ロングボールとロングスローに対する守備のもろさを露呈した日本

 特に、準々決勝のイラン戦では前半のうちに先制したにもかかわらず、後半10分にショートカウンターから簡単に失点を許して1-1とされると、その後はほとんど防戦一方。後半アディショナルタイムの96分に献上したPKを決められ、逆転負けを喫した。

 日本は昨年6月15日のエルサルバドル戦からアジアカップグループリーグ初戦のベトナム戦まで国際Aマッチ10連勝を飾っていたが、そのうち9試合が前半でリードを奪っており、例外は前半0-0で折り返した1月1日のタイ戦だけだった。
 
 リードを守り切れなかった要因として、ロングボールに対応できず押し込まれたことであることは明らかだが、もうひとつ、ロングスローも日本の守備陣にボディブローを与えるように苦しめた。これに関してはMF久保建英の見解が的を射ていた。

「後半に入って相手に2、3回ロングスローを作られて、嫌な流れだなと思ったら、相手もそれに味をしめて、とりあえず蹴ってきた。タッチラインを割ってもロングスローがあるよということで(日本が)押し込まれて嫌な展開になった」(久保)

 こうなった伏線はグループリーグ第3戦のインドネシア戦にある。日本は3-0とリードしていた91分、相手のロングスローからファーサイドの選手をフリーにさせてシュートを決められ、クリーンシートを逃していた。

 今大会ではロングスローをセットプレーと同格の戦術として活用している国がいくつかあり、イランは7番のMFジャハンバフシュが左右どちらのサイドからもスローインを担当した。日本はロングスローを含めてセットプレーから5失点しており、分かりやすい弱点を世界中に露呈してしまったことになる。
 
 また、ロングボール対策に関してはMF遠藤航が根本的な部分について危機感を露わにしている。

 遠藤はグループリーグ第2戦でイラクに1-2で敗れた時、「イラクの選手はシンプルに蹴ってきた時もラフなボールに対しての予測力が高い。日本に欠けているところかなと思う」と指摘していた。日本では育成年代からレベルの高いチームで育ってきた選手ほど、ロングボールに慣れる機会が少ない。これについては何かしらの対策が必要なのではないか。

 遠藤は、「ガムシャラに長いボールを蹴ってくるとか、ちょっと汚いプレーとか、それも含めてサッカー。W杯アジア予選でも同じようなシチュエーションは起こると思う」と警戒を強めている。世界の強豪を倒すための道筋とは異なるので、「アジア対策は別で考えるべき」とも語っていた。

圧倒的な中東勢の熱量…W杯アジア最終予選の脅威に

 アジアカップの開催国は2019年のUAEに続いて今回も中東のカタールだった。それも要因となって昨今は中東勢が力を発揮しているし、着実に力をつけている。大会全体の取材を通じて感じたのは、中東でサッカー熱が上がっていること。今大会の観客数は中国で開催された2004年大会の約102万人を超える150万7790人の新記録だったが、2022年W杯を開催したカタールに対する近隣諸国の対抗心はますます上がっており、FIFAランク87位ながら決勝に進んだヨルダンの応援はすさまじかった。

 北中米W杯は出場国数が従来の32から48へ増えたことにより、アジア枠も4.5から8.5に増えたが、18チームを3組に分けて争うアジア最終予選では単純計算でアジアカップ16強以上の国2つと同組になる確率が高い。中東勢のレベルが上がっている中で難しい戦いになるのは間違いなく、たとえ地力で優位に立っていたとしても、徹底して弱点を突かれたら厳しい戦いになる。

 そして何より、DF冨安健洋が言った「熱量が足りない」という指摘は、今回の日本が抱えていた多くの課題を包括する表現だ。

ずれていたベクトル、足りなかった競争意識

 問題点のひとつは、以前と比べて欧州ビッグクラブでプレーする選手が格段に増えており、リーグ戦開催期間と被っているアジアカップに100%集中するのが難しかったことだ。この懸念は森保監督も認めるところだった。

 ファンの熱量も然り。大会前に負傷を抱えていた久保、冨安、MF三笘薫について「アジアカップに招集する必要はあるのか?」という声は決して少なくなかった。

 森保ジャパンがカタールW杯から続く長期政権になっていることによるマンネリムードも否めない。26人のメンバーはカタールW杯から11人が入れ替わり、年齢的にも若返っているが、基本的な指揮官の好みが急に変わることはない。コーチ陣はリフレッシュしたが、試合へのアプローチ方法もベースに変化はない。毎熊晟矢という新顔の台頭はあったが、チーム内にギラギラした競争意識は感じられなかった。

 カタールW杯後、遠藤は選手たちの「W杯で優勝を目標として戦っていく」という意志を集約し、そのための道筋として「主体的なサッカー」というコンセプトを自分たちから打ち出してきた。それは単にボールを握るということではなく、相手に応じたゲームプランを能動的に実践するという意味合いだという。
 
 そして、森保一監督は2018年ロシアW杯後から掲げている「臨機応変な対応力」をよりブラッシュアップさせようとしている。また、GK鈴木彩艶やDF板倉滉にはあえて試練を与えるような起用で成長を促してもいた。

 今回のアジアカップで日本選手全員が優勝をターゲットとしていたことに偽りはないが、イラン戦後にMF守田英正が「考えすぎて頭がパンパンになった」と発言して監督からの指示を求めたことも含めて、それぞれのベクトルが微妙にずれていた。

 日本は何を目指し、どのやり方を選択していくか。これらを今ひとたび整備する必要性を突きつけられたベスト8敗退だった。


矢内由美子

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。ワールドカップは02年日韓大会からカタール大会まで6大会連続取材中。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。