現在のドイツ代表監督であるナーゲルスマン氏は2016年2月に28歳の若さでホッフェンハイムの監督となり、2019年夏にはライプツィヒの指揮官へと転身。欧州チャンピオンズリーグ(CL)ベスト4入りなどの実績を残した。そして、2021年から同国王者のバイエルン・ミュンヘンで采配を振った気鋭の戦術家である。選手としてのキャリアは短かったが、指導者としてデータを駆使するなど先端技術の導入に積極的であることから「ラップトップ」世代とも呼ばれている。3バックと4バックの布陣を巧みに使い分け、縦に速いサッカーを展開。5レーン理論をさらに細分化した7レーン理論を取り入れたことでも知られる。

 バイエルンの監督を今年3月に解任されたが、9月に代表監督に就任した。記者会見で「来夏にホームで行われる欧州選手権は、私にとって非常に大きな刺激であり、チームにとって大きな挑戦だ。熱意と大きな期待、そして責任感を持ってこの大会に臨む」と固い決意を述べている。ドイツがこの欧州選手権でまたも失態をさらしてしまうようだと、強国の看板は完全に過去のものとなってしまうだろう。

 ドイツの苦悩をあらためて振り返ってみたい。2014年ワールドカップ(W杯)ブラジル大会で、速さと組織力を攻守両面で組み合わせたサッカーで世界一となった。その後も2017年あたりまでは国際試合で堅実な強さを誇っていた(2016年欧州選手権はベスト4。コンフェデレーションズカップも若手主体で臨んで優勝している)。しかし、2018年に入ってから成績は下降線を辿った。相手陣内に押し込んでパスをつなぐスタイルを突き詰めるあまり、ボールを失ってからのカウンター攻撃への対処にもろさを露呈。W杯ロシア大会はメキシコと韓国に敗れて、1勝2敗で同国史上初めて1次リーグ敗退の憂き目に遭った。2006年のW杯後から指揮していたヨアヒム・レーウ監督の長期政権の弊害も指摘された。

 2021年の欧州選手権もベスト16で敗退といいところがなく、レーウ監督は退任。しかし、ハンジ・フリック監督に代わって臨んだ22年W杯カタール大会でも日本に1―2で敗れるなど、1勝1分け1敗で2大会連続の1次リーグ敗退と精彩を欠いた。ドイツ・サッカー連盟はフリック監督を続投させたが、今年9月の親善試合で再び日本に1―4で敗れると、フリック監督を解任。ドイツ代表以上、任期途中の監督の解任は初めてのことだった。14年ブラジル大会まで16大会連続で、W杯ベスト8以上という無類の安定感を誇っていた国が、思いも寄らないような不振にあえいでいるのである。2000年の欧州選手権での失敗(1次リーグ敗退)を機に、ドイツは組織改革や育成改革などに取り組んで、ミュラーやエジルら新世代が台頭して2010年のW杯3位、14年W杯優勝につながったのは有名な話である。しかし、現在のドイツは18年、22年のW杯でつまずき、立ち直れていない。

 代表チームの成績を反映した国際サッカー連盟(FIFA)ランキングも2023年12月時点で16位(日本は17位)にとどまっている。サッカー大国の威信は揺らいでいるが、ドイツの「サッカーの底力」そのものが失われてしまったのだろうか?

国際サッカー連盟(FIFA)ランキング(2023.12月時点)

 クラブでは、2019/20年シーズンにバイエルン・ミュンヘンが欧州チャンピオンズリーグ(CL)を制するなど、欧州でもトップクラスの結果を残している。過去5シーズンの欧州CLなどUEFA(欧州サッカー連盟)主催試合の成績を基にしたクラブランキングでも、ドイツ勢は上位11チームまでにバイエルン、ライプツィヒ、ドルトムントが入っており、他国のクラブと比較しても遜色はない(イングランド勢は4チーム、イタリアが2チーム、スペインは1、フランスは1)。

UEFAクラブランキング

 1次リーグが終わった今季の欧州CLも出場4チーム中、バイエルン、ドルトムント、ライプツィヒの3チームがベスト16入りを果たしている。代表チームの凋落とは裏腹に、クラブレベルでの競争力は落ちていないといって差し支えないだろう。

 ナーゲルスマン監督就任後のドイツは10月に親善試合で米国に3―1で勝利して初陣を飾り、メキシコとは2―2で引き分けた。上々の再スタートかと思われたが、11月にはトルコに2―3、オーストリアに0―2と2連敗。つかみかけていた浮上のきっかけを手放してしまい、2023年の活動を終えた。11月の親善試合を終えたナーゲルスマン監督は「ピッチの外では非常に団結力があるチーム。だが、それをピッチ上に反映させることができていない。それぞれが1人で戦い、自分のことで精いっぱいという感じだ」ともどかしそうに語っている。同時に「私たちはさらに努力しなければならない。選手全員が“偉大なサッカー選手”という考えから脱却しなければ。これからの3か月半は簡単ではない。全力を尽くしてやり遂げなければならない」と、危機感をにじませている。

 年明けの3月にはフランスとオランダとの親善試合が控えており、それを終えると6月の欧州選手権を迎える。これまで優勝3度は大会史上最多タイ(スペインも3度で並ぶ)であるが、1996年大会を最後に遠ざかっている。
大会はミュンヘンやドルトムント、ベルリンなど10会場を舞台に6月14日から7月14日までの1カ月間行われる。ドイツにとっては期待だけでなく、大きな重圧とも向き合う祭典となる。


VictorySportsNews編集部