イスラエルが生み出した脅威のピクセロット

―― NTTSportictは、スポーツの自動撮影と映像編集を可能にするPixellot(ピクセロット)社のAIカメラ独自の配信プラットフォームを組み合わせ、無人スポーツ映像配信の仕組みを構築したそうですね。

「はい。弊社で開発したサービス『STADIUM TUBE』は、従来の約10分の1のコストで、スポーツ映像を撮影・配信することができます」

―― いま、おっしゃった「従来の10分の1」の「従来」とは、具体的にどのような場合の、どんな撮影と配信を指しているのでしょうか。

「従来のスポーツ撮影では、撮影機材を試合現場に運び、専門のカメラマンが撮影し、その映像を映像編集者が編集し、出来上がった映像をウェブ配信技術者が配信するという、多くの人手と手間、時間をかける必要がありました。『STADIUM TUBE』はこの全ての作業をAIがほぼ同時進行で行うため、撮影・編集・配信にかかる人件費やコスト、時間を大幅に抑えることができるのです」

―― その「STADIUM TUBE」の肝となるPixellot社のAIカメラに注目したきっかけは?

「当時NTT西日本の社員だった現社長の中村に、こんな商品があるよと朝日放送の知人からPixellotの話があり、興味を持った中村が、イスラエルのPixellot社に出向き、このAIカメラを見て、これを日本で事業化できないかと考えたのが始まりです。そこから私も事業化に向けた取り組みに関わるようになり、会社設立に向けた検討が進んでいきました。

 そして、高品質なネットワーク環境の整備とその保守運用ノウハウを持つNTT西日本やNTTグループと、スポーツ中継も含めた放送映像制作の豊富なノウハウを持つ朝日放送が手を組み、それから1年半後にNTTSportictを設立しました」

代表取締役社長中村正敏さん(右から2番目) Pixellot社のメンバーと

AIがボールや選手の動きを認識して撮影・編集

 AIカメラは用途に合わせて2つのタイプあり、常設モデルは体育館や屋外競技場などに固定して設置し、バレーやバスケットボールだけでなく、サッカーやアメリカンフットボールなどの広いピッチのスポーツも、ライブ/アーカイブ映像の撮影が可能となっている。

 もう一つのタイプは可搬式で、重量は2kgと軽いためどこにでも持ち運びができ、専用の三脚を使って最大5メートルの高さから撮影することが可能。2つのレンズで画角が200°あるためグラウンド全体の撮影が可能で、内蔵充電池で連続5時間程度の撮影ができるようになっている。このAIカメラと独自の配信プラットホームを組み合わせ、スポーツ映像の撮影、映像編集、配信をすべて自動で行うサービスが「STADIUM TUBE」である。

 現時点で対応できる競技は、サッカー、野球、バスケットボール、ラグビー、バレーボール、ハンドボール、ソフトボール、アメリカンフットボール、フットサル、体操、アイスホッケー、ビーチバレー、ラクロス、レスリング、フィールドホッケー、水球の16競技となっている。(*AIカメラの機種によって撮影対応競技は異なる)

――撮影方法はどのようになっているのですか?

「通常は人がビデオカメラを持って試合を撮影しなければなりませんが、STADIUM TUBEのAIカメラは設置さえすれば、あとは自動で撮影してくれます。AIがボールや選手の動きを認識しているため、無人でも臨場感のある映像を撮影することができます。競技場にSTADIUM TUBEのAIカメラが設置されていれば、現地に人が行かなくても、何月何日の何時から、○○VS○○の試合を撮影するとリモートで設定しておくだけで、自動的にその時間になったら撮影を開始して、終了時刻になったら撮影を終了し、映像を編集して配信するという仕組みになっています」

“あなたの頑張る姿を、あなたの誰かに届ける”をミッションに

 同様のシステムがすでに海外では活用されており、例えばドイツでは、地方のサッカー場にまず設置してしまい、そこで撮影した試合映像を配信して、広告料や映像販売で収益化を図るという取り組みまで行われているという。ただ、これには巨額の初期投資が必要になり、これをそのまま日本で展開するのは資金的に難しい。

 一方で、マイナーなスポーツや学生スポーツ、セミプロ・アマチュアスポーツ、地域スポーツなど、日本には映像化、配信されていないスポーツの試合が数多くある。このような試合を見たい人は、人数そのものは少ないかもしれないが、一定数いるはずである。そこでNTTSportictが打ち出したコンセプトが「100万人が観る試合を1試合ではなく、100人が観る試合を1万試合配信」だった。

――「100人が観る試合を1万試合配信」というコンセプトはどういうものなのでしょうか。

「かつては、プロ野球の試合は毎日テレビで放送されていましたが、今はテレビ局も広告収入の減少などもあり、かつてのようにお金をかけて生中継する時代ではなくなりました。それを簡易に低予算で作ることができる仕組みがあれば、また別の展開も可能になります。例えばバスケットボールやバレーボールなど、高校生の大会の県予選などは、かつては決勝戦などはローカル放送局の中継も一部ありましたが、1回戦や2回戦などはまず放送されることはありませんでした。このように限定的ではあるが一定数のニーズはあるものの映像化されないため見ることができなかった試合も、STADIUM TUBEを使えば低コストで撮影・配信が可能になる。私たちは“あなたの頑張る姿を、あなたの誰かに届ける”をミッションにして、それを実現していきたいと考えています」

NTTSportict社が提供する「STADIUM TUBE」全ラインナップ中編へ続く

VictorySportsNews編集部