vol.2はこちらから

日本版NCAAの具体的な打ち手

vol.2では、本家NCAAの特徴として、「ローズボウルというものを“つまみ”にして、大学と地域の大きな接点がつくり出されている」と述べた池田氏だが、それらを日本の大学スポーツに落とし込んだ具体案も、列挙した。
「国士舘大でいえば、五輪に出場する選手、過去に出場したOBを呼んで他大学との対抗戦をつくって恒例行事にするというのも一つ。(国士舘大のスポーツの拠点である)多摩地区の商店街に呼びかけてフラッグを掲げさせてもらうとか、そのフラッグをスポーツビジネスにかかわりたいと思っている学生にデザインさせるなどしてみれば、スポーツビジネスの人材育成につながるかもしれない。『多摩スポーツ新聞produced by国士舘大』のようなものを刷って地域の人に配るとか、そこに地域の広告を集めるとか、文化祭を組み合わせて地域の人たちが見に来てくれる『武道祭り』を年一回開催するとか。大学のスポーツ施設を開放したり、スクールを実施したりして地域の子供や高齢者を呼べば、地域との接点もつくれます。新しい試みはニュースになるので、それが大学スポーツにおいての先駆けとして広まるきっかけになるかもしれません」 


(C) VICTORY

見に来てもらうのはハードルがかなり高い

池田氏はベイスターズ時代、球団オリジナルのクラフトビールを他球団に先駆けて展開し、本拠地・横浜スタジアムでNFL(米プロアメリカンフットボール)の優勝決定戦「スーパーボウル」に着想を得た派手な開幕セレモニーを実施するなどして、メディアを大いに賑わせた。「何かをやる球団」というイメージを世間に定着させる絶え間ない話題づくりは、人気を獲得する上で大きな効果をもたらした。
「ベイスターズの社長をやって分かったのは、見に来てもらうというのは、実は非常にハードルが高いということです。お金を払うとなると、なおさらハードルは上がる。」
経験者であり、実績を残してきたからこそ、その言葉には説得力がある。 


(C)Getty Images

スポーツの力には底知れないものがある

また、大学スポーツの人気拡大のために「一番分かりやすい」ものが「五輪に出場する選手や、プロで有名になる選手が出ること」だと、スポーツの本質から目を背けることなく言い切った。「そこはユニバスや大学の経営層など、こちら側がコントロールできないもの」ではあるが、これからの社会が求めているもの、社会が大学スポーツ界全体に求めているものは、「これからの日本を背負うような代表的人材が、アスリートという分かりやすい世界から、大学スポーツのスチューデントアスリートの世界から、競技だけでなく知識や学問も大学時代に両立させた人材が輩出されてくること」だという。
「まだまだ潜在的な社会ニーズではありますが、これを一番に成し遂げた大学は、社会から高い評価を得るであろうし、大きなブランドへとつながります。スポーツの力には底知れないものがあります。それを社会通念が変わった現代において、社会の意識と呼応して大学の大学スポーツに対する意識がいち早く変化し、その先進的事例をつくりあげられれば、とんでもない社会的反響、影響へとつながります。私は、ベイスターズでも同様のことを体験しました」 
池田氏は設立準備委員会の主査としてユニバスによる表彰制度の設立でも中心的な役割を担っており、そうした仕組みを個々の大学が活用し、いわゆる“スター選手”を生み出す環境を整えることも重要な要素として強調した。 

学生アスリートの”発信力”の重要性

「もう一つ重要なのは学生アスリートの意識」だという。「SNSなども活用して、競技について、そのスポーツに関することなどを的確に発信してもらう。そこで『こういう大会があるから』と発信したら、何%か見に来てくれる人が出てきて、それが積み上がっていく世界。そういうことを、しっかりと教えてあげることもスポーツビジネスの基本」と話す。 
「ユニバス、大学、学生アスリート。3者の試みがうまく回転しだすと、その先に『見てもらえる~観客増〜放映権・スポンサー拡大〜大学スポーツの人気拡大』という時代の流れが来るのだと思います」 

大学スポーツ発展への熱い思いを吐露し、そのためのさまざまなアイデアを披露した池田氏。常識にとらわれず、毀誉褒貶の世界に惑わされず、着実に結果と信頼を積み上げていく。大学スポーツ発展のキーマンの哲学に、多くの関係者が熱心に耳を傾けた。この約1時間半に及んだ勉強会の光景が、大学スポーツが変わろうとしている一つの証しといえるかもしれない。

大学スポーツは“無法地帯”か。日本版NCAAが絶対に必要な理由。

文部科学省が、国内の大学スポーツの関連団体を統括する「日本版NCAA」を2018年度中に創設する方針を発表したことはすでにお伝えしたとおり。日本に馴染みのない組織だけに、その必要性がどの程度のものなのか、まだわからない読者の方も多いのではないだろうか。今回は、PROCRIXであり帝京大学准教授(スポーツ科学博士)である大山高氏に、大学で教鞭をとる人間の立場からみた必要性を語っていただいた。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

[vol.1] ”UNIVAS”だけでは意味がない、日本版NCAAへの茨の道

国士舘大は10月1日、広く大学のスポーツに関わる諸活動を統括する「国士舘スポーツプロモーションセンター」を発足させた。スポーツ庁による統括組織「一般社団法人大学スポーツ協会」(UNIVAS=ユニバス)の設立を受けた大学スポーツ改革の一環で、今後はブランド力の向上や環境整備、地域連携などを目指していく。国士舘大では同組織の発足に伴い、11月12日に勉強会を開催。プロ野球・横浜DeNAベイスターズの初代球団社長でスポーツ庁参与、「ユニバス」の設立準備委員会で主査を務める池田純氏(42)が講師として招かれた。国士舘大学からの質問に池田氏がひとつひとつ丁寧に答える形で勉強会が実施された。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

[vol.2] なぜアメリカの大学スポーツに6500億もの金が動くのか?30年遅れの日本の課題

スポーツ庁による統括組織「一般社団法人大学スポーツ協会」(UNIVAS=ユニバス)の設立を受けた大学スポーツ改革の一環で、国士舘大は10月1日、広く大学のスポーツに関わる諸活動を統括する「国士舘スポーツプロモーションセンター」を発足させた。国士舘大では同組織の発足に伴い、11月12日に勉強会を開催。プロ野球・横浜DeNAベイスターズの初代球団社長でスポーツ庁参与、「ユニバス」の設立準備委員会で主査を務める池田純氏(42)が講師として招かれた。vol.2では大学スポーツを引っ張る人物像と、そのロールモデルについてフォーカスする。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

[特集]日本版NCAAの命運を占う

日本のスポーツ産業、発展の試金石

VICTORY ALL SPORTS NEWS

VictorySportsNews編集部