地方自治体の野球場で完全無人野球中継システムを構築

── では実際に、「STADIUM TUBE」はどのように使われているのですか?

「設置場所で一番多いのは、自治体が所有する公共の競技場や体育館です。そこに常設モデルのAIカメラを1台設置して、そこを競技会場として利用される方が、例えば何かの大会の試合映像を配信したり、練習試合を撮影して後から見るといった使い方をされています。

 また、自治体でせっかく野球場やアリーナを建設しても、あまり使われていないところがあります。そこにAIカメラを入れ、自治体のホームページとリンクして試合の映像を配信することによって、市民の皆さんの間で知名度が上がり、利用率が上がったというケースもあります。さらに、試合の模様が配信できるので、いろいろなスポーツの大会を誘致することができるようになったケースもあります」

 例えば秋田県北部にある大館市では、国の地方創生推進交付金を活用し、ドーム式野球場の「ニプロハチ公ドーム」に完全無人野球中継システム「STADIUM TUBE DoublePlay」を、屋内総合体育施設「タクミアリーナ」にはフルHDによるライブ/アーカイブ映像の撮影・配信が可能な「STADIUM TUBE S1」を今年2月に設置。各会場で行われる大会や試合の模様を配信する専用ウェブ視聴サイトも構築した。

 これにより試合のライブ配信に加え、アーカイブ化された試合動画をスマートフォンやタブレットなどで視聴が可能になっている。

── チーム単位で利用されているケースではどのようなものがありますか?

「大学スポーツにおいて、慶應大学野球部の練習グラウンドにも設置されていて、シーズン前はここで毎日のようにオープン戦が行われていて、その模様を撮影して配信しています。それをOBやファンの方々に観ていただくというプロモーション活動ですね。これが手軽にできるようになりました。また、相手チームの方々にもご覧いただいています」

リモートでコーチが指導することも可能に


── 可搬式のAIカメラは、どのように利用されているのでしょう。

「クラブチームや大学の運動部が、練習場所で使うケースが増えてきています。この場合は、練習の様子を撮影して、練習後プレーの振り返りをして、戦術的な強化を図るために使われています。グラウンド目線よりも高いところから撮影できるので、フォーメーションがどうなっているのかといったことも確認しやすいからです。

 今はスマホでも簡単に映像が撮れますが、ブレて画像が安定していなかったり、大事なところが撮れてなかった、保存に失敗したといったこともありがちです。また、そもそも誰が撮影を担当するのかといった問題もあります。AIカメラを定点に一つ置くことで、撮り逃しがなく、しっかりした映像を撮ることができるようになるのです」

 最近、全国の中学校の部活動において、教員の負担軽減のために指導や運営を民間団体に移行するところが増えているというニュースも流れている。そうなると、今後は専門的な指導者がAIカメラを使って複数の学校の部活動を指導していく時代になってくる可能性もある。

── 指導において「STADIUM TUBE」はどのように利用できますか?

「例えばスペインのサッカーチームのバルセロナFCでは、練習コート16面すべてにAIカメラが常設されていて、練習しているところを撮影してリモートでコーチが指導するという使われ方もしています。これから日本の部活動で指導の外部移行が進んでいくと、指導者の確保が問題になってきます。指導者の数には限界があるので、一人の指導者が遠隔地からリモートで複数の部活動をまとめて指導できる環境を作ることも必要になってくると思っています。練習の様子を自動で撮影してインターネット上に配信できるSTADIUM TUBEは、それに貢献できるのではないかと考えています」

AIの進化で新たな映像分析も技術も可能になる

── NTTSportictでは今後、この「STADIUM TUBE」をどのように展開していきますか?
「まずは設置する拠点を増やしていくことが大事です。地方のスポーツ協会やチームが単独で持つには負担が大きいですが、設置されている拠点を多くの団体やチームが利用すればコストが分散されます。それにより、試合映像を撮ったり配信したりすることが当たり前になるような世界を作っていきたいと思っています。

 また、AIの技術は進化のスピードが速いので、NTTのグループ企業やその他のベンダーと協力しながら、新たな映像分析の技術を取り入れていきたい。今は我々が提供できるのは試合映像を自動で作って配信するところだけですが、例えば、今の日本のプロ野球やメジャーリーグの中継では普通になっている、ピッチャーが投げたボールの速度が瞬時に出るとか、打球速度や角度が出るといったことも可能になってくると思います。

 その一方で、地方の競技場だけではなく、例えば学校の体育館といったところにも設置していただけるよう、各自治体にアプローチしていきながら展開し、部活動における日々の練習に役立てられるようにしていけたらと考えています」

 NTTSportictの中村社長がイスラエルで初めてPixellot社のAIカメラを見た時にまず感じたのは、自分の子供のサッカーの試合に応援に行った際、いつもビデオカメラのファインダー越しにしか試合を観ることができなかったが、これがあれば撮影を気にすることなく、自分の目で試合を観ながら応援することができる、ということだったという。

 注目シーンのアップ映像やスローモーションによるリプレイ、データの計測・表示など、さらにバラエティに富んだ撮影ができるようになれば、日本でのスポーツ映像の撮影・分析・配信において新しい時代が始まるかもしれない。

最新モデルのS3で撮影をした映像をこちらからご覧いただけます。

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VictorySportsNews編集部