「これも一つの大きな経験」白石選手はどのように怪我と向き合ったか

一昨シーズンはどのようなシーズンでしたか?

白石:いろいろな経験があり、苦しいシーズンでした。

一どのような経験をしましたか?

白石:長期的な怪我や、去年、世界陸上でメダルを取ってから注目されるようになったことが新しい経験でした。

一ハムストリングの筋膜炎から始まって、怪我を抱えた年だったと思いますが、その怪我とどのように向き合って過ごされていましたか?

白石:思い通りにいかない時は、自分のメンタルをコントロールするのが難しかったですが、高いモチベーションを持って乗り越えようと思っていました。走れなくて、苦しい時期もありましたが、他のことに目を向けて、これも一つの大きな経験というように、ポジティブな考えに改めました。オリンピックは来年になったので、そこに向けてこの怪我を乗り越えて、一回りも二回りも強くなって来年を迎えようと考えています。

一実際にポジティブに考えるのは難しいと思いますが、どのように消化してポジティブに捉えることができましたか?

白石:競技をする上で、結果が出ていない時に焦りが出ますが、結果は関係なく、自分が競技に対してどれだけ真剣に取り組めているか、自分がいかに楽しく走れるかという、結果よりも大事なものをベースにしようと思っています。タイムや順位を気にせず走るようになってから、ポジティブな気持ちに変わっていきました。

一タイムや順位よりも楽しむという方向に変わったイメージですか?

白石:変わったというより、戻ったという感じですね。去年メダルを取ってから、結果にこだわってしまい、怪我をしていても結果を出さないといけないと思っていて。結局、無理をすることもあり、すべてがマイナスの方向に向かってしまっていました。そんな中で、自分がなぜ陸上を始めたのかということを考える時間も多かったので、本来の自分に帰り着くことができました。

一実際に帰り着いて今の心境はいかがですか?

白石:本当に練習が楽しいですし、みんなと走れることが幸せです。怪我も良くなって、普通に走れるようになりました。今は、「タイムや順位ではなく、自分がやるべき練習を楽しんでやる」という気持ちでやっているので、去年の同じ時期から考えると、信じられないくらい楽しくやっています。

一そのような考えを持つことができると、スランプでも前に進めそうですね。

白石:そうですね。なってしまったことは仕方ないので、自分の目標や目指している場所をうまく置き換えることで、ポジティブに考えられるのではないかと思います。

怪我をしてから取り入れた新たなトレーニング

一怪我をしたことで、いろいろな視点を持つことができたとお聞きしましたが、具体的に教えてください。
白石:自分が今まで気にしていなかった、走る以外での体の使い方をトレーニングする方法がたくさんあったので、新しく取り入れてみようと思いました。トレーニングの視野が広がりましたね。

一今までは比較的決まった練習をされていましたか?
白石:そうですね。今まではTHE陸上競技というような、ランニングトレーニング、ウエイトトレーニング、体幹トレーニングだけでした。でも今は、ボクシングなど、他のスポーツからも体の動かし方を学んでいます。

一他のスポーツをトレーニングに取り入れると決めた、きっかけはありましたか?
白石:コーチがボクシングをやっていて、ボクシングをすると体の使い方が良くなると聞いたので、キックボクシングを始めました。走るだけだと面白くなくて、どうせトレーニングするなら、いろいろな角度からアプローチしていきたいなと思ったのがきっかけです。例えばサッカーでは、僕は左足がまったく使えなかったので、左足だけでリフティング練習をしました。それをすることによって、左足がうまく使えるようになって、陸上の怪我も減ってくるだろうし、左足の接地の強さも変わってくると思っています。

一新しいことを取り入れてからどのくらいですか?
白石:1カ月くらいです。まずは怪我を治すことを意識していたので、治ってから新しいことに挑戦し始めました。

一今、怪我は完治していますか?
白石:問題なく練習できています。

一1カ月新しい取り組みをされて、変わってきたという実感はありますか。
白石:まだそんなにないですが、何よりも楽しいです。

一プロの方から楽しいというお言葉を聞けるのは新鮮です。
白石:違う角度からアプローチをしているので、僕は良い方に転ぶようにしか考えていないですが、うまくいかなかったらまた新しい方法を見つけられたらいいなと思っています。第一人者になってやろうと思っています。

一周りの方で練習を楽しんでいる方はいらっしゃいますか?
白石:動画など見ていると、走るのがきついと言っている人は多いですね。

「走りたくないな」怪我をした時の心境とそれからの変化

一怪我をされた時の状況を教えてください。
白石:コロナウイルスの期間中は練習環境が限られてしまって、コンクリートの上を走る機会が多くなっていました。自粛明けてトラックで走った時に、すぐスピードを出してしまい、トラックの反発に足底が耐え切れずに痛めてしまいました。3日休んで、少し痛みがある程度だったので、7月頭の試合に無理をして出場しました。その試合の時の社会状況も、コロナウイルスの第2波が来ていて、また緊急事態宣言が出されるのではないかという状況だったので、これを逃すと1年以上試合に出られないかもしれないと思って焦ってしまったのもあります。

一強硬的に試合に出場したことによって悪化してしまったのですね。
白石:最初の段階でしっかり休んで治すべきでしたが、様々な状況もあったので、無理をしてしまいました。

一メンタル面が未熟だったと感じることはありましたか?
白石:怪我をしても出場することに対して、止める勇気がなかったり、練習ができていないから結果が出ないのではないかと思ってしまったり、オリンピックが来年になったことに対して、去年の結果より今年の結果が悪かったら情けないと思ってしまったり。トップの選手だったら出場しないという決断ができると思いますが、僕はそのような勇気がなくて、自分を信じ切れませんでした。すべてにおいて今年は未熟でしたね。

一怪我と向き合う日々の心境を教えてください。
白石:正直に言うと、走りたくありませんでした。僕にもプライドがあったので、練習できていないから結果が出ないのは当たり前なのですが、後ろの順位で走ることが嫌でしたね。去年は先頭争いしていたのに、負けるはずのない人たちに負けてしまうのが、恥ずかしいと思っていました。動画にも上がってしまうので、いろいろな人からの「あいつは遊んでいるから結果が出ない」という声が聞こえてしまったりいて、走りたくないなと思ってしまいました。

一ファンの方に助けられましたか?
白石:自分が間違っていたと思いました。自分が一番結果を求めすぎていて、自分で自分を追い込んでいたのだと気づかせていただきました。応援してくれる方々には、「結果を出さないと見放されるのではないか」と思っていましたが、まったく違いましたね。僕がSNSで試合の結果を載せるたびに、コメントやDMで「結果を気にせず、楽しく走っている白石選手が大好きです」とか「応援しています」というようなコメントを多くいただいて、改めてその言葉に救われました。

一ファンの方々のメッセージを確認されているのですね。
白石:投稿した後に来るので、試合が終わった後に見ています。

一怪我やメンタルでなかなか思うようにプレーできない学生アスリートに向けて、アドバイスがあれば、お願いします。
白石:視野を広く持つことです。怪我をしていると怪我だけにとらわれがちなので、自分で新しい競技の楽しみ方や目標を設定していくことが大事だと思います。あとは、身の回りのことに気を遣うと良いと思います。例えば、生活習慣とか、人との関わりなどですね。怪我をするといろいろな方が声をかけてくれると思うので、その人たちの話に耳を傾けると良いと思います。本を読むことによっても、自分になかった考え方を取り入れてみたら変わると思います。僕もいろいろな人の言葉に救われてきたので、人との関わりは大事だと思います。

一どのような本を読みましたか。
白石:大迫傑選手、長谷部選手、長友選手の本などを読んでいました。他にもメンタルコントロールの本を読みましたね。本だけでなく、アスリートの声はとても響きました。武井壮さんに「やることやって最高の人生にしようぜ」と言われたことがとても響きました。無駄な時間を過ごすより、自分ができることをたくさんやって、自分にいろいろな知識やスキルをつけて、良い人生にしたいなと思いました。

一人との関わりで学んだことを教えていただけますか?
白石:今までの僕は、自信に満ち溢れていましたが、その自信が、逆に自分が正しいと思いすぎるマインドになってしまっていました。例えばコーチが何か言ってくれても、「いや、でも」と返してしまうことが多く、素直さや謙虚な心が欠けていました。でも、一番大事なことは、自分の周りの人たちを信用することだと思います。周りの人の意見を聞いて、新たな自分を作っていくことを意識しています。

「やるべきことができれば、進化できる」今後の目標

一冬季が楽しみだとお兄様にお話されていたとお聞きしましたが、今はどのようなお気持ちですか?
白石:怪我で練習があまりできなかったので、練習ができるのが楽しみという気持ちと、今シーズンの課題がたくさんあるので、それをいろいろな角度からアプローチしていって、進化した自分が見られるのが楽しみです。

一新しい自分に出会えると感じる理由はありますか?
白石:昔から、自分は絶対足が速くなれると思っています。高校時代や大学時代から日本一になれると考えてやってきているので、自信があります。あとは、やるべきことが明確にあるというのが大きな理由ですね。次何をして速くなろうかと考えるのではなく、これをすれば速くなれるという状況なので明確なビジョンがあります。今年怪我したとはいえ、サードベストくらいで走れているので、自分の感覚を取り戻して、やるべきことができれば、進化できると信じています。

一ファンの方に向けて、来シーズンの目標を教えてください。
白石:世界で勝負したいという思いが、去年の世界陸上から強くなっているので、個人種目でファイナル進出とリレーで金メダルという目標を掲げて頑張っていきたいと思います。

白石黄良々選手にビデオメッセージをリクエストしよう!

憧れの選手から『あなただけ』に向けた完全オリジナルメッセージが届きます。ファンの方のリクエストをもとに、1つずつビデオレターを撮影いたします。(一本およそ60秒程度です。)特に、下記のようなリクエストが集まっております。

『毎日頑張る子どもにメッセージを贈りたい!』
『友人の誕生日にメッセージを贈ってあげたい!』
『大事な試合に向けて、自分のことを鼓舞してほしい!』

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VictorySportsNews編集部