大学スポーツを引っ張る人物像
2019年にラグビーワールドカップ、2020年に東京五輪・パラリンピック。明らかに日本はスポーツの“ブーム”に向かっている。だからこそ、いろいろな耳が痛いスポーツの不祥事にも焦点が当たっています。その中で唯一、日本で体系化されていないと捉えるべきなのが、実は大学スポーツ。それを体系化するための”UNIVAS”なわけであるが、その中でどう大学スポーツ、さらには各大学が、ブランドとしての価値を確立していくのか。池田氏は「それらを牽引していくリーダーの人物像を示してもらいたい」との質問にも丁寧に回答した。
「全体を統括するユニバスも大切ですが、個々の大学においても、大学スポーツに対する意識を向上させるために戦略と実行力がものすごく大切になります。大学生の気持ち、ネットやITなども理解しなくてはならないので、必然的に若手といわれる層にならざるを得ません。大学スポーツを担ってきた諸先輩方が積み上げてきた歴史の延長線上に、そういった方々に後ろから支えてもらいつつ、未来を任せてもらえるような情熱と“かわいげ”も必要です。スポーツを軸にして日本の、そして大学の“元気玉”をつくる。スポーツに秘められたパワーの最大化を、その大学の大学スポーツに関わる人たちの理解、納得、共感を最大化しつつリードをしていける。大学スポーツにビジョンを持って純粋に情熱を注げるパワフルな経営者。そんなイメージでしょうか。」
スポーツビジネスの世界には適任がなかなかいない
「そういった大学スポーツを未来へと牽引する人材自体の登用すらも、大学や大学スポーツにとってのブランドの源泉になっていくのではないかと思います。もちろん大学自体の構造や現状も、ユニバスを含めた国の動きも理解していないといけないし、スタジアム、アリーナ、施設などスポーツの世界のハードについても理解していないといけない。ビジネス感覚を持っていて、でもバランス感覚があり、フットワークが良くて、学習能力の高い人材が必要になる。まだまだスポーツビジネスの世界には、そういう人材がなかなかいないのも事実です。」
ではどのようにして、適任となるような人材を探すのか。自身の経験に重ねて、こう答えた。
「何もリーダーがスポーツビジネス経験者や大学スポーツ関係者である必要は、全くないと思います。ベイスターズでもそうでした。既成概念にとらわれず、バランス感覚があり、どの世界でも活躍できそうな人材の方が、正面からスポーツの仕事に向き合ってくれるものです。スポーツの世界は閉じられた世界です。閉鎖的な世界にはしばしば、人の噂話を喧伝して人を蹴落とそうとするような、およそスポーツマンシップとはほど遠い人間がいるものです。そうした人間がかかわれば、ただでさえ広がっている国民のスポーツ界に対する昨今の疑念が深まってしまう可能性すらあります。まずはその人の実績を評価し、大学スポーツを大学や競技団体と一緒になってバランスよく、戦略と実行力を持って推進できる人材をお探しになられるのがよいのではないでしょうか。なかなか大変なことではあると思いますが。」
ローズボウルを”つまみ”に
では、ベイスターズの球団経営における数々の実績を通してスポーツビジネスという概念を日本に根付かせた一人といっても過言ではない池田氏は、具体的に大学スポーツのブランド向上について、どのようなアイデアを持っているのか。具体例として挙げたのが、自身も過去に視察したという米カリフォルニア州パサデナのローズボウル・スタジアムで開催される元日恒例のカレッジフットボールのビッグマッチ「ローズボウル」だ。
大学生同士が戦う試合であるにもかかわらず、プロの興業に勝るとも劣らない盛り上がりを見せ、大学関係者、OB、近隣地域の住民が9万人以上を収容可能なスタジアム一帯に詰めかける一大イベントだが、池田氏が注目するのは競技そのものではない。
「メインはスポーツ観戦ですが、会場を訪れる人は、それだけを楽しみにしているわけではないんです。午後の試合開始を前に、朝からスタジアム周辺に人が集まり、バーベキューを楽しんだり、スポンサーイベントや地域を巻き込んだイベントが開かれたりします。試合中も、試合そっちのけでそのまま外で飲み続けて、会話やキャッチボールを楽しんでいる人がいると思えば、熱狂的に応援している人もいる。ローズボウルというものを“つまみ”にして、大学と地域の大きな接点がつくり出されているのです。だから、テレビ中継を地域の人も見るし、放映権が結構な値段で売られる。それは何十年もかけて積み上げたもので、一朝一夕につくれるものではありません。ただ、日本でまだまだ発展の余地があるのが大学スポーツであり、それこそがスポーツ庁がユニバスを創設する意義であり、つくりあげていかなくてはならない世界なのではないでしょうか。」
放映権料6500億!? 桁違いな米大学スポーツ
1902年に行われたミシガン大とスタンフォード大の対抗戦が始まりとなったこの大会を含むカレッジフットボールのプレーオフが、いまや米経済誌フォーブスが1日当たりの総収入から試算した「世界で最も高価値なスポーツイベント」のランキングで10位の米大リーグ(MLB)・ワールドシリーズ(1億100万ドル=約115億円)を上回る9位(1億600万ドル=約121億円)にランキングされ、米スポーツ専門局ESPNが12年間の放映権料として57億ドル(約6500億円)を支払ったほど。米国では「大学スポーツでビジネスをする」「大学スポーツで大きな金が動く」という文化が、そこまで確立されている。
この「ローズボウル」の例から分かるのは、米国の大学と地域の密接な関係性だ。米国では大学のスポーツイベントが地域の祭りとして認知され、マーケットが広がり、ビジネスチャンスが生まれている。地域を発端にして、国にスポーツ文化が根付いていく一つのきっかけにもなっている。
では日本ではどのような例が考えられるのか?vol.3に続く。
大学スポーツは“無法地帯”か。日本版NCAAが絶対に必要な理由。
文部科学省が、国内の大学スポーツの関連団体を統括する「日本版NCAA」を2018年度中に創設する方針を発表したことはすでにお伝えしたとおり。日本に馴染みのない組織だけに、その必要性がどの程度のものなのか、まだわからない読者の方も多いのではないだろうか。今回は、PROCRIXであり帝京大学准教授(スポーツ科学博士)である大山高氏に、大学で教鞭をとる人間の立場からみた必要性を語っていただいた。
[vol.3] 大学スポーツ改革論、ファン増加の具体案をDeNA初代球団社長に訊く
スポーツ庁による統括組織「一般社団法人大学スポーツ協会」(UNIVAS=ユニバス)の設立を受けた大学スポーツ改革の一環で、国士舘大は10月1日、広く大学のスポーツに関わる諸活動を統括する「国士舘スポーツプロモーションセンター」を発足させた。国士舘大では同組織の発足に伴い、11月12日に勉強会を開催。プロ野球・横浜DeNAベイスターズの初代球団社長でスポーツ庁参与、「ユニバス」の設立準備委員会で主査を務める池田純氏(42)が講師として招かれた。vol.3では日本の大学スポーツにおける、具体的な施策についてフォーカスしていく。
[vol.1] ”UNIVAS”だけでは意味がない、日本版NCAAへの茨の道
国士舘大は10月1日、広く大学のスポーツに関わる諸活動を統括する「国士舘スポーツプロモーションセンター」を発足させた。スポーツ庁による統括組織「一般社団法人大学スポーツ協会」(UNIVAS=ユニバス)の設立を受けた大学スポーツ改革の一環で、今後はブランド力の向上や環境整備、地域連携などを目指していく。国士舘大では同組織の発足に伴い、11月12日に勉強会を開催。プロ野球・横浜DeNAベイスターズの初代球団社長でスポーツ庁参与、「ユニバス」の設立準備委員会で主査を務める池田純氏(42)が講師として招かれた。国士舘大学からの質問に池田氏がひとつひとつ丁寧に答える形で勉強会が実施された。
[特集]日本版NCAAの命運を占う
日本のスポーツ産業、発展の試金石