① メッセージ型
YouTube「セ・リーグ6球団監督のテレビ電話会議」よりコロナ禍が深刻さを増す中で、多くのチーム、選手が始めたのがメッセージの発信だった。2月末からオープン戦が無観客開催になると、当初は球場の大型ビジョンなどにSNSで募ったファンのメッセージを映し出すなど、ファンから選手への激励の形でスタート。その後、3月20日を予定していた公式戦開幕の延期が決まり、外出自粛ムードが高まるとともに、うがいや手洗い励行など感染症対策を選手が動画やSNSを通じて呼び掛ける形に変化。緊急事態宣言が発令された4月7日以降は、「コロナに負けるな!」といった、よりメッセージ性の強い内容へとシフトしていった。
4月7日には、日本野球機構(NPB)の斉藤惇コミッショナーがNPBの公式サイトのトップ画面に「ファンの皆様と一体となって艱難を乗り切り、国民的スポーツであるプロ野球として、歓喜に満ちたパフォーマンスを披露できる日を再び実現すべく努力して参ります」などとする緊急メッセージを掲載。4月30日には、セ・リーグ6球団が、特別協賛社JERAとともにNPBや各球団の公式サイトなどで『セ・リーグ6球団監督のテレビ電話会議』と題した動画を公開した。
最近では競技の垣根を越えた取り組みも増えている。5月2日には横浜DeNAベイスターズ・山崎康晃が発起人となり、同僚の今永昇太、佐野恵太に加え、サッカー界からJ1川崎フロンターレのMF中村憲剛、FW小林悠、湘南ベルマーレのFW岩崎悠人、MF梅崎司、齊藤未月、横浜FCのMF佐藤謙介、FW斉藤光毅、GK六反勇治、バスケットボール界からはB1横浜ビー・コルセアーズの田渡凌、川崎ブレイブサンダースの辻直人が参加して『Power from Kanagawa 神奈川から全国へ』と題した動画を公開。「神奈川のアスリートから全国にエネルギーを」と呼び掛けている。
② 動画コンテンツ型
横浜DeNAベイスターズ公式YouTube「ツーシームの極意 〜THE ART OF TWO-SEAM~」より次第に増えていったのが、純粋に動画コンテンツとして「楽しんでもらう」ことにこだわった、いわば“YouTube時代”ならではの企画だ。緊急事態宣言による外出自粛が長引く中で、どうしても沈みがちになる人たちを何とか喜ばせたいとの思いが、そこに表れている。
ここで目立つのがDeNAだ。球界に参入した2012年シーズンから、ベンチの裏側までカメラが密着する「ダグアウトの向こう」「FOR REAL」という異色のドキュメンタリー映像作品を制作するなど、DeNAは映像演出に長けることで知られるが、今回の状況にも「カメラで撮られることに抵抗感が少ない選手が多い」(球団関係者)ことで、いち早く対応できたという。
まず、4月8日に球団公式SNSで公開されたのがファンに不要不急の外出自粛を呼び掛ける特別映像『STAY HOME.STAY SAFE.』。今永昇太投手が料理、乙坂智外野手が自慢の猫を紹介するなど、プライベートが垣間見える選手自身による自撮り映像をまとめたもので、そのクオリティーの高さが注目を集めた。
さらに話題を呼んだのが、山崎が同僚にテレビ電話でインタビューする『突撃!ヤスアキマイク~みんなお家でなにしてんの?~』。山崎の見事な司会ぶりや、テレビでもなかなかない選手同士の軽妙な掛け合いが見られるとあって、4月21日に第1弾の「今永編」が公開されると、30分近い“大作”ながら2週間で15万再生を突破するほどの人気と得ている。
極めつけは、高性能カメラで撮影した投手の決め球のスーパースロー映像と、その投手による解説動画。第3弾の「ツーシーム」では山崎本人が「真っすぐと同じ感覚で投げるのが僕のポイントです。あくまでも落とそうとしない。リリースでしっかり指にかける感覚で投げています」などと投げ方の極意を披露。ほか「浜口のチェンジアップ」「平良のスライダー」も配信され、いわば“企業秘密”を惜しげもなく公開する内容が話題を呼んでいる。
そんなDeNAの動きに負けじと、各球団もコンテンツ系企画の配信に力を入れ始めた。埼玉西武ライオンズは、球団の管理栄養士が監修し、企業のタイアップも付けた『ライオンズレシピ』を球団公式サイトや公式ツイッターなどで公開。福岡ソフトバンクホークスは「お家でスタ飯」と題して球団公式YouTubeチャンネルでスタジアムグルメのレシピを配信。「高橋礼麺(冷麺)」「千賀投手のヒット無シゴレン」など選手にちなんだメニューを紹介している。また、西武は「とんとん相撲」や「クロスワードパズル」のデータ配信など、子供を意識したコンテンツが多いのも特徴だ。
③ レクチャー型
千葉ロッテマリーンズ公式YouTube「佐々木朗希投手も実践している家でも出来る簡単トレーニング」その1よりもう一つ、増えているのが人気選手が自宅でできる練習メニューやトレーニング法を紹介する動画だ。特に注目されているのが千葉ロッテマリーンズ。球団公式サイトで「佐々木朗希投手も実践している家でも出来る簡単トレーニング」として、ドラフト1位新人の佐々木が出演するストレッチなどのトレーニング動画を公開し、剛速球を生み出す元にもなっている佐々木の脅威の柔軟性に驚くファンが続出している。中日ドラゴンズは、球団マスコットのドアラが運動不足解消に役立つダンスを紹介する動画をSNSで発信している。
このドラフト1位の注目選手と球団の人気マスコットをともに登場させて人気を得ているのが東京ヤクルトスワローズが球団公式YouTubeで公開した「つば九郎&奥川投手の遊びながらできる練習法!」シリーズ。2人(1人と1羽?)が野球の練習にもつながるという4つの種目(紙コップ投げ、めんこ、紙鉄砲、コマ)で対戦するもので、中でも第1弾の「紙コップ投げ」(積み上げた21個の紙コップを5投で倒した数を競うもの)は公開1週間で7万再生を突破する人気となり、「#紙コップチャレンジ」のハッシュタグとともにファンにもチャレンジ動画の投稿を募るなど企画化されている。
さらに、少し変わったところでは北海道日本ハムファイターズの栗山監督による「寺子屋ファイターズ」なるものも。「本は頭の食事」という栗山監督は、趣味の読書を活かした“オンライン講座”を球団公式YouTubeにアップ。3月5日公開の第1弾「論語」から始まり、「孫子の兵法」「自助論」などを独自の視点で解説している。東京学芸大教育学部出身で、小中高の教員免許を持つだけに「教え方が上手い」「さすが」「これがプロ野球球団の動画って凄いな」などの声がコメント欄には並んでいる。
④ ファン参加型
読売ジャイアンツ 公式インスタグラム「インスタライブ Q&A 炭谷銀仁朗選手・菅野智之投手」より当初は球団公式SNSも“通常運転”が続くなど、あまり目立った動きがなかった読売ジャイアンツだが、4月24日に「WITH FANS」プロジェクトを始動させると、次々と新企画を展開した。特に、大型連休中に話題を呼んだのが、球団公式インスタグラム上で行ったファンとのオンライン交流会『インスタライブ Q&A』。2人の選手が登場してファンの質問などに生配信で答えるもので、4月29日の坂本勇人選手、亀井義行選手による第2弾は約2万7000人が視聴。YouTube版は5日間で22万再生を突破する大人気企画となった。
オリックスバファローズはダンス動画やチームをテーマにした川柳を募集。ロッテは球団公式インスタグラム上で質問を募って井口監督や選手が答える企画を展開するなど、各球団ともファンとの交流の機会、接点を何とかつくろうと工夫している。
⑤ アーカイブ型
過去の試合映像などを公開する球団も多い。巨人は「WITH FANS」プロジェクトの一環で日本テレビの全面協力を得て「ジャイアンツLIVEストリーム」などで過去の名試合を無料で疑似ライブ配信する企画を実施。4月29日には長嶋茂雄氏の引退試合となった1974年10月14日の巨人-中日が配信された。
もちろん、これだけにとどまらず、まだまだ楽しく、味わい深い企画がたくさん提供されている。閉塞感の強まる中でも人々を喜ばせ、元気づけることができるのがアスリート。ソーシャルディスタンスの確保が叫ばれる中、プロ野球のみならず多くのスポーツ選手やチームが持てる発信力を発揮し、ファンとの心の距離を縮めようと懸命に取り組んでいる。
【独断と偏見で選ぶ「オススメ動画ベスト5」】
☆DeNA 「突撃!ヤスアキマイク」「投手決め球解説」(球団公式YouTubeチャンネル)
☆巨人 「インスタQ&A」(球団公式インスタグラム)
☆ロッテ「佐々木朗希投手も実践している家でもできる簡単トレーニング」(球団公式YouTubeチャンネル)
☆ヤクルト「つば九郎&奥川投手による遊びながらできる練習法!」(球団公式YouTubeチャンネル)
☆日本ハム「寺子屋ファイターズ」(球団公式YouTubeチャンネル)