び、そこからスクリーンなどを使って攻めていく場面も、膨大な数のサインプレーがあります。高原と選手たちの緊密なコミュニケーションと努力の賜物でしょう」

 Bリーグでは——とくにB2においては——とんでもない身体能力を持ったビッグマンがひとりいれば試合に勝ててしまうこともあるが、青森ワッツには下山以来の伝統がある。

「ひとりの天才(ジーニアス)に頼るより、5人のスペシャルな選手が全員バスケットをやったほうが面白いし、応援したくなりませんか? 全員でディフェンスして、全員で攻めるバスケットボールは、相手からしたら相当厄介です。どこを守ればいいか押さえるポイントが絞れません。また観ている方も、同じ選手だけがたくさん点をとるより、いろんな選手がいろんなプレーで決めるほうが楽しいはず」(北谷)
 
 北谷が賭けた青森ワッツの伝統的スタイルは、高原と選手たちによって「タフな全員バスケ」に進化した。結果は、28勝32敗。昨シーズンは5勝47敗なのだから、劇的な躍進である。Bリーグ発足後、初めてプレーオフにも進出し、高原とチームは確かな結果を出した。
 
 ヘッドコーチやスタッフ、フロントへの信頼の表れだろう。2023‐24シーズンは選手12人のうち10人が残留し、パトリック・アウダ、ジョーダン・ハミルトン、さらにリュウ・チュンティンも加わった。

スタートダッシュ

 そして始まった勝負のシーズンの戦績は、第16節(2024年1月7日)を終えて16勝14敗、東地区4位につけている。昨季に引き続き、プレーオフ進出(3位以内)が期待されているが、そのためには、ここからの終盤戦において〈復調〉が絶対条件となるだろう。

 今季、青森ワッツは例年にないほどのスタートダッシュをみせた。岩手ビッグブルズとの開幕戦、オーバータイムの激闘を制し、9季ぶりとなる開幕戦勝利を掴んだのだ。この久方ぶりの白星が、チームに勢いをもたらした。

 開幕戦を含む10月におこなわれた9試合で6勝3敗と、上々の立ち上がり。「昨季に所属していたほとんどの選手が残留してくれたおかけで、どのチームよりも連携面でのアドバンテージがありますから、開幕ダッシュを狙っていました」と語る北谷の狙いが、そのまま結果としてあらわれた。
 
 外国籍の選手はもちろんのこと、試合ごとに活躍する日本人選手があらわれるという、青森ワッツが目指す「チーム全員の総合力で戦う」バスケットボールが実現したように見えた。11月におこなわれた8試合では、開幕からの勢いがやや衰えたとはいえ、なんとか4勝4敗で乗り切り、東地区3位とプレーオフ進出圏内をキープした。続く12月の11試合も、6勝5敗と勝ち越し。この数字だけを見れば悪くない戦績に見えるが、内実は異なる。

 12月3日におこなわれた福島ファイヤーボンズ戦に83対76と勝利したことを皮切りに、愛媛オレンジバイキングス、アルビレックス新潟BBをともに2連勝で下し、今季最大となる5連勝を飾ったが、快進撃はここまでだった。

 山形ワイヴァンズ戦で敗れると、そのまま4連敗。プレーオフ進出への雲行きが急速に怪しくなった。今季最大の連敗がなによりマズいのは、上位チームとの戦いが続いたからではなかった点だ。いわゆる〈とりこぼし〉、つまり下位チームとの対戦で連敗してしまったのである。

分水嶺

 昨年12月までの青森ワッツが良かったのは、昨季同地区で優勝したアルティーリ千葉や、西地区首位を走る滋賀レイクスといった、いわゆる強敵が相手でも、連敗することはなかったところにある。

 年末年始を挟み、年が変わっても、悪い流れは変わらなかった。1月6日、7日におこなわれた越谷アルファーズ戦でも連敗。しかも両試合とも28点もの点差をつけられた大敗であった。
 
 たとえ敗れても、試合終盤までもつれる接戦を演じてきた今季の青森ワッツだったが、明らかに調子を崩してしまっている。この連戦で長らくプレーオフ進出圏内であった3位から、4位への転落が決まった。

 オールスターがおこなわれるため、レギュラーゲームが休みとなった1月13日、14日。台湾の台南TSGゴーストホークスより青森ワッツに加わったリュウ・チュンティン(劉駿霆)選手が、このオールスターに出場。ダンクコンテストでは、緊張した面持ちながら、得意のウィンドミルを見事に成功させた。惜しくも予選通過とはならなかったが(4人中3位)、抜群の身体能力を活かした華々しいダンクで会場を大いに沸かせた。
 
 そして、いよいよ終盤戦がスタートする。しかも、プレーオフ進出を争う当面のライバル、山形ワイヴァンズとの戦いから再開だ。青森ワッツとは対照的に9連勝と勢いに乗る山形に対し、シーズン序盤に見せた「チーム全員の総合力で戦う」バスケットボールを再び体現し、勝利を掴み取ることができるのか。プレーオフ進出に向け、いきなり大一番を迎えている。

WATS GOIN' ON〔Vol. 1〕蠢動する青森ワッツ 次世代の国内プロバスケットボール・チームのありかた

VictorySportsNews編集部