「打つほうは村上(宗隆)が本来のバッティングをするとか、(2023年は)ケガに泣いた塩見(泰隆)がシーズンを通して試合に出るとか、やるべき選手がしっかりやれば問題ないと思うんですよ」

 以前の記事でも紹介したとおり、チームのOBであり、現在は解説者、コメンテーターなど多方面で活躍している五十嵐亮太氏は、今シーズンのヤクルトについてそう語っている。昨年は打線に関していえば主砲・村上の成績ダウンに加え、2021年ベストナイン、2022年ゴールデングラブ賞と攻守で連覇に貢献した塩見が、度重なるコンディション不良で51試合しか出場できなかったことが大きく響いた。

 村上は今や球界を代表する打者とはいえ、まだ24歳。史上最年少で三冠王に輝いた2023年のような成績を「本来のバッティング」とするのは酷かもしれない。それでも「もう一度三冠王を獲りにいきたいなと思いますし、三冠王を獲ることによって、チームも必ず勝てると思う。やっぱり4番がしっかり打たないとチームもなかなかいい順位に行きませんし、責任は僕にあるのでね。4番としてもう一度優勝できるように頑張りたいなと思います」という若き4番バッターの言葉は、実に心強い。

 一方の塩見は2月半ばで離脱した昨年と違い、今春はキャンプを無事に完走した。自打球の影響による欠場はあったものの、オープン戦最後の4試合は全て一番・センターでスタメン出場すると、3月22日の埼玉西武ライオンズ戦(ベルーナドーム)では決勝タイムリーを含む2安打と、元気なところを見せた。

 さらに昨年は下半身のコンディション不良もあってレギュラー定着後ではキャリアワーストのOPS.721に終わったキャプテンの山田哲人が、このオープン戦ではOPS.927と好調をキープ。昨年は初の打率3割を記録したドミンゴ・サンタナ、自己最多の23本塁打を放ったホセ・オスナの両外国人も健在で、打線のほうは大きな心配はなさそうだ。

 それだけに巻き返しに向けての課題は、五十嵐氏が「やっぱりピッチャーですよね」と話していたように、投手陣になる。実際に過去10年のヤクルトの順位を見ても、投手陣の成績がこれを大きく左右しているのが分かる。2014年から昨年までの10年間で、ヤクルトのチーム防御率がリーグ4位以上だったのは4回あり(2015、2018、2022年4位、2021年3位)、これは同期間のAクラス入り(2015、2021、2022年優勝、2018年2位)と符合する。逆にチーム防御率が5位以下だったシーズンはすべてBクラス。打線が良いだけに、ピッチャーがある程度、頑張れば勝てるということだ。

 その投手陣に関しては、下半身のコンディション不良によりキャンプ途中で離脱した守護神の田口麗斗が、3月19日の北海道日本ハムファイターズ戦(神宮)で一軍マウンドに帰ってきたのは何よりの朗報だろう。中継ぎも含め、3月17日のオリックス・バファローズ戦(神宮)以降は無失点とオープン戦でも結果を残した救援陣は計算が立つが、不安が残るのは先発陣だ。

 昨年のチーム先発防御率3.95は両リーグワースト。その中にあって唯一、規定投球回、2ケタ勝利を達成し、クオリティスタート率73.9%と高い確率で試合をつくっていたエースの小川泰弘が、上半身のコンディション不良で3月半ばに離脱。既に投球練習を再開したと伝えられているものの、4年連続の開幕マウンドは絶望的な状況にある。また、過去2年は未勝利で今年は“復活”が期待されていた奥川恭伸、即戦力として獲得したドラフト1位ルーキーの西舘昂汰(専修大)も出遅れている。

 昨年は小川に次ぐ7勝のサイスニード、初の本格的な先発転向で6勝した小澤怜史、ルーキーながら4勝を挙げた吉村貢司郎、さらに昨春のワールド・ベースボール・クラシックに侍ジャパンの一員として出場した高橋奎二や現役最多のNPB通算185勝を誇る大ベテランの石川雅規らもいるとはいえ、台所事情は決して楽ではない。

 もっともヤクルトというチームには、前評判が良くない年ほどそれを裏切るという良い意味での“ジンクス”のようなものがある。最近でいえば前年までの2年連続最下位から14年ぶりのリーグ制覇を成し遂げた2015年や、シーズン96敗という屈辱から1年で2位まで駆け上がった2018年、やはり2年連続の最下位から20年ぶりの日本一に上りつめた2021年がこれに当たる。

 上記の3シーズンとも、下馬評を覆した要因の1つに「プラスアルファの戦力」の出現があった。2015年は右ヒジのトミー・ジョン手術から復帰した館山昌平、前年の途中で福岡ソフトバンクホークスから移籍したアンダースローの山中浩史がそろって6勝をマーク。2018年は前年までメジャーリーグでプレーしていた青木宣親が7年ぶりに復帰し、リーグ4位の打率.327と打ちまくった。

 2021年は、前年は一軍登板1試合の奥川が高卒2年目にしてチーム最多タイの9勝、新外国人のサイスニードも開幕後の来日で6勝を挙げている。東北楽天ゴールデンイーグルスを戦力外となった近藤弘樹が、シーズン序盤は中継ぎとしてピンチの場面で登板してはことごとくこれを断ち切ったのも、チームを大いに勢いづけた。

 髙津臣吾監督も「大事だと思います、新しい力っていうのはね。そういう力がないと今年は勝てないと思っているので」と話しているように、今シーズンも「プラスアルファの戦力」にかかる期待は非常に大きい。西川遥輝(前楽天)、嘉弥真新也(前ソフトバンク)に代表される移籍組や、ミゲル・ヤフーレら新外国人はもちろん、前出の奥川のような昨年は一軍の戦力になれなかった選手たち──。彼らの働きしだいでは、ヤクルトが今季のセ・リーグで“台風の目”になる可能性は十分にある。


VictorySportsNews編集部