企業の理念とリーグのビジョン

 一般社団法人ジャパンバレーボールリーグ(JVL)は、先月17日に東京都内で行われた会見にて、大同生命がSVリーグのタイトルパートナーとなったことを発表した。契約期間は2024年4月から2030年6月までの約6年で、異例の長期契約だ(金額は非公表)。

 会見に出席した大同生命の北原睦朗社長はタイトルパートナーに就いた理由として、同社の企業理念とバレーボールの持つ特徴や、SVリーグの目指す「地域共生、社会貢献の推進」への共感があったという。

 「バレーボール競技自体に魅力が溢れている。これまで長い間、老若男女を問わず広く愛されてきた国民的スポーツ。競技性の高いスポーツと同時に、公園などでボール1つあれば気軽に楽しむことができ、全国各地にプレイヤーが存在するという裾野が広いことも特徴。一方で、オリンピックをはじめ、観戦するスポーツとしてもレベルが高く、男女とも日本代表は世界でもトップクラスの実力を持っている。次に、SVリーグを運営するジャパンバレーボールリーグ様の思いが、これまでの取り組みや当社の企業理念にも通じるものがあった。パートナーとして(JVLと)お互いが共有することで、地域社会の活性化に貢献できると考えたことから、今回タイトルパートナーに就任することを決定しました」

 大同生命は企業理念のミッションとして『想う心とつながる力で中小企業とともに未来を創る』を掲げる。中小企業向けに保障やサービスを提供し、経営課題の解決支援や社会的課題への取り組みに対して、同社からソリューションを提供することで地域社会に貢献する。日本には中小企業が約336万社あり、全企業数の99%を占める。中小企業全体の従業員は約3310万人にも及ぶ。こういった顧客と向き合う大同生命は、当然ながら日本全国、各地域の社会にも必然的に向き合っていく。今後、各地にちらばるSVリーグのクラブとの連携も期待される。

 JVLの大河正明バイスチェアマンも「大同生命様の企業理念は、新しくVリーグがリボーンしていくSVリーグの、強く広く社会とつなぐという理念と一致している。(タイトルパートナーを探す上で)一番大事なのは企業理念」と説明した。

生保とスポーツを結びつけるキーワード「地域」「健康」

 今回の大同生命とSVリーグの提携に限らず、生命保険会社がスポーツリーグのタイトルパートナーとしての関わりを持つ理由として考えられるのが、大同生命の北原社長の発言の中にある「地域社会の活発化への貢献」だろう。長らくJリーグのトップパートナーとして支える明治安田生命も、Jリーグを通した地域貢献活動を積極的に行っている。

 明治安田生命は2014年にJリーグのトップパートナーとなり、J3リーグ(3部リーグ)のタイトルパートナーとなった。その翌年2015年からはJ1(1部)、J2(2部)のタイトルパートナーにもなり、Jリーグ全体で冠名がついた。スポーツニュースを含め、「明治安田生命 Jリーグ」と長年紹介されていることもあり、サッカーファンからの認知度は高いだろう。明治安田生命はリーグの冠スポンサーだけでなく、実はJ1〜J3の全60クラブのスポンサーにもなっていて、Jリーグクラブのない県であれば、J3より下のリーグに属するクラブのスポンサーもしている。リーグの冠と、リーグに所属する全クラブとの契約となると、年間スポンサー料は相当な金額になる。

 2022年12月にJリーグとの契約をさらに4年更新し、2026年までトップパートナーを継続することを発表した記者会見で、明治安田生命の永島英器社長は「Jリーグ百年構想やホームタウン制といった理念は、地域に寄り添うという私たちの想いとぴったり一致する。Jリーグの発展と地域社会の貢献にこれまで以上に邁進してまいります」といった言葉を残している。

 また、Jリーグの公式ホームページ上にある当時の会見の様子を伝えるリリース記事には、こう書かれている。

 『今回の契約更新の背景には、「地域に根差し、地域に愛される存在であり続ける」という両者の共通の想いがある。地域社会の活性化と課題解決へのさらなる貢献に向けて、両者の関係性は継続されることとなった。その想いを形とするべく、2023年から新たなプロジェクトがスタートこととなった。明治安田生命が行う「地元の元気プロジェクト」とJリーグが2018年から実施している「シャレン!」が連携し、各地域課題に応じた社会貢献活動を行うこととなった』

 ここに出てくる「シャレン!」とはJリーグを活用した社会連携活動で、多くのJリーグクラブがシャレンに取り組み、その活動を表彰するアウォーズも毎年行われ、明治安田生命の賞もある。このように、Jリーグと明治安田生命は「地域」というキーワードで強く結ばれている。

 なお、明治安田生命はブランド名を2024年1月から「明治安田」に変更したことに合わせて、Jリーグの冠名も2024年シーズンから「明治安田Jリーグ」となっている。

 もうひとつ生命保険会社がスポーツリーグに関わる理由として挙げられるのが「健康」だ。2021年に始まったダンスのプロリーグ「Dリーグ」は、10代20代の若い世代の人気が爆発していて、試合会場は常に観客の熱気で溢れている。そんなDリーグのタイトルパートナーに就いているのが第一生命。同社ホームページ内のDリーグに関するページには、協賛の理由として次のように書かれている。

 『第一生命は、ダンスを通じて多くの方が楽しみながら健康増進に取り組むことができ、また様々なつながりの場をお届けできることからプロダンスリーグ「D.LEAGUE」へ協賛しています。 ダンスの魅力を多くの人々にお伝えするとともに、「健康」や「つながり」で、これからも皆さまの「クオリティ オブ ライフ(QOL)」向上に貢献していきます。』

 生命保険各社の企業理念や活動報告の中には、大なり小なり「健康」について触れる記述がある。生命保険と名の付く会社だからこそ、健康と密接に関係あるスポーツに関わるのだろう。

 第一生命は同じページ内で、地域に関する取り組み事例も紹介している。

 昨シーズンに続き、今シーズンもBリーグのポストシーズンでタイトルパートナーになった日本生命も、特別協賛が決定したリリース文面の中で「健康増進」「地域・社会の活性化」といった記述がある。

 これらの事例でわかるように、生命保険会社がスポーツリーグのスポンサーになるのは、ごく自然なことなのかもしれない。

 もちろん、生命保険以外の業種の会社でもスポーツリーグのタイトルパートナーになっている。主なリーグでは、プロ野球のパ・リーグは「パーソル パシフィック・リーグ公式戦」、ラグビーは「NTTジャパンラグビー リーグワン」、女子ソフトボールは「ニトリJDリーグ」、卓球は「ノジマTリーグ」などがある。

異例の6年契約の理由

 それにしても、大同生命とSVリーグの契約で驚かされたのが、6シーズンに渡る長期の契約期間。一般的には2年から3年(2シーズンから3シーズン)のケースが多い中で、大同生命はなぜバレーボールのSVリーグに6シーズンに渡る長期契約を結んだのか。会見でその点について、北原社長と大河バイスチェアマンに問うと、次のように答えた。

 「今回、我々は今まであったリーグの誰かのポジションを立ち替わってなる形というではなく、初めてスタートするものに浸透させるということなので、それを育てていくためには一定の期間が必要」(北原社長)

 「6年後の2030年に、我々のビジョンにおいて世界最高峰リーグになると掲げている。2027年からセカンドステージ(筆者注釈:2024年から3シーズンが世界最高峰リーグになるための第一段階)になりますけど、そのゴールが2030年。それに向けて、共に我々が成長しているところを見つめてもらえながらサポートしてもらえればと思っている。確かに、一般的には4年、3年とか5年とかですが、長期契約をさせてもらいました」(大河バイスチェアマン)

 バレーボールリーグ自体は長年あった中で、世界最高峰リーグを目指す新たなリーグとして生まれ変わり、大同生命としては色のついてない真っさらなリーグに、一から携われるところが魅力に映った。新しいリーグを立ち上げる側としてはこれほど心強いものはない。

 他の球技での話だが、新リーグを立ち上げようとした際に、あるチームの代表者がリーグに対して不満を示したことがある。不満の中身が、大きなスポンサーつまりタイトルパートナーを持ってこないことだった。結果的にその新リーグは実質失敗に終わった。SVリーグ開幕の半年前に、大同生命と長期契約を結べたことは、SVリーグに参入するチームの中に多少はある不安や不満を解消するには非常に重要だったであろう。

 また、大同生命がSVリーグに出すスポンサー料は、年間数億円規模と推察されるが、まだ事業規模が年間10億円に満たないリーグ側にとって、億を超える運営資金は非常に大きい上に、目処がある程度見通せることは、中長期に渡る計画が立てやすい。

 もちろん大同生命にとっても「これまで(プロスポーツリーグなど)スポンサー自体なったことがなく初の取り組み。業界5位ということもある」(同社関係者)ということから、SVリーグを起爆剤に、存在感やブランド認知を高めたいというのが一番大きな理由だろう。

 大同生命がSVリーグとどういった活動をしていくのか。他社とは異なる斬新な取り組みに期待したい。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。