2024年シーズンから適用される新ルール、大きく分けて下記の3点が前年度と異なる点に当たる。
・新基準のバットに完全移行
・「投手の投球姿勢」と 「反則投球の取り扱い」の削除
・タイムの制限
さらなる打撃技術が求められる低反発バット
まず1点目は新バットへの完全移行である。高野連は2022年2月、新基準の金属製バットを導入すると発表。2022年シーズンから2年間を移行期間とし、今年度より完全導入される。よって、昨年までの規定の金属製バットは使用できなくなる。では、従来の金属製バットと新基準の金属製バットはどのような違いがあるのだろうか。まずは、バットのサイズである。従来のバットは最大径が67mmなのに対し、新基準のバットは64mmと、バットが細くなっている。次に、バットを断面にした際、打球部の金属部分が約3mmから約4mmへと肉厚になった。重量は900グラムと従来と変わりないが、『細く』『厚く』なったことで、トランポリン効果を減衰。反発機能を抑制した、低反発の『飛ばない』バットへと変わるのだ。
移行期間の23年3月、高野連はホームページ内に新基準の金属製バットについての解説動画を公開。「打撃時に投球とバットが衝突する際、約3トンの衝撃が生じると言われています。その衝撃によりバットがへこむ現象をトランポリン効果と呼びます。ボールが打撃によって3トンの力をまともに受けて変形すると、元の状態に復元する際、エネルギーロスが発生して、飛距離が減衰するといわれています。したがって理論上はボールをバットで優しく受け止めて、強く弾き出すと打球の勢いが増すということです。逆に今回の新基準バットは、打球部を細く肉厚にすることでトランポリン効果を減衰させて、反発を低下させるというものです」とトランポリン効果による減衰が違いにあたると説明している。また、効果に関しては「以前、全国大会で事故が発生した映像をもとに分析した結果、打点から投手が打球を受けるまでの距離は15.84mでした。この距離をもとに、打球初速を比較すると、新基準バットでは約3.6%減少していることがわかりました」と解説されている。高野連は新基準の金属製バットの導入目的を「打球による負傷事故防止(主に投手)」、「投手の負担軽減によるケガ防止」の2点としている。低反発のバットが導入されることで、ピッチャーライナーなどでの投手負傷の防止、また打球速度を抑えることで投手の負担が軽減されるなどの効果が見込まれている。
同動画では、2020年からU18日本代表の監督を務め、昨夏の「第31回 WBSC U-18 ベースボールワールドカップ」では日本代表を世界一へと導いた明徳義塾高(高知)の馬淵史郎監督が新バットのポイントを解説。「本当の芯じゃなかったらボールは飛ばないと思いますね。以前のバットだったらちょっと芯を外れても、外野の頭を超えるような打球もあったんですけど、やっぱりしっかりした打ち方で芯で捉えないとボールは飛んでいかないと感じています。打球の初速がずいぶん遅いかなと。0コンマ何秒の世界だと思うんですけど、初速の遅さからいえば以前の火の出るようなあたり、当然芯に当たればそういう打球も飛ぶんでしょうけど、確率的には非常に少なくなるんじゃないかなと思っています。ケガも少なくなるんじゃないか」と見解を述べている。
新バットに移行することは、投手の打球事故防止や負担軽減につながると考えられるが、これまでよりも木製バットに近づくことで飛び方や打球速度が変わるなど、打者には大きな影響が出てきそうだ。だが、馬淵監督は「下半身をしっかり鍛えて、下から順番通りに打ってヘッドを返すというような打ち方を学ばないと。ただ振るだけではなくバッティングのメカニズムをしっかり頭に入れて、それに向かって練習していく、今後の野球には繋がる」とした。
投手の球威、球速アップに期待
2点目は「投手の投球姿勢」と「反則投球の取り扱い」の削除である。2023年度までは「投手の投球姿勢」において、次の通りとされていたが、削除された。
・ワインドアップポジション
① 投手は、打者に面して立ち、軸足は投手板に触れて置き、他の足の置き場所には制限はない。ただし、他の足を投手板から離して置くときは、足全体を投手板の前縁の延長線より前に置くことはできない。
② このように足を置いてボールを両手で身体の前方に保持すれば、ワインドアップポジションをとったとみなされる。
・セットポジション
① 投手は、打者に面して立ち、軸足は投手板に触れて置き、他の足を投手板の前方に置き、ボールを両手で身体の前方に保持して、完全に動作を静止したとき、セットポジションをとったとみなされる。
② セットポジションをとった投手は、走者が塁にいない場合でも、必ず完全に動作を静止すること。
また、反則投球の扱いについては下記の3点が適用されていたが、同じく削除された。
・投手がワインドアップポジションおよびセットポジションに規定された投球動作に違反して投球した場合(投球動作をスムーズに行わず、ことさら段階をつける動作も含む)―高校野球特別規則
・ 投手が投手板に触れないで投げた打者への投球
・クイックリターンピッチ
反則投球した場合は、その投球にボールを宣告する。ただし、安打、失策、四球、死球、その他で一塁に達した場合は除く。塁に走者がいる場合は、ボークである。
これらが削除されたことにより、いわゆる二段モーションが今年度より解禁されることになった。高野連は改正理由に関して「相応の期間が経過したことに加え、昨今のテクノロジーの進化で、大学・社会人・プロをはじめとした他の上位カテゴリーの投手の投球フォームを参考にする投手が増えています。高校野球においても、投手の投球姿勢を公認野球規則通りとしました」と説明している。
これまでは「当初、高校野球は裾野が広く、また、主大会がトーナメント方式であり、打者が初めて対戦する投手が多い」といった理由から投球姿勢に制限を設けられていたが、今年度より、二段モーションの解禁が決定。これにより、投手は軸足に体重をしっかりと溜めてから体重移動を行うことで、よりタメを作って投げることが可能となる。すなわち、よりボールに力が伝えやすくなることで強いボールを投げることができ、球速や球威がアップすると考えられる。打者目線からすればタイミングが取りにくくなるが、投手のレベルアップにはつながるといえる。
世界中で導入が進む“時短ルール”が高校野球でも
3点目は「タイムの制限」に関して変更点があった。今年度より、「内野手(捕手を含む)が投手のもとへ行ける回数を、1イニングにつき1回1人だけとする」というルールが追加された。(投手が交代したときは、この限りではなく、投手のもとへ行った回数には数えない、伝令が投手のもとに行ったときは内野手(捕手を含む)が投手のもとへ行った回数に数えない、タイブレークに入った場合も同様とするとある)
高野連は「当該規則の主たる目的は試合のスピードアップを図ること」と説明し、試合の進行をスムーズにするために本ルールを採用。「高校野球の魅力の一つは、時間制限のないスポーツの中でもスピーディーな試合運びで、その一投一打が、選手たちの成長や感動を野球ファンに与えてくれていることです。しかし近年、内野手(捕手を含む)が投手のもとへ頻繁に行くケースが散見されるようになりました。MLBはじめNPB、アマチュア野球界も試合時間短縮、ボールゲームの原点回帰に向かっています。高校野球においても、その原点回帰の視点に立ち本規則改正とし、社会人・大学野球と同じ運用にすることとしました」と変更理由を解説した。
昨年は3月のWBCで侍ジャパンが世界一を成し遂げただけでなく、U18はW杯初制覇、大学代表は日米大学野球選手権大会で米国を下して優勝、社会人代表はアジア選手権で頂点に輝くなど、各世代が国内だけでなく世界を舞台に躍動を続けている。でもなお、進化を遂げるべく、近年ルールや規定が改定されている。怪我の防止やレベルの向上につながる新ルールが、今後の野球界にどのような影響をもたらすのか。野球を楽しむだけでなく違った視点で見ることで、さらなる面白さを見い出せるかもしれない。